敵対的が6年ぶりに「ゼロ」|2022年TOBプレミアム分析

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1.国内TOB市場の総評

2022年第4四半期のTOB(株式公開買い付け)は、件数が届け出ベース(以下同)で4年ぶりに減少した。一方、取引金額は2年ぶりに増加している。

2022年通年では、件数が2年ぶりに減少、金額も2年連続の減少に。件数をみると第1四半期は前年同期比6件減と出遅れたが、第2四半期(前年同期比1件増)、第3四半期(同8件増)と前年実績を追い抜いた。しかし、第4四半期が同14件減と失速して前年を下回る結果となっている。敵対的TOBは前年の5件から、6年ぶりに0件となった。

◆TOB年間・四半期件数比較

◆TOB年間・四半期期間比較

2.TOB件数と買付総額

2022年第4四半期のTOBは、件数が前年同期(25件)の半分以下になる11件と4年ぶりに減少した。一方、取引金額は前年同期比51.6%増の6803億7500万円と、2年ぶりに増加している。これは金額トップのTOBが前年トップの2倍を超える3820億円だったのに加えて、300億円を超える比較的大型なTOBが前年同期比2件増の6件と多かったためだ。不成立は同2件減の0件と2年連続で下回った。

◆TOB件数・金額の推移

2022年通年のM&A件数(適時開示ベース)は前年比8.2%増の949件と前年(877件)に記録したリーマンショック(2008年)後の最多を大幅に更新したにもかかわらず、TOB件数は同15.7%減の59件に終わっている。一方、M&A全体の金額は24.0%減の6兆5612億円と2015年(6兆1831億円)以来の低水準にとどまったが、TOBも同6.0%減の1兆7348億4500万円だった。

不成立は敵対的TOBが0件だったことを受けて前年の8件から1件に減り、4年ぶりの減少となっている。唯一の不成立案件はインフロニア・ホールディングスが3月22日に発表した、海洋土木の東洋建設を完全子会社化するTOB。買付価格は1株につき770円で、TOB公表前営業日の終値599円に28.55%のプレミアムを加えた。東洋建設はTOBに賛同したが、任天堂創業家の資産運用会社が対抗提案を出し、株価がTOB価格を上回って推移したため不成立に終わっている。

◆TOB件数の推移と成否


金額1位は日立物流、2位は日立金属を対象とした案件で、それぞれ買付総額は3000億円を超えた。日立製作所による上場子会社再編・整理の総仕上げとなるもので、いずれも米投資ファンドが関与した。日立物流(4月にロジスティードに社名変更を予定)にはKKR、日立金属(1月にプロテリアルに社名を変更)は米ベインキャピタルがTOBを実施した。

日立がグループ改革に着手した2009年当時、上場子会社は22社を数えたが、グループからの離脱組は日立金属、日立化成(現レゾナック・ホールディングス)、日立物流など半数以上の12社、日立ハイテク、日立建機など残る10社が完全子会社化・合併、持ち分法適用関連会社化でグループに残っている。

敵対的TOBは0件だったが、給食大手シダックスに対する食品宅配大手オイシックス・ラ・大地のTOBはシダックス取締役会が反対を表明し、一時は敵対的TOBに発展。オイシックスはシダックス創業家と連携して、筆頭株主の投資ファンドから株式27%余りを買い取ろうとしたが、志太勤一会長兼社長ら創業家と取締役会が対立した。最終的には「反対」が撤回され、10月末にTOBが成立した。

MBO(経営陣による買収)は、2008年以降では2011年(21件)に次ぐ前年(19件)から7件減って12件と4年ぶりに減少している。

3.TOBを実施する理由

2022年のTOB買付目的は、完全子会社化が同8ポイント増の39%、連結子会社化・関連会社化が同7ポイント増の17%、MBOが同7ポイント減の20%、MBOを除く非公開化が4ポイント増の17%だった。

完全子会社化や連結子会社化・関連会社化のTOBは経営資源の最適配分やシナジー効果といった経営効率化のほか、子会社への出資比率を引き上げることで親会社の連結利益を引き上げる狙いがある。

一方、MBOやMBOを除く非公開化は経営における意思決定の迅速化に加えて、上場コストやガバナンス上の煩雑さや敵対的TOBを避けるなどの目的がある。

◆2022年に実施されたTOBの買付目的


4.TOBプレミアム

2022年第4四半期の総(買収)プレミアム平均(公表日前3カ月平均株価、以下同)は同12.59ポイント増の55.18%と、5年連続の増加。一方、ディスカウントを除いたポジティブプレミアム平均は同16.53ポイント増の64.39%と、3年連続で増加している。

同四半期で最もプレミアムが高かったのは、11月9日に米カーライル・グループが発表した東京特殊電線に対するTOBの155.65%。次いで11月10日に同グループが発表したユーザベースに対するTOBの114.9%、ノジマが12月23日に発表したコネクシオに対するTOBの62.92%の順。ディスカウントはセンコーグループホールディングスが11月15日に発表した中央化学に対するTOBの▲-36.89%だけだった。

2022年通期では総プレミアム平均が同5.98ポイント増の43.02%で2年ぶりの増加、ポジティブプレミアム平均が同1.20ポイント増の47.63%で5年連続の増加となった。同年で最もプレミアムが高かったのは、カーライル・グループが11月9日に発表した東京特殊電線に対するTOBの155.65%。

次いでマーキュリアホールディングスが5月23日に発表したミューチュアルに対するTOBの154.96%、11月10日にカーライル・グループが発表したユーザベースに対するTOBの114.9%の順。トップ3中2件がカーライル・グループで、第4四半期に集中した。

プレミアムの水準は高プレミアムになるほど増える単純比例型という珍しい分布となっている。最も多かったのは50%超で全体の3分の1以上を占めた。次いで40〜50%、30〜40%の順。2022年は高プレミアムのTOBが多かった1年だったと言える。

1◆TOBプレミアムの水準

【集計範囲と対象】
集計年度は毎年1月1日から12月31日を期間としている。基準日は公表日前日である。ただし自社株TOBは対象外とする。

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データ・文:M&A Online編集部