金融庁の課徴金納付命令額、早くも前年度5倍超に

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金融庁(東京・霞が関)

金融庁の証券取引等監視委員会が2022年度に課徴金納付命令を勧告した不正事案が9月15日現在で12件に上り、早くも2021年度に並んだ。また、金融庁が納付命令を発出した課徴金額は、2021年度(6億3,148万円)の5倍を上回る32億4,771万円に達している(日産自動車に係る有価証券報告書等の虚偽記載に対する課徴金納付命令決定の変更処分22億2,489万円を含む)。

課徴金制度は2005(平成17)年の改正で、違反行為を抑止するため課徴金の算定率を引き上げ、再度違反者に対しては1.5倍に割り増しする一方、調査に協力した事業者には減免を適用する制度を導入した。株式公開買い付け(TOB)や経営陣による買収(MBO)を含めたM&A市場が活発化する中、金融取引などの公正性・健全性をいかに守るかが課題となっている。

累計452件のうち350件がインサイダー

証券取引等監視委員会事務局が2022年6月に公表した資料によると、課徴金勧告数の大半はインサイダー取引で、2005年度から2021年度までの累計452件のうち350件(77%)を占める。また、特定の株式の売買が頻繁に行われていると他の投資家に誤解させて取引を誘引する相場操縦も97件を数える。

年度別の勧告数を見ると、2013、2014年度は42件ずつで、2016年度は過去最多の51件に達したが、2017年は26件と半減。2020年度は14件、2021年度は12件とさらに減少した。課徴金額も2013年度の46億806万円をピークに下降傾向にある。

1件当たりの課徴金額は高額化の傾向に

ただ、2021年度の課徴金額は5割超の5,557万円をインサイダー取引が占めた。インサイダー取引に対する課徴金納付命令の勧告件数は2020年度に15年ぶりの1桁台にとどまり、2021年度は2005年度の4件に次いで少ない6件だったが、課徴金額は32件が勧告された2013年度(5,096万円)を上回った。

こうしたことから、1件当たりの課徴金額は高額化の傾向が表れている。2005年度以降の累計勧告数に占める「1,000万円超~1億円」の割合は8.8%だが、2021年度は5倍近くの41.7%に増加。一方、「10万円超~50万円」の少額案件は24.8%から8.3%に減少した。

1件当たりの課徴金額の割合
金融庁「金融商品取引法における課徴金事例集」P3より引用

金融庁は9月に入って5件の納付命令を決定

金融庁は9月に入り、証券取引等監視委員会が2019年12月に課徴金納付命令を勧告したインサイダー取引1件を含む計5件に対して納付命令を決定するなど、処分を活発化。9月12日には、英国法人の投資会社アトランティック・トレーディング・ロンドン・リミテッドによる長期国債先物の相場操縦に対し、課徴金4,285万円の納付命令を下した。

決定日 種別 課徴金額 勧告の概要
2022/9/1 インサイダー 1億9,625万円 イノテックとの契約締結交渉者役員による内部者取引(業務提携=中止)
9/1 偽計 1,500万円 アジア開発キャピタルにおける有価証券報告書等の虚偽記載
9/1
偽計
600万円 北弘電社における有価証券報告書等の虚偽記載
9/1
相場操縦
415万円 京写株式に係る相場操縦(仮装売買)
9/9
相場操縦
4,285万円 アトランティック・トレーディング・ロンドン・リミテッドによる長期国債先物に係る相場操縦

証取委も9月に3件の勧告

証券取引等監視委員会も9月だけで3件の課徴金納付命令を勧告。2022年度に発表された勧告の内訳は、相場操縦やインサイダー取引などの不公正取引関係が7件、有価証券報告書等の虚偽記載など開示規制違反関係が5件となっている。

関西みらいFG社員と親族がインサイダー取引

9月2日には、りそなホールディングスによる関西みらいフィナンシャルグループへのTOBなどの内部情報に基づきインサイダー取引をしたとして、関西みらいFGの男性社員に課徴金163万円の納付を命じるよう勧告。男性の親族女性のインサイダー取引も認定し、課徴金31万円の納付命令を勧告した。

日本板硝子株などの買い見せ玉で相場操縦

6日には、日本板硝子株とツカダ・グローバルホールディング株の相場操縦をしたとして、会社役員の男性に課徴金215万円の納付命令を勧告。男性は2020年4月から6月にかけ、第三者の売買を誘引するために買い見せ玉と呼ばれる不正な手口で買い付け委託を繰り返して株価を引き上げ、売買による利益を得たとされる。

TOB情報公表前の株取引を知人に推奨

さらに、9日には名古屋市のビルメンテナンス会社、大成の男性社員に対し、TOB情報公表前に知人に株取引を推奨したとして課徴金21万円の納付命令を勧告した。男性は2020年12月に大成株のTOBに関する情報を職務上知りながら、その事実が公表される2021年2月より以前に知人に利益を得させる目的で同社株の買い付けを推奨したという。

(注)文中いずれも平成20年度までは事務年度ベース(7月1日から翌年6月30日)、平成21年度からは会計年度ベース(4月1日~翌年3月31日)。ただし、平成20事務年度のみ会計年度ベースへの移行のため20年7月1日~21年3月31日。

文:M&A Online編集部

関連リンク:
・令和4年度課徴金納付命令等一覧:金融庁
・報道発表(令和4年)―不公正取引関係:証券取引等監視委員会
・報道発表(令和4年)―開示規制違反関係:証券取引等監視委員会
・金融商品取引法における課徴金事例集~不公正取引編~