「こうすれば会社を興せる」15の新規事業を手がけた起業家が指南

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写真はイメージです

これまでに15の新規事業を立ち上げ、現在は予定調整サービス「スケコン」で上場を目指すTIME MACHINE(東京都港区、タイムマシン)の石澤秀次郎代表取締役にどうすれば起業でき、成功できるのか、その秘訣を聞いた。

-15の新規事業を立ち上げられた経緯をお教え下さい。

大学卒業後、オンワード樫山というアパレルの会社に入社し、新入社員時代に店舗の管理などを通じて、経営の基礎を学んだ。その後、CG(コンピューターグラフィックス)の学校に行き、合わせてウェブの勉強も行い、ウェブディレクターとして再就職したあと2013年に、ウェブと映像とブランディングの会社を立ち上げた。

会社設立から3年間はものすごく忙しく、社長が頑張ってやらないと売り上げが伸びないという、つらい体験をした。新しくビジネスを始める人たちは、同じように感じるだろうなと思い、起業しやすい環境を整えるサービスを作りたいと思うようになった。

そこで時間がなく睡眠がとれなかった体験を踏まえ、AI(人工知能)を活用した予定調整サービス「スケコン」のアイデアを具現化しようと考え、2019年にTIME MACHINEを立ち上げて、2020年1月にベータ版(正式版をリリースする前の製品)の販売を始め、2021年4月から本格提供に乗り出したところだ。

このほかにもクリエーターのための副業紹介サービスや、マネジメントの会社なども立ち上げており、この間に取り組んだ新規事業は15になる。

社会貢献の前に強いこだわりが必要

-そうした経験を踏まえて、これから起業したいと考えている人や、起業したばかりの人たちに何かアドバイスはありませんか。

起業しようと思っている人は、社会貢献を口にする人が多いように感じる。確かに耳障りのいい言葉で、私も社会貢献をしたいと考えているが、その前に強い思いが必要だと思う。

社会貢献に至る、もっと手前にある、これがあったら自分はすごくうれしいな、これがあったら自分と似たような人を幸せにできるだろうな、これが世の中にないと絶対に嫌だなというような、強いこだわりや思いがあれば、起業は成功するだろう。

熱い思いがあり、たった一人でも熱狂できていれば、起業はできる。その熱量や強い主張が世の中の共感を生むだろうし、その結果ビジネスが広がる。最初から社会貢献しようとかSDGs(持続可能な開発目標)で貢献しようというのは、ちょっと遠すぎる。

-それは先端技術の開発や、今までにない新しい市場の開拓などでなくてもいいということですか。

そう。例えば自分の町に満足できるような、おいしいラーメン屋さんがなければ、それを作ればいい。それで町の人たちにおいしい一杯を提供して、うわさが広がっていけば、コンビニとタイアップして、カップラーメンになるかも知れない。そうすれば世の中に広がっていき、海外でも愛されるようになるかも知れない。絶対にないと嫌だという強いこだわりに追い風が吹けば、それが自然と社会貢献やSDGsになっていくと考えている。

-起業後の出口戦略として日本ではIPO(新規株式公開)を目指す経営者が多いのですが、米国では大企業に売却するM&Aが主流になっています。IPOとM&Aについて、どのようなお考えをお持ちですか。

ビジネスをゲームとしてやるのであればM&Aには面白みがあると思う。また自分より上手にできる人に会社を売って、事業の広がるスピードが速くなるといったM&Aには賛成できる。ただ私の場合は、これがなければ絶対に嫌だというビジネスを作りたいと考えているので、一番熱狂している自分が抜けて誰かに任せることは考えられない。今はTIME MACHINEで上場したいと考えている。

AIが未来の予定に提案

-そのTIME MACHINEで手がけているスケコンの仕組みを教えて下さい。

スケコンは多くの人の予定調整を行うもので、2人でも、3人でも4人でも10人でも100人でもみんなが会える日を簡単に割り出せる機能がある。また、それぞれの電話番号やメールアドレス、住所などの情報を事前に入力してあるので、リモート会議などで名刺交換ができなくても相手の情報を知ることができる。さらに会った回数なども履歴で見れ、他の顧客管理ツールとの連携もできる。

法人がこのサービスを使うと、例えばラーメン屋さんが席の予約に、このサービスを使えば、A卓の人は10回目、B卓の人は初めての来店といった情報を得ることができる。将来は例えばキャンプ好きの人たちの予定調整を行ったあと、予定日近くになるとキャンプ用品の広告を流すような仕組みも考えている。あるキャンプ用品メーカーがセールを行っているので行ってみてはどうですか、というメッセージをAIが作成するようなものにしたい。

スケコンはスケジュールコントロールという意味もあるが、スケジュールコンシェルジュという意味もあり、AIが未来の予定に対して広告やサジェスチョン(提案)を行うようにしたい。

さらに、スケコンで出会ってビジネスに発展した場合には、スムーズに請求書のやり取りができるようにしたり、入金の情報を基に資金が足りない時は、ファクタリング(売掛債権の買い取り)できるサービスまでやろうと考えている。

-最後にもう一度、起業家に一言お願いします。

スケコンでIPOができなかったら自殺したい。そのくらいの思いでいる。このサービスを我が子のように思っており、毎日触れ合って、多くの時間を費やしているのに、このサービスが実現しなかったら、自分の存在すべてを否定されたように感じるだろう。やれることは全てやりつくそうと思っている。起業には強いこだわりと思いが必要だろう。

TIME MACHINE代表取締役 石澤 秀次郎氏

 石澤 秀次郎(いしざわ・しゅうじろう)氏

2005年、明治大学経営学部卒後、オンワード樫山に入社。2009年モーフィングに、2010年ソニックジャムに入社し、ウェブディレクターとしてウェブや映像の制作に携わる。2013年、制作会社「EPOCH」を設立、2017年、クリエイターのためのプラットフォームBAUS(バウス)を運営。2018年、「えるマネージメント」「dep Management」を設立。2019年、「TIME MACHINE」を立ち上げ、予定調整サービス「スケコン」を開発、運営。東京都出身、1982年生まれ。

聞き手:M&A Online編集部 松本 亮一