トランプ関税の導入でアメリカ経済はどう変わるのか?

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トランプ政権の矢継ぎ早の関税引き上げにより危惧されるのは、国家間の貿易戦争だけではない。米国内ではこの数か月間でじわじわと物価上昇が進行、米国経済への影響が懸念されている。世界に衝撃を与えた2018年3月9日の鉄鋼・アルミ追加関税大統領署名から4か月。トランプ関税は国民生活にどのような影を落とし始めているか。海外メディアの論調を整理した。

業種により勝ち負け浮き彫り、しわ寄せは消費者に

USA today(5月21日)とBBC(6月15日)は、トランプ関税により米国内の産業が勝ち組と負け組に分かれ、併せて「値上げの形で消費者にしわ寄せが来る」と分析した。

USA todayは、鉄鋼とアルミへの関税がアメリカ国内を勝者と敗者に二分すると予測。勝者としては国内の鉄鋼・アルミ業界を、勝ち組企業の一例としてセンチュリー・アルミニウム社の名を挙げた。一方で敗者としてはアルミニウムを缶素材とする飲料業界に加え、大型二輪車メーカーのハーレー・ダビッドソンを名指しし、鋼鉄材料費の増加と国外での販売価格上昇が原因とコメントした。

BBCも鉄鋼・アルミへの関税発動を受けて、米国内の企業は代わりに地元の鉄鋼を購入するようになるため、国内の鉄鋼・アルミ業界は潤い利益率も向上すると予測。反面、自動車や航空機など、鉄鋼を素材とする業界はコストがかさみ、最終製品価格が押し上げられ、しわ寄せは消費者に及ぶ。値上げは自動車価格や航空機チケット、ビール、ガジェット(電子機器)まで幅広いだろうと懸念を示した。

家庭用洗濯機と太陽光パネルの価格上昇

TIME(6月26日)は、物価上昇の具体例として家庭用洗濯機を挙げた。洗濯機はソーラーパネルと共に、トランプ米大統領が2018年1月、20-50%の関税を課した品目である。記事によれば白物家電の大手メーカーWhirlpoolは、一時的には5%のストック増、200名の雇用創出など追い風に乗ったものの、3月の輸入鉄鋼への関税により利益が相殺され、3か月間で洗濯機の平均価格は17%上昇。同様の動きはソーラーパネルにも見られ、設置費用が500ドル-1000ドル上昇していると報じた。

同記事は、海外の製品を相対的に高価格化することで国内の製造業者を支えるという大統領の主張に、エコノミストの大半は懐疑的だと指摘。原料高に直面した企業は雇用創出どころか逆に雇用削減を図り、さらに価格転嫁の形で消費者が負担を強いられるとしている。

米国で流行中のキャンピングカーも足踏み状態

CNN(6月7日)は、鉄鋼・アルミへの関税により、アメリカ国内でブームのRV(米国では「キャンピングカー」を指す)業界にマイナスの影響が出ていると指摘した。RV業界は2017年には前年比17%の売り上げ増を示すなど、米国の新しい自動車文化として注目を集めている。しかし、ムーディーズによれば、アルミニウムは昨年から19%、鉄鋼は2018年初頭に比べ28%価格上昇。これが影響し、世界最大のRVメーカーThor Industries(ソア・インダストリーズ)は、値上げと利益率低下を強いられていると同記事は報じた。

キャンピングカー
好調だったRV業界にもブレーキが…(Thor Industries ホームページより)

なおTIMEは、輸入鉄鋼への関税措置が自動車業界へ与えた打撃は大きく、3万5000ドルの自動車1台あたり175ドルのコスト増に及ぶと試算結果を紹介している。

追加関税により予想される自動車の値上げは

トランプ大統領は外国の自動車製品や部品に25%の関税を課す計画も講じている。TIMEによれば、これにより米国工場がないジャガーやローバーは最も深刻な打撃を受ける。しかしGMでも国内販売台数の2/3をカナダ・メキシコ工場での生産に頼っているため、被害を免れえず、輸入自動車一台あたり4000-5000ドルの価格上昇が生じると試算。またロイター(6月27日)によれば、米国自動車工業会は、25%の関税を輸入車に課した場合、現在進行中の自動走行車の研究が阻まれることに加え、平均5800ドルの価格上昇につながり、アメリカの消費者の年間負担額は計450億ドルに及ぶとの試算結果を示した。

過度の憂慮は不要とする立場も

一方、The New York times(6月15日)は、ゴールドマンサックス、Tax Foundation、全米小売連盟の「懸念はあるものの、現時点で成長率やインフレへの影響は限られアメリカ経済を直撃するおそれは低い」とする見解を紹介。また、TIMEも鉄鋼・アルミへの関税は缶詰業界のコスト上昇の懸念を呼んだが、今のところ影響は軽微にとどまっている模様としている。

なお、BBCは「保護主義の対極として自由貿易が万能ともいえない」とコメントした。自由貿易の下、各企業がコスト・価格引き下げに走れば、世界経済の押し上げに動く可能性がある半面、自国製品への固執も薄らぐため、富める国ほど失職が生じ貧富の格差が一層拡大すると理由づけたうえで、いずれにせよ「大国同士の土壇場対決(showdown)は誰にとっても良い結果を生みださない」と締めくくっている。

<参考記事>
https://www.usatoday.com/story...
https://www.bbc.com/news/world...
http://money.cnn.com/2018/06/0...
https://www.nytimes.com/2018/0...
http://time.com/money/5316029/...
https://www.reuters.com/articl...

文:Yuu Yamanaka/編集:M&A Online編集部