【パーソルホールディングス(旧:テンプスタッフHD)】「買わないリスク」を考えさせるM&A戦略

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リーマンショックでも売り上げ規模を落とさなかった

 テンプスタッフのM&Aで興味深いのは、リーマンショックで「派遣切り」が社会問題となった際、人材派遣業界に対しては風当たりが強く、市場規模が前年比20%ペースで縮小していた時期にもかかわらず、テンプホールディングス<2181>は売上規模を大きく落とすことがなかったことである。

 その理由がM&Aにあることは言うまでもないが、逆に言えばM&Aを行っていなかったら売り上げを大幅に落としていた可能性がある。これは連結売上高の推移からも見て取れる。2008年3月期以降も連結売上高がやや落ちているものの、市場全体の落ち込みに比べれば気にしなくても良いほどのレベルである。しかし、買収効果を除外した連結売上高(下図参照:グラフの赤い部分)を見ると、実態は落ち込みが激しかったことが分かる。

 縮小していく市場環境では、守りのためにもM&Aが必要なのである。

  危機を乗り切った同社は、インテリジェンスホールディングス、パナソニック エクセルスタッフと次々に大型案件を実行している。特にインテリジェンスホールディングス買収には510億円を投じ、買収資金調達は当初はMUFGとSMBCからの借入350億円で賄ったが、その後160億円の増資を行っている。借入金は買収前の期はほぼゼロだったものが、有利子負債は484億円まで膨張(うち150億円はCB)、資産サイドではのれんと商標権の合計が21億円から770億円に達し、連結総資産に占める無形資産の割合が2.7%から35.3%まで急拡大している。このようにリスクを取るバランスシートに変貌しているのが分かる。

■テンプホールディングスの行った主なM&A

年月 沿革と主なM&A
1992.5 フランチャイズのテンプスタッフ広島、テンプスタッフ京都の2社を吸収合併
1992.11 フランチャイズのテンプスタッフ神戸を吸収合併
2003.3 フランチャイズのテンプスタッフ福岡の出資比率を30%から100%に引き上げる
2003.9 フランチャイズのテンプスタッフファミリエの全株式を取得し、子会社化
2003.11 事務業務のアウトソーシングサービスを行う日本アイデックス(売上高32億円)の株式53.3%を取得し、子会社化
2005.6 データ入力業務のアウトソーシングサービスを行うデータシステム研究所(売上高5000万円)株式の70%を取得し、子会社化
2005.9 テンプスタッフ・ケリーの株式51%を取得し、子会社化
2006.3 東京証券取引所市場第一部に株式を上場
2006.11 パーソナル(販売職の職業紹介事業、売上高21億円)を買収
2007.3 テンプスタッフ・ケリー(売上高26億円)の持ち分の全てを7億6500万円で売却
2008.6 テンプ総合研究所(売上高4億円)の株式を追加取得し、出資比率を30%から94%に引き上げ、子会社化
2008.10 ピープルスタッフ(売上高301億円)と共同株式移転を行い、経営統合、40億円分の株式を発行
2009.3 サポートエー(売上高17億円)をオートバックスから買収(90%出資)
2009.5 再就職支援事業の日本ドレークビームモリン(売上高12億円)をメイテックから2億8500万円で買収
2009.7 富士ゼロックスから富士ゼロックスキャリアネット(売上高123億円)を24億4600万円で買収
2009.11 日本テクシード(R&Dアウトソーシング事業、売上高92億円)を公開買付によって13億3900万円で買収(出資比率51%)
2010.5 Kelly Service(米)と株式持ち合い、株式の4.8%を22億3600万円で取得
2010.5 ITヘルプデスクのハウコム(売上高18億円)を買収
2011.1 ソフトウエア受託開発の東洋ソフトウエアエンジニアリング(売上高30億円)を買収
2011.8 日本テクシードを株式交換によって完全子会社化(買収価額12億8600万円)
2011.11 神戸製鋼からコベルコパーソネル(売上高35億円)の株式80%を買収
2011.11 旭化成ライフサポートが子会社テンプスタッフ・メディカルに吸収合併
2011.11 日本経済新聞から日経スタッフ(売上高34億円)を買収(出資比率90%)
2012.8 大塚商会からサイオステクノロジーの株式の17.3%を3億7000万円で取得、資本参加
2013.3 デジタルAV商品のソフト・ハードウエア設計開発を行うパナソニックAVCテクノロジー(売上高38億円)を9億円でパナソニックから取得(出資比率66.6%)
2013.3 デジタルAV商品などのソフトウエア開発を行うパナソニックAVCマルチメディアソフト(売上高26億円)の株式を7億6500万円でパナソニックから取得(出資比率66.6%)
2013.4 インテリジェンスホールディングス(売上高698億円)を米投資ファンドKKRから510億円で買収
2013.5 ボルボグループのUDトラックス(売上高45億円)から商用車開発設計のDRDを買収
2015.3 パナソニックからパナソニックエクセルスタッフおよびその子会社(売上高639億円)を167億円で買収(出資比率66.61%)
2015.8 Capita(シンガポール、売上高40億円)を73億円でCapitaのグループ会社2社も含め子会社化

M&A Online編集部作成

 経営を数値から見ると、01年3月には602人だった従業員数は15年3月には1万2000人を超え、20倍と急拡大し、売上高は953億円から4010億円と4.2倍になっている。前述のとおり、同社が行うM&Aはここにきて大型化している。

 市場縮小期でも積極的なM&Aで企業規模を維持していたからこそ、拡大期に飛躍のためのM&Aを行うことができる。縮小期は多くの企業がM&Aから距離を置いてしまう。しかし、それでは風向きが変わって追い風になったときに取り残されてしまう。

 M&Aでは、買収して失敗した場合のリスクはよく議論される。ところが「買収しない場合のリスク」は、ほとんど認識されない。

 テンプホールディングスのM&A戦略は「買わないリスク」を考えさせてくれる格好の事例である。


この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部

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