2021年も残すところあとわずか。日本企業のM&Aを振り返ると、歴史的なビッグディールこそなかったものの、エポックメイキングとなる案件が多かった。M&Aに詳しい専門家、実務家に2021年のM&Aを「漢字1文字 」で振り返ってもらうと…
「敵」 早稲田大学大学院 客員教授 服部暢達
2021年の日本のM&A市場は敵対買収がいくつか発生した。これまで日本では敵対買収は殆ど発生することが無かったが、ひょっとすると2021年は今後日本でも敵対買収がある程度起こるようになるきっかけの年だったかもしれない。
敵対買収というと日本では昭和の仕手戦のイメージが強くて「悪いこと」と思われがちだが、実は敵対買収はある程度発生した方が、非効率な経営者を退場させるメカニズムとして、あるいは多くの経営者に非効率な経営をしていると敵対買収者に退場を宣告されるという緊張感をもたらし、全体の経営効率が上がるという効果を生むもので、それ自体は決して悪いものではないのだ。
そもそも敵対的とは現経営陣に対して敵対的という意味に過ぎない。株主にとっては非効率な経営者を退場させて、株式を高値で買い取ってくれるのだからむしろ歓迎すべきともいえる。
但し条件がある。買収者は議決権の全てを買い取らなければ公正とは言えない。51%を買うだけでは元々の株主は持株の半分しか売れないのに買収者は経営権を獲得してしまうからだ。そういう意味ではSBIによる新生銀行の敵対買収提案は公正な提案とは言えない。
一方、対象会社は防衛策などを使って敵対買収に対抗する権利が一定程度認められている。しかし敵対買収は買収者と発行済み株式の株主との間の取引であり、対象会社とその経営者は取引の当事者ではない。当事者ではないものが、他人の財産を他人が高値で売り抜ける機会を奪ってしまっては財産権の侵害になってしまう可能性がある。
従って経営者が敵対買収に対抗するのは提案されている買収条件が株主にとって公正ではないか、あるいは不利な条件であると合理的に説明できる場合に限られる。
アメリカではこういった条件がユノカル判決等の判例で市場に広く理解されている。日本ではこういった裁判例がまだ全くないので、この点の理解が不十分といえる。
日本もそろそろ、買収者と経営者が敵対買収と対抗策を公正なルールに則って運用することで、非効率な経営者を退場させるメカニズムが機能する株式市場になってもらいたい。2021年がそのきっかけになることを祈りたい。
「敵」 京都大学経営管理大学院 教授 松本茂
経営陣と企業価値向上の手腕を競う敵対的買収が本格化した1年だった。
「闘」 早稲田大学 大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授 鈴木一功
今年も、企業の経営権を巡る争いがクローズアップされた1年でした。一昔前の、安定株主により現経営陣の地位や経営方針はまず安泰という時代は去り、「闘」って多数株主の支持を得ないと、経営権の維持や獲得はできない時代になった印象です。
ざっと思いつくだけでも、経営権を巡る争いが表面化した事案は、東京製綱、日本アジアグループ、東芝、富士興産、東京機械製作所、関西スーパーマーケット、そして新生銀行がありました。
私自身は、企業の経営権を巡っての「闘い」はポジティブに捉えています。
現経営陣と、外部のアクティビストや買収候補者が切磋琢磨することにより、結果として当事者に説明責任が生じ、緊張感を持って経営が行なわれることになれば、企業にとっても経済全体にとってもプラスの影響があると考えるからです。
今年は「闘い」の中で、有事の買収防衛策の発動事例も見られましたが、安易に防衛策に頼るのではなく、そもそも外部者の介入を許さないような質の高い企業経営が、常日頃から行なわれることを期待しています。
敵対的買収をめぐる紛争がいくつもあったため。
新型コロナの影響もあり、譲渡相談が増えております。また、コロナ融資等で手元資金が厚くなっている譲受企業がM&Aにより譲受けしたいというご要望も多く、2020年に比べその状況がさらに顕著に出ているように思います。
業績や成約件数も過去最高となっているM&A業者等も多いので、2021年のM&A動向を一文字で表すと、「活」と言えるのではないでしょうか。
敬称略・順不同、まとめ:M&A Online編集部