EV用電池で世界最大手のCATL、「ルーツ」は日本企業だった

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電気自動車(EV)の基幹部品である車載電池でトップを独走する中国CATL(寧徳時代新能源科技)。2011年12月に創業したリチウムイオン電池ベンチャーで、2017年にはパナソニック<6752>を追い抜き、車載電池市場で世界一となった。その技術の「源流」は日本企業にあるという。

CATLはTDKの中国子会社が発祥

CATLを立ち上げた曾毓群会長と黄世霖副会長は、1999年に創業した家電用リチウムイオン電池メーカーである香港ATL(アンプレックステクノロジー)の出身。そのATLは、TDK<6762>の上釜健宏元会長が中国駐在していた時の部下たちが立ち上げたスタートアップ企業だった。その縁で2005年にTDKが約107億円でATLを買収、子会社化している。

ATLは米アップルの音楽プレーヤー「iPod」用の電池で大量受注に成功した。その流れでアップルの「iPhone」や韓国サムスン電子のスマートフォン用電池も受注。これにより大量生産が可能になり、材料購買や生産で優位に立った。ATLの年間売上高は約7000億円と、TDKにとっても「孝行息子」といえる子会社である。

TDKに買収された6年後に、ATLの車載電池部門が分離・独立してCATLが発足した。つまり、CATLの電池量産技術のルーツはTDKにある。

かつては磁気テープの大手メーカーだったTDKだが、今では電池事業が稼ぎ頭だ。ATLからスピンオフしたCATLだが、TDKグループのテリトリーには参入しなかった。家電やスマホ向けではなく、EV向けのリチウムイオン電池に注力したのだ。

ATLやTDKと市場で競合することはなかったが、EV用車載電池という巨大市場で急成長を遂げた。CATLは2018年6月に株式上場し、その月のうちに時価総額が1267億元(約2兆1500億円=当時) に。マーケットの期待の大きさが分かる。

CATLとの合弁で電動バイク向け電池に参入

CATLの技術の源流はTDKであり、TDKが「その気」になればパナソニックを追い抜いて世界一の車載電池メーカーになれたかもしれない。ある意味でTDKは優れた技術を持ちながら、EV向け電池という巨大市場を見逃したといえる。

もっともTDKも手をこまぬいているわけではない。2021年4月28日に、ATLとCATLが業務提携すると発表した。両社は合弁会社を設立し、家電やスマホ向けとEV向けの中間に当たる容量のリチウムイオン電池を、電動バイク向けに開発・製造する。

TDKはCATLの大容量電池の開発・生産技術を「逆輸入」することで、中型リチウムイオン電池市場への参入を狙う。EVよりも価格が安い電動バイクの需要は、今後世界中で伸びると見込まれている。

民間調査会社のグローバルインフォメーション(川崎市)は、電動バイク(スクーター含む)の世界市場が​2​​020年の86万1000台から年31.8%増のペースで成長し、2027年には594万8000台に達すると予測している。

電動バイクメーカーにとっては、EV向け電池世界最大手のCATLが資本参加する新会社の製品に高い信頼性とブランド力を感じるだろう。CATLとATLのいわば「TDKファミリー」が、EVと電動バイクの電池市場を席巻する日が来るかもしれない。

文:M&A Online編集部