2年ぶりの増加で44件、トップはZOZO 2019年のTOB

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2019年に実施されたTOB株式公開買い付け)は、前年比2件増の44件(進行中の案件を含む)で2年ぶりの増加となった。うち、不成立は同3件増の3件。廣済堂<7868>による1月のベインキャピタルをスポンサーとするのMBOと、それに対抗する3月の旧・村上ファンド系の南青山不動産によるTOB、ユニゾホールディングス<3258>に対するエイチ・アイ・エス<9603>によるTOBだった。敵対的買収は同1件増の2件、MBOは同3件増の6件とそれぞれ倍増している。

トップはヤフーのZOZOに対するTOB

TOB買付総額のトップは、ヤフー(現・Zホールディングス)<4689>が4007億円を投じて衣料品通販サイト大手のZOZO<3092>を子会社化したTOB。ZOZO創業者で前社長の前澤友作氏は36.76%を保有する株式のうち、30.37%についてTOBに応じた。

ヤフーはZOZOを取り込むことでファッションカテゴリーの品ぞろえを強化し、インターネット通販事業を拡大する。買付価格は1株あたり2620円。TOB公開前日の終値2166円に20.96%のプレミアムを加えた。

2位は仏自動車部品大手のフォルシアが子会社を通じて日立製作所<6501>子会社のクラリオンに対し、完全子会社化を目的に実施したTOB。買付総額は1342億円。買付価格は1株あたり2500円で、TOB公表前日の終値に対し10.47%のプレミアムを加えた。日立製作所は所有するクラリオン株式のすべて(63.80%)を899億円で譲渡した。クラリオンは3月25日に上場を廃止している

同社は1940年に電池式家庭用ラジオの製造会社として発足。現在はカーナビシステムなどの車載情報機器や自動車向けクラウド情報ネットワークサービスなどが主力だ。2006年に日立製作所の連結子会社となったが、競争激化で苦戦が続いていた。

3位はKDDI<9433>が買収目的子会社のLDF合同会社を通じてインターネット証券大手・カブドットコム証券に実施した非公開化を目的とするTOB。買付価格は1株559円で、TOB公表前営業日の終値に対し0.36%のプレミアムを加えた。買付総額は707億円。カブドットコム証券は8月29日に上場を廃止した。

KDDIグループが進めている金融サービス強化の一環で、カブドットコム証券は「auカブコム証券」に社名変更してスマートフォンユーザーのネット取引拡大に取り組んでいる。

2019年に実施したTOBの買付総額ベスト10

順位 対象企業 買付者 買付総額 買付後の出資比率 公表日
1 ZOZO Zホールディングス 4,007億円    50.1% 2019/9/30
2 クラリオン エナップ シス エスエーエス(フォルシアグループ) 1,342億円 95.28% 2019/1/30
3 カブドットコム証券 LDF合同会社(KDDI) 707億円 90.89% 2019/4/25
4 オリオンビール オーシャン・ホールディングス 480億円 92.75% 2019/1/24
5 日東エフシー イースト投資事業有限責任組合(インテグラル) 282億円 93.83% 2019/5/8
6 創通 バンダイナムコホールディングス 269億円 82.05% 2019/10/10
7 エヌ・デーソフトウェア ジェイ・ケイ・イー 259億円 86.43% 2019/2/8
8 ユーシン ミネベアミツミ 248億円 76.16% 2019/2/15
9 デサント BSインベストメント(伊藤忠商事) 201億円 40.00% 2019/1/31
10 Minoriソリューションズ SCSK 194億円 94.26% 2019/10/31
買付総額(億円) : 1株あたり
買付価格×買付株式数で算出(潜在株式の買付けも含む)、ただし進行中の案件を除く。

TOBプレミアムのトップ3は、2月6日に開示されたエヌ・ティ・ティ・データ<9613>のネットイヤーグループ<3622>に対するTOBの98.60%、8月28日に開示された日本化薬<4272>による ポラテクノ<4239>に対するTOBの88.07%、塩野義製薬<4507>のUMNファーマ<4585>に対するTOBの65.69%だった。

2020年は大型TOBが目白押し

2019年に発表されたものの、まだ募集が始まっていないTOBでは大型案件が目白押しだ。12月18日に開示された、昭和電工<4004>がエレクトロニクス関連の機能材料などを手がける日立化成<4217>を子会社化するTOBの予想買付総額は9640億円。日本企業がかかわるM&A全体でみても、豪ビール大手を約1兆2000億円で買収することを決めたアサヒグループホールディングス<2502>に次ぐ、今年2番目の規模。

日立化成株の51.24%を保有する日立製作所はグループ戦略の見直しで子会社を整理しており、同TOBにも応募する。買付価格は1株につき4630円。TOB公表前日の終値4080円に13.48%のプレミアムを加えた。買い付け開始は2020年2月の予定だ。

11月18日に開示されたZホールディングス(旧ヤフー)とLINE<3938>TOBによる経営統合の予想買付総額は3720億円。LINEの親会社である韓国のNAVER(保有割合72.6%)とZホールディングスの親会社であるソフトバンク<9434>(保有割合44.6%)が、LINEの非公開化を目的にTOBを実施し、LINEの全株式をソフトバンクとNAVERの両社が保有する。

LINE株の買付価格は12月23日に1株あたり5380円と発表された。買付価格発表日の終値5260円に2.28%のプレミアムを加える。2020年5月から6月にかけて買い付けを始める予定で、TOBが成立すればLINEは上場廃止となる見通しだ。

ユニゾHDのTOB決着は年越し

来年も混迷しそうなのは、12月22日に開示されたユニゾホールディングスの従業員による買収(EBO=エンプロイー・バイアウト)だ。ユニゾの非公開化が狙いで、従業員と米投資ファンドのローン・スターが出資する新会社がユニゾに対してTOB実施して全株式の取得を目指す。日本の上場企業でEBOを実施されるのは、今回が初めてという。

ユニゾをめぐっては旅行大手エイチ・アイ・エスが敵対的買収を目的に1株あたり3100円でTOBを仕掛けたのに対抗し、ソフトバンクグループ<9984>傘下の米投資会社フォートレス・インベストメント・グループが8月に同4000円でホワイトナイトとしてTOBに参入した。

エイチ・アイ・エスはTOBから撤退したものの、米投資会社のブラックストーンがユニゾに同5000円での買収を持ちかけて事態は混迷。ユニゾはフォートレスにTOB価格を同5000円以上に引き上げるよう求めたが、100円アップの同4100円に留まり事態は膠着(こうちゃく)。フォートレスのTOBは9度目の延長を経て、2020年1月8日まで実施される。8月19日のTOB開始以来、買い付け期間は93営業日と異例の長さになった。

EBOによる買付価格はフォートレスを1000円上回る同5100円で、買付代金は最大1745億円。買付期間は2020年2月4日まで。これに対抗したフォートレスによる買付価格の引き上げやブラックストーンのTOB参入があるのか注目される。

文:M&A Online編集部