シャイアー以来の大型M&A「武田薬品」の狙いとは

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武田薬品工業<4502>は、2019年に6兆2000億円もの巨費を投じて買収したアイルランドの製薬大手シャイアー以来の大型M&Aに踏み切る。

皮膚病の一種の乾癬(かんせん)や炎症性腸疾患向けのパイプライン(新薬候補物質)を持つ米国の創薬企業ニンバス・セラピューティクス(ボストン)の子会社であるニンバス・ラクシュミ(同)の買収に40億ドル、約5485億円を投じるのだ。

さらに新薬の開発が成功して売上高が40億ドルと50億ドルとなった場合には、それぞれにつき10億ドル(約1370億円)を追加で支払うという。

武田薬品はシャイアー買収で膨らんだ有利子負債を、調整後EBITDA(税引き前利益に支払い利息と減価償却費を加えた値)の2倍台前半に引き下げることを目標に非中核事業の売却などに取り組んできた。今回の大型M&Aでこの倍率は2倍台半ば近くになる見込み。

財務体質の改善よりも新薬開発を重視し将来の成長を選択したわけだ。その新薬候補物質とはどのようなものなのか。

新薬候補は酵素の働きを抑える物質

新薬の開発に携わっているのはニンバス・セラピューティクスで、武田薬品が買収する子会社のニンバス・ラクシュミは、新薬候補の自己免疫疾患に関わる酵素の働きを阻害する物質の知的財産権を持つ。

酵素は、ある物資から他の物質を生成するのを助ける機能を持っており、今回の新薬候補物質は、酵素にある物質が結合するのを阻害することで、酵素の働きを抑える。

現在、複数の自己免疫疾患を対象に臨床試験を行っており、乾癬や炎症性腸疾患、乾癬性関節炎など複数の免疫介在性疾患で、有効性と安全性が他の既存薬よりも明確に優位(ベスト・イン・クラス)である可能性があるという。

2023年初めに中等度から重度の尋常性乾癬患者を対象とした第2b相臨床試験の結果を公表するとともに、同年から乾癬を対象とした第3相臨床試験に入る予定だ。

中核事業の、がん領域でベンチャーを買収

ニンバス・セラピューティクスは2010年設立の若い企業で、創薬が困難とされてきた分野で、最先端の計算機技術と機械学習技術を用いて、画期的な低分子化合物を創出している。今回の自己免疫疾患のほかにも、がん、炎症性疾患、代謝性疾患などの新薬候補物質を持つ。

武田薬品はシャイアーの買収で膨らんだ借入金の返済のために大阪本社などの不動産をはじめ、ビタミン剤「アリナミン」や総合感冒薬「ベンザ」などの一般医薬品を手がける子会社や、糖尿病治療薬4製品の日本での製造販売承認と特許などの関連資産などを売却してきた。

ただ、武田薬品が中核事業と位置付ける、がん領域などでは、免疫細胞の特性の探索に特化した企業である英国のガンマデルタ・セラピューティクスや、免疫細胞を用いた、がん治療薬を開発中の英国のアダプテート・バイオセラピューティクス、さらにはT細胞を活用した、がん治療法を開発している米国のマーベリック・セラピューティクスなどのベンチャー企業の買収を行ってきた。今回の大型M&Aは、見込み通り大型の新薬につながるだろうか。

文:M&A Online編集部