2020年のTOB(株式公開買い付け)件数は公告(届け出)ベースで前年比14件増の60件となり、2013年(56件)以来7年ぶりの多さだった。件数の伸びもさることながら、「新型コロナ」下、内容的にも変化に富んだ1年だった。
その一つは敵対的TOBの増加だ。年間5件を数え、2007年と並ぶ13年ぶりの高水準となった。口火を切ったのは道路舗装大手の前田道路に対する前田建設工業の一件。社名から分かるように、両社は“身内”の間柄。前田建設は弟分である前田道路の子会社化を目指したが、前田道路が猛然と反対し、2020年の年明け早々から敵対的TOBが勃発したのだ。
5件のうち、旧村上ファンド系投資会社は東芝機械(現芝浦機械)、京阪神ビルディングの2件に絡んだ。外食大手のコロワイドが定食チェーンの大戸屋ホールディングスに仕掛けた案件は世間の関心を呼んだ。残る澤田ホールディングスの案件は2020年2月以来、20回以上延長が繰り返され、年明け後も継続中という前代未聞の展開となっている。
対象企業の賛同を得ずに行われる敵対的TOBは2007年をピークに以降、年に1件あるかどうかで推移。ところが、2019年に3件と再び動意づいた。象徴的な出来事がスポーツ用品大手のデサントを標的にした伊藤忠商事の案件だ。大手企業同士では2006年の「王子製紙VS北越製紙事件」以来とあって、敵対的TOBが改めてクローズアップされた。
もう一つの注目点はMBO(経営陣による買収)。2020年は年間11件と、2011年(21件)以来9年ぶりに2ケタに乗せた。いずれも株式の非公開化を目的とし、上場企業の看板を返上する決断だ。MBOは2012年、2013年が各9件、以降は5件前後だったが、にわかに息を吹き返した。
見逃せない変化は投資ファンドが介在するケースが増えたこと。2013年は9件中1件だったが、2020年は11件中5件に上った。ニチイ学館、キリン堂ホールディングス、日本アジアグループは米投資ファンド、豆蔵ホールディングス、総合メディカルホールディングスでは国内投資ファンドが関与した。従来はMBO資金を銀行借り入れで賄うのが主流だったが、最近は投資ファンドと組むパターンが優勢だ。
NTTによるNTTドコモの完全子会社化は国内TOBとして初の1兆円超えとなった。コーポレート・ガバナンス(企業統治)上、問題点が指摘される親子上場の解消が狙いの一つだが、その額は3兆1780億円(非応募株を含めた買収総額は約4.2兆円)と空前の規模に達した。
実は、2位の昭和電工による日立化成(2020年10月に昭和電工マテリアルズに社名変更)のTOBは完了時点(2020年4月)で国内案件として過去最大だったが、これをドコモに対するNTTの案件(11月完了)がいとも簡単に上回った。
◎2020年TOB:買付総額ランキング上位10
対象企業 | 公開買付者 | 買付総額 | 買付後の出資比率 | |
1 | NTTドコモ | NTT | 3兆1785億円 | 91.46% |
2 | 日立化成 | 昭和電工 | 8445億円 | 87.61% |
3 | 日立ハイテク | 日立製作所 | 4271億円 | 90.55% |
4 | ソニーフィナンシャルHD | ソニー | 3215億円 | 93.46% |
5 | ファミリーマート | 伊藤忠商事 | 1817億円 | 65.71% |
6 | 島忠 | ニトリHD | 1650億円 | 77.04% |
7 | LINE | ソフトバンク | 1591億円 | 79.27% |
8 | ショーワ | ホンダ | 1024億円 | 92.13% |
9 | ケーヒン | ホンダ | 1004億円 | 93.57% |
10 | 前田道路 | 前田建設工業 | 861億円 | 51.29% |
※HDはホールディングスの略
文:M&A Online編集部