コロナ禍にもかかわらず、首都圏のマンション価格がバブル期を追い抜いて過去最高になった。リモートワークの普及で脱都心が進むとか、東京五輪閉幕後の価格暴落は確実とも言われたが、どっこい高騰が続く。価格高騰にもかかわらず、旺盛な需要を支えるのは夫婦共稼ぎで高収入のパワーカップルだ。この「パワーカップル特需」に落とし穴はないのか?
不動産経済研究所の調査によると、東京・神奈川・千葉・埼玉の1都3県のマンション価格は平均で6750万円とバブル期だった1990年を超えて過去最高となった。前年同月から620万円、10.1%ほど値上がりしている。なぜ、値上がりが続くのか?
注目すべきは買い手だ。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行以前は、中国人による不動産投資が東京湾岸地区の新築タワーマンションなどに集中し、価格を押し上げたとも言われている。しかし、コロナ禍の影響で中国人投資家が来日して物件を確かめるのが難しくなったり、商談がやりにくくなったりした。
代わって新築マンションの買い手となったのは、夫婦ともに高所得の共稼ぎ世帯、いわゆる「パワーカップル」だ。30代で年収1000万円であれば、世帯年収は2000万円。住宅金融支援機構の「フラット35利用者調査」によれば、住宅購入金額の目安は年収の5〜7倍という。
世帯年収2000万円であれば、1億から1億4000万円の物件が購入できる計算だ。平均価格の6740万円は年収の約3年分にすぎず、パワーカップルにとっては「お安い買い物」なのだ。さらに歴史的な低金利と、有利な税制も追い風となる。
現在の住宅ローン控除は残高の1%に相当する所得税・住民税を還付または減額している。変動金利ならば1%を下回り、「借り得」になるケースも。マンション価格は高騰しているが、1990年の住宅ローン金利は都市銀行の変動金利が約8.5%、住宅金融公庫の基準金利が約5.5%だったので、支払総額や月々の返済金額は安い。
さらに不動産投資と違い、実際にオーナーが暮らす「実需」であることも大きい。35年ローンの場合は同じ6750万円の物件でも、月々のローン支払額は1990年(金利5.5%)は36万2485円だが、現在(同1.08%)では19万3069円と半額近い。家賃として考えれば年間230万円と、年収の11.5%で抑えられる計算だ。同一条件の賃貸マンションに入居するよりも安上がりになる。不動産を持たない首都圏のパワーカップルが「買い」に走るのも当然だ。
投資でなく実需、しかも低金利となると、首都圏のマンションバブルは安全に見える。しかし、現実にはリスクもある。最大の懸念材料は雇用リスクだ。かつては企業業績が悪化した時に50代以降の社員が対象になるケースがほとんどだったが、最近は業績がそれほど悪くなくてもリストラを断行する企業が増えている。
サントリーホールディングスの新浪剛史社長が「45歳定年制」に言及して話題になった。役員候補ではなく、システム開発などの専門知識を持たない40代後半より年上の社員は全員がリストラ対象になるだろう。パワーカップルの場合、夫婦のどちらかがリストラされ、再就職に成功したとしても年収ダウンすればローン負担は重くなる。
ただ、住宅バブルの崩壊がマンション業者や金融機関を苦しめることはないだろう。マンション業者は新築物件の供給を絞っている。これは意図的ではなく、都心のマンション用地確保が難しくなったことや建設労働者不足といった物理的な制約による。今年10月の販売戸数は前年同月比38.8%減の2055戸にとどまった。
結果的にそれが新築マンションの価格下落を防いでいる。「即日完売」物件も多く、バブル崩壊時のように大量在庫を抱えて経営危機に追い込まれる建設業者は少ないはずだ。
一方、金融機関は仮にマンション購入者がローン返済に行き詰まっても、首都圏とりわけ都心のマンションはリセールバリューが高い。傷は浅いだろう。首都圏マンションバブル崩壊で「大やけど」を負うのは購入者だけになりそうだ。
文:M&A Online編集部