スプリントとTモバイルUSの合併承認 鍵を握るのは米政府

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ソフトバンク子会社スプリントとTモバイルUSの合併承認へ

鍵を握るのは米政府と全米各紙が報道

ソフトバンクグループは、傘下にある米携帯電話4位のスプリントと、同3位のTモバイルUSの経営統合について、Tモバイル親会社の独テレコムと大筋合意した。今回の合併が実現すれば、米国内2強のベライゾン・コミュニケーションズとAT&Tに迫る規模の会社が誕生し、3強時代を迎えることになる。

このニュースは、9月下旬以降、米国内のメディアを賑わせている。報道内容の特徴として、今回の合併を米連邦通信委員会(FCC)が承認するかどうか、米国内の政治情勢と突き合わせつつ分析する記事が多い。

表1:米国の携帯事業会社ランキング

順位 企業名 携帯電話契約者数(百万人) 売上高(百万米ドル)
第1位 ベライゾン 147.26
163,786
第2位 AT&T 136.5 125,980
  Tモバイル+スプリントUS 122.28  
第3位 Tモバイル 69.56 37,242
第4位 スプリントUS 52.72 33,347

※売上高は、携帯電話事業以外も含む
※ソースは、各社有価証券報告書(売上高)、Statista(2017年2Q契約者数)

表2:米国の携帯電話契約者数推移(Statista)

Statista https://www.statista.com/stati...

「鍵を握るのはトランプ大統領」―米ニューヨーク・タイムズ紙

米ニューヨーク・タイムズ紙によると、両社の合併案は米規制当局の認可を得る必要があるが、その鍵を握るのはトランプ大統領であるとしている。大統領は、国内ビジネスの活性化を図る一方、アメリカ一般市民を意識したポピュリズムにも重きを置いている。米当局としては、(認可を出さず)TモバイルUSの現状維持を図ることで、他社からの乗り換えニーズの受け皿をこのまま確保しておきたいところだろう。 

TモバイルUSは、他社から乗り換える際の解除料金負担など独自のサービスを誇る。また同社は、貧困層やクレジットカードを持たない層から歓迎される製品(プリペイド市場)に強い。S&Pの試算によれば、スプリントとの合併により、同市場の50%以上を新会社が占めることになる。直接対決の競争が失われることにより、料金引き上げにつながり、経済的に恵まれない利用者の負担が増加すると懸念する声も聞かれる。 

両社は大枠で合意したと伝えられるが、スプリントを統括する日本のソフトバンクグループがTモバイルUSとの話し合いを、米当局の反対により断念した3年前に比べ、成功の見込みが高まったとは言いきれないと同紙は指摘。

認可を下ろせば民主党からの政治的反発も予想され、民主党はトランプ政権への「攻撃材料」を手にしうるだろう、と結論づけている。

「中間選挙での民主党勝利予測がキーとなる」―米フォーチュン誌

米フォーチュン誌の論調を整理すると、次のとおりだ。

トランプ大統領誕生後、孫正義氏のソフトバンクグループが率いるスプリントは、指折りの合併候補だった。オバマ前大統領の管理下、規制当局は2011年のAT&Tに続き、2014年にスプリントがTモバイルUSとの経営統合に関心を示したときも認可を下ろさなかった。これは規制当局が、合併により携帯電話会社が4社から3社に減り自由競争を妨げうることと、統合が膨大な従業員解雇を生み出すと懸念してのことだった。 

しかしトランプ大統領のビジネス寄りのスタンスは、オバマ政権と異なり、認可を下ろす結果につながりうる。スプリントの市場シェアは、TモバイルUSとの経営統合への楽観論から、大統領選出直前の6%から今年早々には10%へと跳ね上がった。

しかしそういった「バラ色の展望」は、トランプ政権の混乱と2018年の中間選挙での民主党の勝利の期待を受けて、失望へと変わった。民主党は、企業独占の解消などを求めるアジェンダ“Better Deal”を公表しており、企業合併は消費者にとっての脅威と位置づけている。こういった理由から、今回の合併の見通しについては「悲観的」と見られる。

「米当局内でも多様な意見」―米ワシントン・ポスト紙

米ワシントン・ポスト紙は、9月にFCCが公表したレポートを交え、次のように解説した。

9月のFCCのレポートによれば、携帯電話料金の下落、無制限利用プランの人気とネットワークの品質向上を受けて、携帯電話の業界は激しい競争にさらされている。消費者にとっては「(競争の)恩恵を受けている時代」だが、スプリントとTモバイルUSの合併話を受けて、この幸福の享受が続くかどうかを懸念する声もある。

FCC内部でもさまざまな意見が聞かれる。FCCのジェシカ・ローゼンワーセル氏は「皆と同様、私も「舞台裏で出番を待つ合併」の報告を受けている」と語り、「このレポートは4社が競合する現況を祝するものだが、4社のうち2社を統合する動きに注目したい」とコメント。

一方、同レポートをふまえ、アジット・V・パイ委員長は、「大半の分別ある人間は、獰猛で競争の激しい市場を望むものであり、議論の余地はない」と発言しており、FCC内部でも静観派と推進派がいるようだ。

孫氏の悲願達成なるか

合併によって、ベライゾンやAT&Tというライバルと競うーこれは2014年からの孫正義氏の悲願である。けれども、政治権力が、電信業界を含めさまざまな産業の独占問題に関心を寄せている今、詳細は微妙な駆け引きを伴うことになるだろう。

翻訳・文:Yuu Yamanaka/編集:M&A Online編集部

<参照URL>
https://www.nytimes.com/reuters/2017/10/11/business/11reuters-sprint-corp-m-a-t-mobile.html
http://fortune.com/2017/10/10/sprint-t-mobile-merger-blocked/
https://www.washingtonpost.com/news/the-switch/wp/2017/09/26/the-wireless-industry-is-competitive-the-fcc-finds-but-some-wonder-for-how-long/?utm_term=.15392a598f50