インターネット広告業界大手4社のM&A

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インターネット広告業界もまたM&Aや他社との提携が社運を左右する業界といえる。歴史の長い業界ではないものの、主要なプレイヤーの名前を聞かれて、誰もが思い浮かべる企業は絞られてきた感がある。今回はそんなネット広告業界の主要4社であるサイバーエージェント<4751>、オプトホールディング<2389>、セプテーニ・ホールディグス<4293>、アイレップのM&Aについて近況をまとめてみたい。

業界地図はどのようになっているか

純広告(人を介する広告)を主とする広告業界では電通と博報堂の2大ガリバーが君臨しているが、ネット広告業界は再編が進行中だ。

売上高の観点でいうと、サイバーエージェント<4751>が3,000億円を超える規模で独走し、オプト<2389>、セプテーニ<4293>、アイレップ(2016年9月上場廃止)が数百億円規模でそれに追従するという構図になっている。

既存の広告業界大手との提携という観点では、電通と提携関係にあったものの、今では提携解消となったオプト、博報堂との資本・業務提携から、やがてグループ傘下に入ったアイレップが特徴的といえる。また、サイバーエージェントは、他業界大手との提携やアメブロその他強力な自社メディアで業界をリードしているということができる。

電通離れのオプト

1年前には800円台で推移したオプト<2389>の株価は、2017年6月初旬には1,600円台をマークし、文字どおり倍増している。2017年12月期の第1四半期(2017年1-3月期)の売上高(3か月間)が初の200億円を突破するなど好調な業績を背景としたものといえるが、それに劣らず、2017年2月に電通との資本・業務提携を解消したことが好感されたことも大きい。

オプトと電通が資本・業務提携をした2005年末から約11年。電通は保有していた全株式(議決権割合18.87%)をオプトや関連するファンドなどに譲渡した。公表された提携解消の理由は「すでに一定の成果を見た」とのことだが、2013年1月には提携関係の一部見直しを発表するなど「電通ばなれ」の端緒は見られた。以降、オプトの電通向け売上の割合は減少し続けることとなる。提携解消に際して、オプト代表取締役の鉢嶺氏がCEOブログに綴った「忸怩たる思い」という言葉が印象的だ。

年月 内容
2008年4月 電通と資本・業務提携
2010年12月 カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)と資本・業務提携
2017年2月 電通との資本・業務提携を解消

選択と集中を進めるセプテーニ

セプテーニ<4293>の近年の動きは「選択と集中」という言葉で言い表すことができる。2014年10月、DM発送を行う子会社である株式会社セプテーニ・ダイレクトマーケティング(東京都)の全株式を約15.2億円で地図情報サービス大手の株式会社ゼンリン(福岡県)に譲渡した。これは中核でない事業を売却したものと評価することができる。

2016年10月、シンガポール子会社であるSepteni Asia Pacific Pte. Ltd.を通じて、Lion Digital Global LTD(香港)の株式96.01%を13億円で取得し、子会社化した。これは、スマホ広告やソーシャルメディア広告を得意とするLion社を買収することにより、アジアにおける同分野でのプレゼンスを高めるものといえる。

2016年11月には、モバイルゲーム事業を主力とするアクセルマーク株式会社<3624>の株式を一部譲渡し、持分法適用会社とした。これにより、セプテーニの中でモバイルゲーム事業が「ノンコア事業」であることが明確となった。

年月 内容
2009年3月 ソフトクリエイト(現ソフトクリエイトホールディングス)との資本・業務提携を解消
2013年8月 スマホ向け広告プラットフォームのメタップスと業務提携
2014年10月 DM発送を行うセプテーニ・ダイレクトマーケティングをゼンリンに売却
2016年11月 モバイルゲーム事業のアクセルマークの株式を一部譲渡

博報堂の傘下となったアイレップ

2009年6月、アイレップは博報堂傘下のデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(DAC)との資本・業務提携を発表し、翌年の2010年12月にはDACの連結子会社となった。そして、6年後となる2016年10月には、アイレップとDACは共同持株会社 D.A.コンソーシアムホールディングス株式会社<6534>を設立し、共同株式移転を行った。つまり、持株会社を新設してアイレップとDACがそれにぶら下がるという形になる。なお、その際に、新設の持株会社も博報堂グループの親会社である博報堂DYホールディングス(東京都)の子会社となった。

博報堂は国内外で積極的にM&Aを活用している企業だが、アイレップ自体も、2014年10月にベトナムの広告代理店MOORE ONLINE DEVELOPMENT SOLUTIONS CORPORATIONの株式取得と第三者割当により所有割合を53.16%として子会社化したり、2015年12月に子会社である株式会社フロンティアデジタルマーケティングと株式会社ネクストフィールドの2社を吸収合併したり、2016年1月に株式会社NEWSYの株式96.2 %を取得して連結子会社化するなど積極的な展開を見せている。

このうち、株式会社NEWSYの事業はニュースメディアの運営だ。代表のタカハシマコト氏は博報堂出身のクリエイティブディレクターで、社内ベンチャー制度を使ってニュースサイト「しらべぇ」を立ち上げた。アイレップによるNEWSY株式の取得は、「コンテンツマーケティングの強化」という自社方針に沿った買収ということができる。

年月 内容
2010年12月 デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(DAC)の連結子会社に
2016年10月 アイレップとDACが株式移転により、共同持株会社のD.A.コンソーシアムホールディングスを設立。東証2部上場

オーガニックグロース戦略のサイバーエージェント

サイバーエージェント<4751>は、M&Aを繰り返して売上を拡大していくタイプの企業ではない。むしろ、自社で事業を立ち上げ、それを育てていくタイプの企業として知られる。そのような戦略が実を結び、2014年9月期には連結売上2,000億円を突破、2016年9月期には3,000億円という高みへと到達した。

典型的な買収という手法はとらないものの、新規事業の立ち上げに丸腰で臨んでいる訳ではない。そこには、業界大手との資本提携により、スピード感をもって事業の成長につなげるという綿密な戦略が存在する。

そのような資本提携の例として、2014年12月にサイバーエージェントとエイベックス・デジタル株式会社が折半出資で設立したAWA株式会社(資本金と資本準備金の合計20億円)が挙げられる。音楽配信サービスAWAを運営する同社を共同設立するにあたって、親会社であるエイベックス・グループ・ホールディングスの株式4.44%を31億5400万円で取得するという資本提携も行っている。

また、2015年4月には、サイバーエージェント 60%、テレビ朝日40%の共同出資により株式会社AbemaTV(資本金3億円)を設立した。スマートデバイス向けの多チャンネル動画配信プラットフォームであるAbemaTVは2016年4月の開局から約1年で1,700万ダウンロードを超える盛況ぶりとなっている。

年月 内容
2009年9月 オンラインゲームのジークレストを100%子会社化
2014年12月 エイベックス・デジタルと音楽配信サービスのAWAを共同設立
2015年4月 テレビ朝日と共同出資で動画配信サービスのAbemaTVを開局

まとめ

以上のように、各社ともM&Aや資本提携を活用しながら成長への布石を打っている。セプテーニは、今期発表した中期計画で「広告事業をグローバルに伸ばす」、「強いメディアを作る」、「スマホの次に投資する」という3つの基本方針を示した。主要4社の動きを見ていると、この基本方針はセプテーニに限ったものではなく、ネット広告業界共通の課題であるようにも思える。4社のさらなる展開に期待したい。

文:M&A Online編集部