東証の「適時開示」ベースで、経営権の異動を伴う子会社化などの買収案件(グループ内再編は除く)を集計したところ、3月は49件と前月に比べ4件減った。買収金額をみると、比較的大型案件が目立ち、日本たばこ産業(JT)<2914>はロシアのたばこメーカー4位、ドンスコイ・タバックを約1900億円で、東レ<3402>はオランダの炭素繊維メーカーを1230億円でそれぞれ子会社化することを発表した。これらを含めて100億円超が5件(前月2件)にのぼり、20億円超だと13件と前月より6件多かった。また、日本企業による海外企業の買収(IN-OUT型)9件中、3件はオランダ企業を対象としたもので、東レの案件以外も金額は166億円、91億円といずれも規模が大きかった。
東証の適時開示は上場企業(東京、名古屋、福岡、札幌の各証券取引所に上場)に義務付けられた「重要な会社情報の開示」のことで、公正な株価形成と投資家保護を目的とする。さまざまな開示情報のうち、ここでは子会社化、事業譲受の買収案件についてM&A Online編集部が集計した。
JTはロシア市場で3割強のシェアを握る最大手。ロシアで約7%のシェアを持つドンスコイは低価格帯商品に強みがあり、今回の買収により、シェアは約4割に達する。国内市場の苦戦が続く中、成長の基盤である海外事業を強化するのが狙い。ドンスコイのほか、ギリシャとロシアの2社を買収する。買収総額は約1900億円(有利子負債190億円を含む)。買収は2018年7~9月に完了する見通し。
JTは1999年、米RJRナビスコから米国を除くたばこ事業を買収し、ロシアに進出。さらに2007年、ロシアに地盤を持つ英ギャラハーを買収したことで、ロシアで最大手になった。ロシアは中国、インドネシアに続く世界第3位のたばこ市場。
東レが買収で合意したテンカーテ・アドバンスト・コンポジット・ホールディングス(TCAC)は熱可塑性を用いた炭素繊維基材でトップクラスにあり、航空宇宙分野で豊富な採用実績を持つ。買収金額1230億円は同社として過去最大のM&Aとなる。2018年後半に一連の取得手続きを終える見通し。
3月発表の買収案件49件のうち、IN―OUT型は9件(前月9件)だったが、いずれも規模が大きい。日本通運<9062>はイタリアのアパレル物流会社、トラコンフ(ヴェローナ)を190億円で完全子会社化する。同社は2013年に同じイタリアのアパレル物流大手、フランコヴァーゴ(フィレンツェ)を買収。両社の連携を通じてファッションロジスティクス分野で国際間輸送から製品保管、配送までの一貫サービスを高品質に提供する考えだ。
三精テクノロジーズ<6357>は、遊戯機械メーカーのオランダVekoma Ridesの全株式を166億円で取得した。三精は2012年に、米国の同業大手S&S Worldwideを傘下に収めており、日米欧の3極でグローバルな生産・販売体制を実現し、世界トップの遊戯機械メーカーを目指す。
業種で目立ったのは人材派遣・職業紹介などの人材サービスの5件で、それも海外が活発だった。アウトソーシング<2427>はオランダの人材サービス大手、OTTOの株式56%を91億円で取得。同社は2017年、ドイツに進出し、主に製造業への派遣事業を始めているが、OTTOグループと組んで欧州での業容拡大を加速させる。シンガポールでは、ジェイエイシーリクルートメント<2124>が31億円、テクノプロ・ホールディングス<6028>が25億円を投じて現地人材サービス会社を子会社化した。
上場企業同士の案件は1件。「牛角」「どさん子」などをFC展開するアスラポート・ダイニング<3069>は持分法適用会社で食品・酒類卸のジャパン・フード&リカーアライアンス<2538>を株式交換で完全子会社化することを発表した。
一般消費者に身近な企業が絡むM&Aもあった。
M&Aを成長戦略の前面に押し出ているRIZAPグループ<2928>は、フリーペーパーを発行するサンケイリビング新聞社(東京都千代田区)の株式80%を、親会社のフジ・メディア・ホールディングス<4676>から取得し、子会社化した。取得金額は非公表。サンケイリビングは「リビング新聞」「シティリビング」などを編集・発行し、総発行部数は956万部。RIZAPは2017年2月、フリーペーパー発行首位のぱど(東京都品川区)を子会社化しており、サンケイリビング新聞社を取り込むことにより、発行部数は2000万部を超え、圧倒的ナンバーワンを実現する。
また、ラオックス<8202>はインターネット通販のロコンド<3558>と組み、ニッセンホールディングス子会社でギフト用品卸大手、シャディ(東京都港区)の全株式を4月末に20億円で取得し、子会社することを発表した。
〇3月の金額上位のM&A(譲渡案件も含む。社名は一部略称表記)
社名 | 内容 | 金額 |
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日本たばこ産業 | ロシアのたばこ4位、ドンスコイ・タバックを子会社化 | 1900億円 |
東レ | オランダの炭素繊維メーカー、テンカーテを子会社化 | 1230億円 |
JXTGホールディングス | 細胞培養用培地の日米2社を富士フイルムHDに譲渡 | 852億円 |
日本通運 | イタリアのアパレル物流会社トラコンフを子会社化 | 190億円 |
日医工 | 後発薬のエルメッドエーザイを子会社化 | 170億円 |
三精テクノロジーズ | オランダの遊戯機械大手Vekomaを子会社化 | 166億円 |
エア・ウォーター | コークス炉ガス精製事業を新日鉄住金に譲渡 | 150億円 |
アウトソーシング | オランダの人材会社OTTOを子会社化 | 91億円 |
レンゴー | トッパンコンテナーを子会社化 | 50億円 |
モリト | スポーツ用品輸入のマニューバーラインを子会社化 | 35億円 |
リニカル | 米の医薬品開発受託業務事業Accelovanceを子会社化 | 33億円 |
JACリクルートメント | シンガポールの人材サービス会社、JACリクルートメント・アジアを子会社化 | 31億円 |
テクノプロHD | シンガポールの人材サービス会社、へリオス・テクノロジーズを子会社化 | 25億円 |
ラオックス | ギフト販売卸のシャディを子会社化 | 20億円 |
東京エレクトロンデバイス | FA関連事業のファーストを子会社化 | 20億円 |
3月は「後継者不在」をM&Aの主な理由とする案件が二つあった。モリト<9837>がマリンレジャー用品などの輸入販売を手がけるマニューバーライン(大阪市)を、ダイトウボウ<3202>が生地商社の和田哲(大阪市)をそれぞれ買収したケースがそれだ。マニューバーライン、和田哲の両社とも業績は安定して推移しているが、後継者不在に伴う事業承継が課題となっていた。
一方、主な譲渡案件はどうか。エア・ウォーター<4088>はコークス炉ガス精製事業を新日鉄住金に150億円で譲渡を決めた。また、JXTGホールディングス<5020>がグループ会社で細胞培養用の培地メーカーである米アーバイン・サイエンティフィック・セールス・カンパニー(カリフォルニア州)とアイエスジャパン(埼玉県戸田市)の全株式を富士フイルムホールディングス<4901>に852億円で譲渡することを決めた(※このケースは富士フイルムHDにおいて適時開示の対象となっていないため、今回集計の3月分の買収案件数にはカウントしていない)。
参考までに、東証の適時開示以外をみると、新日鉄住金<5401>が山陽特殊製鋼<5481>を2019年3月をめどに子会社化する方向で検討を始めるとの発表があった。現在の15.3%の出資比率を51%超に引き上げる。新日鉄住金は特殊事業強化の一環として、スウェーデンの有力メーカー、オバコを今秋に完全子会社することも同時に発表した。
文:M&A Online編集部