2022年のTOB(株式公開買い付け)件数は59件と前年を11件下回り、4年ぶりに減少した。10月までは12年ぶりの高水準を記録した2021年(年間70件)と並ぶハイペースで推移していたが、その後、年末にかけて勢いを欠いた。前年5件あった敵対的TOBも6年ぶりにゼロに終わった。こうした中、「公開買付代理人」の座を巡る争いはどうだったのか?
公開買付代理人はTOBへの応募を受け付ける窓口証券会社。買収者(公開買付者)に代わって、買収対象会社の株券の保管・返還や買付代金の支払いになどに関する事務を担う。TOBに応募する株主は代理人の証券会社に口座を開設し、株式を移管する手続きが必要になる。
2022年の代理人レースを制したのはSMBC日興証券。日立物流、シノケングループ、キトー、住友精密工業など14件で代理人を務め、2021年(20件)から2年連続でトップに立った。なかでも買付総額が3820億円に上った日立物流は2022年のTOBで最大案件だった。SMBC日興証券は相場操縦事件を受け、信頼回復が急務になっているが、代理人レースでの健闘が光った形だ。
2位は大和証券の11件で、前年の6件(不成立1件を含む)からほぼ倍増した。ただ、2017年以来5年ぶりのトップ返り咲きはならなかった。同社が代理人を務めた案件のうち、海洋土木大手の東洋建設に対するインフロニア・ホールディングスのTOBは買付総額が最大580億円に上る大型案件だったが、2022年の全59件のTOBで唯一、不成立に終わった。
◎公開買付代理人の証券会社別の推移(届け出ベース、復代理人はカウントせず)M&A Online編集部調べ
2017年 | 2018年 | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | |
TOB総件数 | 46 | 42 | 46 | 60 | 70 | 59 |
SMBC日興証券 | 9 | 6 | 7 | 8 | 20 | 14 |
大和証券 | 11 | 8 | 9 | 5 | 6 | 11 |
野村証券 | 8 | 11 | 13 | 21 | 10 | 7 |
三菱UFJモルガン・スタンレー証券 | 3 | 2 | 2 | 7 | 5 | 7 |
みずほ証券 | 5 | 9 | 7 | 12 | 11 | 7 |
三田証券 |
3 | 3 |
3 |
4 |
8 |
6 |
SBI証券 | 0 | 1 | 0 | 1 | 4 | 3 |
東海東京証券 |
5 | 1 |
2 |
0 |
3 |
3 |
その他証券 |
2 | 1 |
3 |
2 |
3 |
1 |
3位は野村証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、みずほ証券の3社が7件で並んだ。野村証券は2020年まで3年連続でトップだったが、この2年は件数を大幅に落としている。みずほ証券は3年連続の二ケタに及ばなかった。
一方、三菱UFJは大型案件への食い込みが目立った。2022年の買付総額上位10のうち、2位の日立金属(現プロテリアル)、4位のATグループ、5位のユーザベース、6位のプレナスの4案件で代理人を務めた。
◎2022年TOB・買付総額上位10(HDはホールディングスの略)
対象企業 |
公開買付者 |
買付総額 |
買付代理人 |
|
1 |
日立物流 |
米KKR |
3820億円 |
SMBC日興 |
2 |
日立金属 |
米ベインキャピタル |
3319億円 |
三菱UFJ |
3 |
近鉄エクスプレス |
近鉄グループHD |
1443億円 |
野村 |
4 |
ATグループ |
経営陣(MBO) |
797億円 |
三菱UFJ |
5 |
ユーザベース |
米カーライル・グループ |
536億円 |
三菱UFJ |
6 |
プレナス |
経営陣(MBO) |
489億円 |
三菱UFJ |
7 |
シノケングループ |
経営陣(MBO) |
487億円 |
SMBC日興 |
8 |
キトー |
米KKR |
433億円 |
SMBC日興 |
9 |
アイペットHD |
第一生命HD |
387億円 |
みずほ |
10 |
ALBERT |
アクセンチュア |
382億円 |
みずほ |
大手勢に迫ったのは6件の三田証券。三田は対象会社の賛同を得ずに行われる敵対的TOBでの起用が多いことで知られるが、2022年は敵対的案件かどうかにかかわらず、件数を伸ばした。
三田が代理人を務めた6件うち、食品宅配大手のオイシックス・ラ・大地が8月末に始めた給食大手のシダックスに対するTOBはシダックス取締役会の反対で一時、敵対的TOBに発展。しかし、シダックスが反対を取り下げ、「敵対的」状況が解消された経緯がある。
敵対的TOBは2020年、2021年に各5件と最多タイが2年連続していたが、2022年は一転してゼロとなった。三田証券は2020年3件、2021年4件の敵対的案件で代理人を務めていた。
全59件のTOBのうちMBO(経営陣による買収)で株式を非公開化する案件は12件(2021年19件)。このうちSMBC日興は鴨川グランドホテル、トライステージ、シノケングループ、アイ・テックの4件で代理人を務め、MBO関連でも強みを発揮した。
文:M&A Online編集部