直近10年で約2兆円をM&Aに投資
クロスボーダーの大型案件の代表
武田薬品工業<4502>のM&Aは、2008年に実施した買収価額約8,600億円の米ミレニアムや11年に実施した買収価額1兆円のスイスのナイコメッド社といったクロスボーダーの大型案件に代表される。最近10年で(買収資金が判明する案件だけでも)約2兆円をM&Aにつぎ込んだ。主力薬の特許が切れるという薬品会社にとって存続を脅かす経営課題の解決のため、武田薬品工業が弱い欧州や新興国の事業強化のために積極的なM&Aを行っている。
■武田薬品工業の行った主なM&A
年月 | 内容 |
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2005.3 | 子会社のエンバイロケミカルズなどを大阪ガス子会社に譲渡 |
2006.2 | ハウス食品と飲料・食品事業に関するハウスウエルネスフーズを設立(出資比率34%) |
2007.3 | 英国のバイオベンチャーであるパラダイム・セラピューティックを買収 |
2007.10 | ハウス食品とのハウスウエルネスフーズをハウス食品に譲渡 |
2007.11 | 住化武田農薬株式を住友化学へ譲渡 |
2008.2 | 米国のAmgenが保有しているがん、炎症、疼痛などの疾患領域における臨床開発品目に関するライセンス契約を締結し、Amgenの100%子会社であるアムジェンの株式を取得 |
2008.4 | 日立製作所との合弁会社である日立インスファーマの株式を日立製作所に譲渡 |
2008.5 | 子会社が米国バイオ医薬品会社Millennium Phamaceuticals(売上高558億円)の株式公開買付けを実施して8600億円で買収、その後吸収合併 |
2009.6 | 関係会社が米国のバイオ医薬品企業であるIDM Phama(売上高3億円)に対して、株式公開買付けを実施、株式の86.4%を56億円で買収 |
2011.10 | 欧州・新興国に強いスイスのNycomed(売上高3340億円)を1兆100億円で買収 |
2011.12 | がん領域の強化に向けて子会社が米国のIntellikineを150億円で買収 |
2012.6 | URL Phama(売上高480億円)を640億円で買収し、米国事業基盤と痛風領域フランチャイズを強化 |
2012.7 | ブラジルMultilab(売上高55億円)を200億円で買収 |
2012.10 | 米国のLigoCyteを48億円で買収し、ワクチン事業を強化 |
2014.3 | 子会社の成田分析研究所の全事業について、住化分析センターに事業譲渡 |
2015.2 | トルコにおける事業強化に向けたToplam Kaliteの買収を通じたNeutecからのポートフォリオの獲得(145億円) |
2015.4 | 水澤化学工業(売上高101億円)の全株式(54.2%)を43億円で大阪ガスケミカルに譲渡 |
M&Aによって海外展開の
大幅な加速に寄与している
武田薬品工業の売上高は、業績推移のグラフにあるように、緩やかに増加傾向にある(15年3月期の赤字の原因は、アクトスの訴訟費用約2,740億円を引当金計上したことによるものである)。
国内売上高が減少傾向にあるのに対し、M&Aの貢献によって海外売上高が大きく増加している結果、全体の売上高が増加していることが読み取れる。
例えば、09年3月期は08年5月に買収した米ミレニアムの貢献により北米の売上高が前期比約60%増加している。その後、北米の売上は減少傾向にあるが、12年に2社M&Aを実施しており、14年は北米での売上高が増加に転じている。
また、11年10月に買収したスイスのナイコメッドの貢献により、欧州の売上高が12年3月期で前期比約49%増加、13年3月期で前期比約22%増加している。
アジアの売り上げについても、12年3月期で前期比32%増加、13年3月期で前期比約57.9%増加している。売上高全体に占める海外売上高は、06年3月期で28%であったが、15年には60%と大幅に増加した。買収資金が多額で、割高で買収したとの批判的な分析をされることも多いが、仮にこれら2社の買収を行っていない場合、売上高が減少していることも推察される。少なくともM&Aは、海外展開の大幅な加速に寄与しているといえる。
BSの推移は、主要BS項目の推移図を参照されたい。12年3月期から純資産に対して総資産の割合が増加傾向、すなわち自己資本比率が下降傾向にあることがうかがえる。ナイコメッドのM&Aが要因の一つであると言える。財務面からは、武田薬品工業がリスクを取ってM&Aを積極的に行っている戦略が分析できる。
武田薬品工業は、14年3月期より国際会計基準を適用している。国際会計基準の適用された企業は、グローバルな資金調達に適している。また、国際会計基準は、M&Aにおいて発生する「のれん」が非償却となっており、のれんが発生する際の償却負担が無くなることがメリットである。15年3月期にはのれん残高が821,911百万円と、売上高の約半分に相当する金額が計上されている。
今後も積極的なM&A戦略を取る布石とも見える。近年では、15年2月にトルコでM&Aを実施している。武田薬品工業は日本企業の中において首位の地位にいるが、海外にはファイザーやノバルティス、ロシュなど大手海外勢があり、売上高で10位圏内にも入っていない。海外勢に対抗するために、武田薬品工業は、今後もM&Aを加速していく可能性があるだろう。
まとめ:M&A Online編集部