日本郵政からの出資、楽天にとっての「メリット」は?

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日本郵政<6178>による楽天<4755>への出資が明らかになった。「携帯電話事業で苦境に陥った楽天を救済するため日本郵政が手を差し伸べた」「日本郵政からの出資で楽天モバイルの契約増に弾みがつく」などと肯定的な評価が多い。本当にそうなのか?

日本郵政にしかメリットがない?

楽天は日本郵政や中国のネット大手騰訊控股(テンセント)などを引き受け手とする2423億円の第三者割当増資を実施する。日本郵政はうち約1500億円を投じ、出資比率8.32%の大株主となる。「全国の郵便局で楽天モバイルの契約ができるようになれば、最大手のドコモショップを超えるネットワークになる」との肯定的な報道も多い。

しかし、出資先の楽天のために本気で畑違いで手間のかかる携帯電話契約を取ってくる郵便局員は多くないだろうし、日本郵政としても自社サービスのセールスを最優先させるはず。仮にまとまった契約が取れたら、楽天にとってはさらに厄介な問題に直面する。日本郵政に販売手数料を支払わなくてはならないからだ。

ドコモの格安プラン「ahamo」がネット申し込みだけで店頭契約できないのは、代理店に手数料を支払ってしまうと利益が出ないから。日本郵政が本気で契約を取ってきたら、楽天は手数料負担に耐えられないだろう。

全国2万4000カ所の郵便局の屋上に基地局を設置できることもメリットとして挙げられているが、楽天モバイルが使用する周波数は1.7GHzと高いため直進性が強く、広い範囲はカバーできない。仮に全郵便局に設置できたとしても「焼け石に水」なのだ。

一方、日本郵政が期待しているのは楽天のネット通販モール「楽天市場」の配送に郵便を利用してもらうこと。宅配事業で佐川急便やヤマト運輸との競争にさらされている日本郵政としては、年商3兆円ものネット通販大手・楽天市場の配送を請け負えれば大いに助かる。しかも、日本郵政は楽天の窮状を救う出資をしているだけに、料金交渉でも有利だ。

つまり、楽天にとっては一方的に不利な資本提携といえる。なのになぜ楽天は日本郵政からの出資を受けたのか?理由は楽天の泥沼化した携帯事業にある。

無理してでも基地局を増やさなくてはならない「事情」

それは第三者割当増資で調達した資金の使途を見れば明解だ。楽天は楽天モバイルの第4世代移動通信システム(4G)に係る基地局設備に1840億円、第5世代移動通信システム(5G)に係る基地局設備に310億円、4Gと5Gに共通の設備投資に250億円と開示している。

すでにNTTドコモ、au(KDDI)<9433>、ソフトバンク<9434>の大手3キャリアが5G投資へシフトしているのに対して、楽天モバイルの調達資金の8割近くを旧世代の4G基地局に回さざるを得ない状況だ。基地局整備の「周回遅れ」感は否めない。

楽天は携帯電話の基地局整備に伴う設備投資が予想外にかさみ、2020年12月期は純損失が1141億円と2期連続の赤字に。同期末の自己資本比率は4.9%と、本格的な基地局整備に乗り出したこの2年で半減した。それに加えて第三者割当増資による追加投資だ。

実は楽天には、そこまで重い負担を抱えてでも基地局整備をしなくていけない理由がある。基地局不足で圏外エリアが多いと、auに契約者1人当たり最大で月2500円近くをローミング料として支払わなくてはならないからだ。楽天モバイルの「Rakuten UN-LIMIT Ⅵ」の月額料金は2980円(税別)で、最悪の場合は500円程度しか入ってこない計算になる。これでは完全に赤字だ。

楽天は第三者割当増資を実施して、基地局整備資金を調達するしかなかったと言える。ただ、これでサービスエリアを充実できたとしても、次には5Gへの転換が待っている。楽天モバイルが死に物狂いで整備している4G基地局も、その大半が数年後には「時代遅れ」になる運命だ。

楽天モバイルとしては当初から5G基地局に特化し、「5Gサービスエリアでは日本最大」をセールスポイントにした方が活路が拓けただろう。このままでは第三者割当増資で増設する4G基地局が「負の遺産」になりかねない。楽天の携帯電話事業の先行きは、ますます不透明になってきた。

文:M&A Online編集部