米国メディアは日本政府が強弁する「TAG」をどう報じたのか?

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安倍晋三首相は2018年9月26日、ドナルド・トランプ米大統領との日米首脳会談の中で、これまでは応じないとしてきた日米貿易に関する2国間交渉開始に合意し、共同声明を発表した。声明の日本語訳で用いられたのは「日米物品貿易協定(TAG)」という表現であり、安倍首相は「今回のTAG交渉入りはFTA(自由貿易協定)とは全く異なる」と強調した。

しかし、TAGという用語については、首脳会談に同席したウィリアム・ハガティ駐日米大使も「日本側の造語では?」と首をかしげたとされる。では、米国のメディアは今回の2国間交渉のスタートをどのような表現で報じたか。

FTAと別概念のTAGを用いることで、面目を保ちたい安倍首相

ロイターは9月27日、日米貿易協議は「一時しのぎとはなるが、不均衡是正のための万能薬ではない」との記事を掲載し、次の2点を指摘した。

同記事は、米国と日本でFTAという表現の使い方について認識が異なることを指摘した。米国としては、ロバート・ライトハイザー米貿易部代表が、「議会の承認を得て完全なFTAを目指して準備に入る」と述べており、TAGという別の概念が介在する余地はない。他方、日本の安倍首相は「交渉を開始するのはTAGであり、投資とサービスに関するルールを含む広範なFTAとは別物」と主張したと、同記事は米日を対比した。

TAGは政府による国内向けの「方便」なのか?(首相官邸ホームページより)

そのうえで、同記事は「今回の共同声明はサービスや投資もターゲットとしているにもかかわらず、日本側が無理なこじつけを行った」とコメント。さらに「TAGという概念を持ち出した安倍首相のスタンスは日本国内向けだ」と指摘し、背景に日本は「FTA交渉をしない」と日本国民に公言してきた経緯があることを挙げた。

日本の自動車輸出の繁栄は「風前のともしび」

さらに、ロイターは「ダモクレスの剣(栄華を誇っているように見えて危険と隣り合わせの状況)」とのサブタイトルの下、日本の自動車産業に警鐘を鳴らした。すなわち、日本の対米貿易黒字の約3分の2は自動車輸出によるものであり、今のところ日本の自動車メーカーはさらなる関税を免れている。

しかし、米国の物品貿易赤字に狙いを定めているトランプ大統領は「新たな交渉の進展が遅かったり成果が限定的になったりすれば、高い自動車輸入関税を課す、あるいは輸出抑制を求める可能性が強いだろう」と記事は推測している。

日本側はTAGを主張するが、米はFTA交渉を着実に進める

CNBCは同9月26日、「安倍首相は貿易2国間協議に同意、日本は自動車関税を避ける」との記事の中で、「(今回の交渉入りは)TAGであってFTAではない」との日本側の主張を報道した。具体的には、安倍首相が、今回の交渉入りを、日本が抵抗している投資とサービスに関する規制を含む広範なFTAではなく、物品に関する貿易協定のTAGと強調したことを紹介した。

しかし、記事は続いてライトハイザー米貿易部代表が、記者団に「私はファーストトラック権限法上議会の承認を得る完全なFTAをめざしている」と述べたことも明らかにした。同法は交渉開始の90日前に議会に告知されることを要求しているが、同代表は木曜日にも議会と協議すると述べたとされる。

同代表は、いつ自動車の貿易不均衡について協議されるかについて答えなかったものの、自動車が主要な対象物品であることを認めた。

 「日本はFTA交渉入りに同意」―TAGには一切言及せず

米国の国営放送ボイス・オブ・アメリカは同9月26日、日本側が用いたTAGという表現については一切触れず、「米日が2国間FTAの交渉を開始する合意をした」と報じた。同報道は、トランプ大統領が、政治的に敏感な日本の農業市場の解放や、自動車とその部品の輸入制限と高関税を切望してきたことにふれたうえで、日本当局はこれらに戦々恐々としていると説明。

そのうえで、「(この交渉準備は)輸出依存経済の日本が長年避けたかったことだが、今は彼らも前向きになっている。そのため、我々は非常にハッピーで満足できる結果になると信じている」とのトランプ大統領の発言を紹介した。

あわせてライトハイザー米貿易部代表の、記者団に対する「米日は完全なFTAを近いうちに承認することを目指している」とのコメントも明らかにした。

<参照記事>
https://www.voanews.com/a/us-j...
www.cnbc.com/2018/09/27/us-jap...
https://www.reuters.com/articl...

文:Yuu Yamanaka/編集:M&A Online編集部