M&A指南 六つの大切なこと(4)何を伝え残すか。目的は何か。

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優先順位として

 「その会社の事業を存続させ、ひいては両社にとってメリットのある姿としたい」とうのがM&Aの目的であり、存続させる「事業」は技術であったり、多くの顧客であったり、ノウハウであったりします。

 実際の事例としては、薄利多売の方向性で進んできた企業が、高付加価値・高単価でやってきた企業を「自社の方向性・考え方を変える起爆剤にしたい。」という目的でM&Aを進めたこともありました。

 いずれにしても、そこには何か、伝え残したい非常に重要なものがあります。そして、その伝え残したいものが明確であって初めて、次の段階でどのように伝え残すかという検討に入り、その時にM&Aという手法が選択肢として浮上することになります。 

伝え残すこと以外が目的となると・・・

 もちろん、何かを伝え残したい、という目的以外のものが目的になることはあります。例えば、グループ内の会社が実態にそぐわなくなっているので整理したい、全国展開をしたい等々、他の目的のためにM&Aという手法が採用されることはあります。

 私が経験した事例で変わった目的のものに「そこの事業所の立地が欲しいからM&Aしたい。」というものがありました。

 これは大都市圏等でオフィス需要が逼迫しており、かつ、立地が大きなポイントとなるような業種で、まだ歴史の浅い急成長中の企業の場合、今後も起こり得る事例でしょう。

 大都市圏のオフィス街ではたまにあることですが、ある特定のビルに入居する場合に、入居の審査基準を充たすことができるのか否か、そもそも空室があるのか否か等々で思い通りの場所に事業所を設置できないことがあります。

 その時の事例では「とにかくどうしてもそのビル内にオフィスを構えたい」ということが最優先でした。もちろん、それ以外にも多くの目的はありましたが、本音の部分ではそれが最優先でした。

 そこにたまたま事業を譲渡したいという会社があり、検討を進めましたが、非常に難航した結果、その話しは無くなりました。

 「御社の立地が欲しいことが最優先。」という買い取り側の本音は、双方の条件の検討場面でも、端々で滲み出ます。

 やはり事業(または会社)を売却する会社には従業員がおられ、それまで体を張って継続してきた事業への思い入れもあります。その事例では結局のところ、M&Aの目的に問題があり、話しが進まなかったと考えています。 

これからM&Aに踏み切る経営者の方へ

 M&Aは手法であって目的ではありません。まずは目的を明確にし、その目的を達成するための手段を検討した上で結果的にM&Aという手法を採用するという手順を忘れないでください。双方の目的や考え方に大きな違いはありませんか。M&A以外にも、もっとシンプルで事前や事後のリスクが少ない手法はありませんか。

 充分に検討しても、途中でM&Aの話しが振り出しに戻る事例はいくらでもあります。重要なのはM&Aの目的です。途中で手法を変えることが最善という場合もあります。M&Aをする方にも、される方にも「お互いの目的を達成するためにはM&Aが最善」となった時、M&Aの実行に踏み切って下さい。

記事は事例の特定を避けるため、一部フィクションが含まれています。

文:高橋 秀彰