今年のTOB、12年ぶりのハイペース|「敵対的」早くも前年に並ぶ

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東京製綱に対して敵対的TOBを仕掛けた日本製鉄

2021年のTOB(株式公開買い付け)が活発に推移している。1~5月の件数(届出ベース)は36件を数え、前年同期(21件)を約7割上回るハイペースだ。なかでもMBO(経営陣による買収)関連がすでに10件と前年の年間11件に迫っている。

また、対象企業の賛同を得ずに行われる敵対的TOBが5件と早くも前年に並び、波乱含みの様相も呈する。

12年ぶりに年間80件に迫る勢い

2020年のTOBは前年比14件増の60件で、過去10年間で最多だった。昨年来の増勢は今年に入っても続いており、このままのペースでいけば、2009年(79件)以来12年ぶりに年間80件に迫る公算が大きい。

牽引役となっているのがMBO。2020年は年間11件と2011年(21件)以来9年ぶりに2ケタに乗せたが、今年は5月中に10件に到達した。いずれも株式の非公開化によって上場企業の看板を下ろす内容で、企業規模としては中堅クラスが大半を占める。

その顔ぶれをみると、名古屋木材(名証2部)、大成(同)、サカイオーベックス(東証1部)、ビーイング(ジャスダック)、光陽社(東証2部)、イグニス(マザーズ)、ニッパンレンタル(ジャスダック)、ファミリー(同)、AOI TYO Holdings(東証1部)、EPSホールディングス(同)。このうち、サカイオーベックスのMBOはTOBが成立せず、不発に終わった。

究極の買収防衛策とされるMBO。にわかにMBOが息を吹き返した背景には何があるのか。

市場再編で上場維持のハードル上がる

各社に共通する理由の一つが「抜本的・機動的な意思決定を可能にする経営体の構築」。株主の要求や株価動向などにとらわれず、中長期な戦略・方針に基づき、迅速な経営判断が行えるというわけだ。金融緩和の長期化でMBO資金を調達しやすいことも追い風となっている。

だが、それだけではない。2022年4月に予定される東京証券取引所の市場再編で流通株式時価総額や株主数の基準が厳格化されるなど上場を維持するためのハードルが高くなることが見逃せない。ここへきて物言う株主の存在感も高まるばかりだ。

また、上場維持のための直接的な費用(有価証券報告書の作成など情報開示、株主名簿管理人への事務委託費用など)の増加もかねて指摘されている。

こうした中、中堅企業にとって上場のメリットを見いだしにくい状況もあり、MBOに拍車がかかっていると考えられる。

◎TOBの推移(2021年は1~5月)

TOB総件数 (MBO) (敵対的TOB)
2021 36 10 5
2020 60 11 5
2019 46 6 3
2018 42 3 1
2017 46 5 1
2016 50 5 0
2015 50 6 2
2014 36 4 1
2013 56 9 1
2012 52 9 1
2011 55 21 1
2010 59 13 0
2009 79 18 0
2008 78 16 1

敵対的、5件のうち3件に投資ファンド

敵対的TOBも昨年来、増加傾向が鮮明になっている。2020年は年間5件と過去10年で最多となったが、今年すでに5件で前年に並んだ。今年の案件をみると、5件中3件に投資ファンドが絡んでいるほか、日本製鉄も敵対的買付者として名を連ねる。

◎2021年1~5月:敵対的TOB 一覧

開始月 公開買付者 対象企業 成否
1月 日本製鉄 東京製綱 成立
フリージア・マクロス 日邦産業 継続中
2月 シティインデックスイレブンス 日本アジアグループ 不成立
4月 米スターウッド・キャピタル・グループ インベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人 継続中
アスリード・キャピタル(シンガポール) 富士興産 継続中

インベスコ・オフィス・ジェイリート投資法人に対する米投資会社スターウッド・キャピタル・グループのTOBは国内不動産投資信託(REIT)として初の敵対的案件に発展し、現在進行中。富士興産では経営陣とシンガポールのアスリード・キャピタルが激しく対立している。

また、日本アジアグループを巡っては旧村上ファンド系の投資会社シティインデックスイレブンス(東京都渋谷区)による敵対的TOBが3月に不成立(撤回)となったが、これで収まらず、4月末から再TOB(期限は6月16日)が行われている。ただ、再TOBについて日本アジアグループは意見を留保したまま。

投資家の佐々木ベジ氏が会長を務めるフリージア・マクロスによる日邦産業への敵対的TOBは1月末に始まり、延長を繰り返し、現在も継続中で、行方が混とんとしている。

文:M&A Online編集部