M&A指南 六つの大切なこと(1)銀行の提案って・・・

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よくあるご相談

 当事務所でしばしば相談を受ける内容に「銀行提案の内容についての見解を求められる」というものがあります。今までの経験上、銀行提案によるM&Aや事業承継対策案はテクニカルに過ぎることが多いです。

 例えば事業承継であれば、多くの場合「ホールディング会社を設立して・・・」という内容の提案となります。(もちろん、それはそれで一定の税務上の合理性はあります)

 これがM&Aとなると、ケイースバイケースで簡単に文章に書きにくいのですが、かいつまんで言うと、何らかの間接保有や、間接的なカネの流れ、ひと手間多いスキームとなっていることが多いです。新規に法人を設立することが含まれていることも多いです。そしてその内容は多くの場合、非常にテクニカルです。 

例えば・・・

 例えばかつて、とある銀行から、ある商材でフランチャイズ展開をしていて好業績となっている事業を譲渡したい会社がある、というハナシが当事務所のクライアントに持ち込まれたことがありました。ここではA社としましょう。

 A社の社長は若く、かつ、フランチャイザーとして展開している事業はもともとA社の本業ではありません。その若い社長さんは他にやりたいことがあり、本業でないフランチャイザー業務に経営資源(人・モノ・カネ・情報)を割きたくないことと、そこでの運転資金のための借入金の負担も軽くしたい、というのが事業を売却したい動機でした。

 ここで銀行が提案してきたスキームは、まずはそのフランチャイザー事業だけを切り離した新設分割の100%子会社を設立し、その100%子会社の株式を買い手側企業に売却する、というものでした。

 それはそれで一見スッキリしたスキームですが、その場合、法人を新設分割するにあたり在庫や債権債務や各種契約関係を整理し、さらにその後、その新設法人の株式を売買する時に再び在庫や債権債務の査定(デューデリジェンス)をしなければなりません。

 それであれば、新設分割をするであろう時に作成する情報をデューデリジェンスし、そのまま新設分割での法人設立をせずに、事業譲渡として債権債務ごと買い手側企業が直接事業を買い取る(または買い取り用の法人を新設し、そこが買い取る)方が二度手間にならず、かつ、素早く正確な情報に基づく実行ができます。


そのココロは

 銀行はなぜ、複雑でテクニカルなスキームを描く傾向にあるのでしょうか。

 それはもちろん、それが銀行にとって利益となるからです。銀行も営利企業です。自社の利益を減少させるような提案はしませんし、そのために動くはずがありません。

 どこかで手数料を取れるとか、手堅い融資を自行に乗り換えさせることができる等々、何らかのメリットがないと動きません。

 逆の立場になったらよく分かりますが、銀行の担当者なり、上役なりが、銀行の利益を減らす、つまり、銀行内での自分の評価を下げるような動きをするはずがありません。ですから、まずは銀行からの提案は疑ってかかるくらいが丁度良いのです。

 実は、大手コンサルティング会社(特に外資)も銀行と似た体質を持っています。

 これも良く誤解されているのですが、コンサル会社内で出世して偉い肩書が付いているコンサルタントは、コンサルスキルが高いから出世しているワケではありません。

 コンサル会社により多くのコンサル報酬をもたらすスキルに長けているから出世しているのです。

 これも銀行と同様に逆の立場になって考えたらすぐに理解できます。

 ここでなぜ、私のような外部の専門家にアドバイスが求められるかというと、我々は目先の報酬額よりも長期的なクライアントの発展の方を優先している存在だからです。言い方を変えると、超長期的な会社の発展が自分の発展であるという視点、つまり100%クライアントの立場で見解を述べるからです。銀行という巨大組織の中で、社内での自分の評価を優先してスキームを描くというスタンスとは根本的に違います。


 これからM&Aに踏み切る経営者の方へ

 銀行の提案やコンサルティング会社のレポートは、無視してもダメですし鵜呑みにしてもダメです。しっかりと自社で検討し、外部の専門家の見解を聞き、自分のものとしてから活用するようにして下さい。

 特にM&Aは相手のあることですから、自分も相手も理解して納得できるスキームと、ある程度の素早い決断を要します。せっかく長年お付き合いのある顧問の会計事務所や法律事務所等があるのであれば、その専門家の見解も聞いたうえで検討されることをお勧め致します。(次回は2月20日(火)に掲載します)



記事は事例の特定を避けるため、一部フィクションが含まれています。

文:高橋 秀彰