2022年第1四半期 TOBプレミアム分析レポート

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1.2022年第1四半期のTOB総評

TOB(株式公開買い付け)件数は第1四半期としては2年ぶりの減少となった。金額も減少が続いている。業種はアパレル、外食、ホテル、空港免税店、産業機器、介護・医療人材サービス、化学、自動車ディーラー、運輸などさまざま。第2四半期に入っても4月が3件、5月が5件と前年実績を下回っており、前年に比べて低調のまま1年の折返しを迎えそうだ。

2.TOBの推移

◆TOB件数・金額の推移(公開買付開始日届出ベース)

TOB件数は前年の第1四半期比6件減の18件だった。前年は第1四半期に通年の3分の1以上を占める「ロケットスタート」だったが、今年は出鼻をくじかれた格好。単純計算では2022年のTOBは72件となり、4年連続の増加。第2四半期以降も現在のペースが続くか、頭打ちになるかに注目だ。

TOB買付金額は同78.9%減の1893億3100万円と低調だった。前年の第1四半期はLINEによるZホールディングス<4689>のTOB(2021年1月21日買い付け開始)で7396億2800万円という大型案件があったが、今年のトップは日の出(名古屋市)によるATグループ<8293>のMBO(経営者による買収、2022年2月7日買い付け開始)で797億2500万円に留まった。1000億円を超える大口案件がなかったことで金額が伸び悩んでいる。

敵対的TOBは同3件減の0件で、一段落した格好だ。MBOも同3件減の4件と低調だった。

3.2022年第1四半期の注目案件

◆話題となったTOB(買収プレミアムは3カ月平均株価で算出)

対象企業名 買付者 プレミアム 成否
ゼットン<3057> アダストリア<2685> 14.60% 成立

アダストリアは1月4日、外食中堅でレストラン「アロハテーブル」などを運営するゼットンに対する買い付けを始めた。第三者割当増資の引き受けとTOBを通じて、40%~51%の株式取得を目指した(51%で成立)。取得価額は合計で約28億7000万円。

カジュアル衣料店大手のアダストリアはゼットンを傘下に取り込み、ファッションビジネスと飲食ブランドの融合による新規事業を立ち上げる。アダストリアは2021年12月30日に第三者割当増資を約12億9200万円で引き受け、ゼットン株式の25.14%(162万1400株)を取得したうえでTOBを実施した。

ゼットン株式の買付価格は1株950円で、3カ月平均株価(終値、以下同)に14.60%のプレミアムを加えた。買付予定数の上限は166万8000株(所有割合25.86%)、下限は95万8600株(同14.86%)に設定。買付代金は15億8500万円だった。

ゼットンは1995年に創業し、飲食事業に乗り出した。主力の外食事業ではハワイ、韓国にも店舗を持つ。現在は居酒屋などを展開する外食大手のDDホールディングスが約37%の株式を持ち、ゼットンを持ち分法適用関連会社としている。

アダストリアはファッション通販サイト最大手ZOZO創業者の前澤友作氏が約7%の株式を持つ。ゼットンの名証セントレックスへの上場は維持される。

対象企業名 買付者 プレミアム 成否
ATグループ<8293> 日の出(名古屋市) 97.32% 成立

ATグループは2月7日、MBOによる買い付けを始めた。現社長で創業家出身の山口真史氏が設立した日の出がTOB(株式公開買い付け)を実施し、完全子会社化を完了した。買付代金は797億2500万円で、投資ファンドが関与しないMBOとしては過去最大。

ATグループはトヨタ車を販売する最有力ディーラー。国内自動車市場の縮小やトヨタ自動車による「全車種併売化」のスタートを受け、傘下の4販売会社統合などの経営改革を迅速に進めるには非公開化が必要と判断した。名証2部への上場は6月14日に廃止となる。

買付価格は1株につき2800円で、3カ月平均株価に97.32%のプレミアムを加えた。買付予定数は山口社長と同氏の関係会社が保有する株式11.89%分を除く2959万652株。下限は所有割合54.77%にあたる1839万5528株に設定した。買付資金は三菱UFJ銀行からの借り入れで賄った。

ATグループは愛知トヨタ自動車、トヨタカローラ愛豊、ネッツトヨタ愛知、ネッツトヨタ東海の4系列販売会社を傘下に置く。

対象企業名 買付者 プレミアム 成否
東洋建設<1890> インフロニア・ホールディングス<5076> 33.22% 不成立

インフロニア・ホールディングスは3月23日に、海洋土木大手で持ち分法適用関連会社の東洋建設に対する買い付けを始めた。インフロニア・HDは傘下の前田建設工業を通じて20%余りの東洋建設株を保有しているが、TOBで完全子会社化を目指した。

買付価格は1株につき770円で、3カ月平均株価(終値)に33.22%のプレミアムを加えた。買付予定数は7528万468株。買付予定数の下限は所有割合46.47%にあたる4383株7790株に設定した。買付代金は最大579億6596万円を見込んでいた。

東洋建設はTOBに賛同していたが、任天堂創業家の資産運用会社ヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィスが対抗提案を提出。株価がTOB価格を上回り、期限の5月19日までに下限を大幅に下回る約405万株しか集まらず不成立となった。

ヤマウチは5月18日、東洋建設に対して1株1000円でのTOBを提案したと発表。6月下旬にもTOBを始める。東洋建設は同社からの提案について、(1)ヤマウチ独自の支援でしかなしえない成長の具体的内容(2)前田建設との資本業務提携関係を解消した上で、ヤマウチの方策による方が成長につながるとする具体的な根拠(3)課題解決に向けた支援体制に関する具体的な実績などについて十分な説明がなされていないとして、提案は不十分であると表明。今年初の敵対的TOBに発展する可能性もありそうだ。

4.買収プレミアムの推移

◆買収プレミアムの推移(非上場および不成立案件を除く)

総プレミアムは同1.20ポイント高の37.38%と2年ぶりに上昇、一方ポジティブプレミアムは同7.65ポイント安と2年ぶりに下落する、対照的な結果となっている。前年の第1四半期にディスカウントプレミアムが3件あったのに対し、今年は1件と大幅に減ったため、総プレミアム平均を押し上げた。

5.買収プレミアムの分布水準

◆TOBプレミアムの分布(非上場および不成立案件を除く)

第1四半期では、2021年が50%超が約30%、40〜50%が約23%と、40%超の高プレミアム案件が過半数を占めた。一方、2022年は40%超の案件が約15%程度に留まっている。2017年以降で見ても高プレミアム案件の比率は少ない。

2022年第1四半期で最も高プレミアムの案件は日の出によるATグループのMBOの97.32%、次いでAHC(金沢市)によるアイ・オー・データ機器<6916>のMBOの65.82%、博報堂DYホールディングス<2433>によるソウルドアウト<6553>のTOBの59.95%の順。MBOが高プレミアムの傾向にある。

前年の第1四半期は日本製鉄<5401>による東京製綱<5981>のTOBの109.5%、次いで秀和システムホールディングス(東京都江東区)による船井電機<6839>のTOBの87.73%、i3(東京都千代田区)によるイグニス<3689>のMBOの74.83%の順だった。

【ご利用上の注意】

・2022年5月30日18時00分時点のデータである。
・2022年1月1日から2022年3月31日に公開買い付けが開始された案件を集計対象としている。ただし自社株TOBは対象外である。
・プレミアム算定に採用している株価は特に断りがない限り、公開日または基準日3カ月平均株価(終値)としている。
・プレミアム算定に非上場企業、不成立、公開買い付け中の案件は含まれない。

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データ・文:M&A Online編集部