事業承継と事業継承はどっちが正解!?

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事業承継」と「事業継承」はどちらが正しい!?

 日本社会の高齢化が進む中、中小企業・小規模事業者の経営者の高齢化が進展しています。平成28年12月に公表された中小企業庁の「事業承継ガイドライン」によると、経営者のうち最も多い年齢は、平成7年には47歳だったのが平成27年には66歳となり、この20年間で約20歳も上昇しています。

 中小企業・小規模事業者の経営者の引退年齢は平均67〜70歳であることから、今後数年間で事業承継の時期を迎える中小企業・小規模事業者が多数発生すると考えられます。よって、事業承継は、重要な経営課題となっています。

 その影響から、近年ではテレビ、新聞、書籍などで「事業承継」という言葉をよく目にするようになりました。類似するものとして「事業継承」という言葉を使用する人もいます。本稿では、事業承継と事業継承」について説明します。

「承継」と「継承」の違い

 「事業承継」は「事業」と「承継」、「事業継承」は「事業」と「継承」に分解できます。『大辞林 第三版』によると、「承継」と「継承」は、次のように解説が記載されています。

承継:先の人の地位・事業・精神などを受け継ぐこと。
継承:先の人の身分・権利・義務・財産などを受け継ぐこと。

  「承継」は、前任者が長年培ってきた理念や思いなど抽象的なものを受け継ぐことです。主に権利または義務を引き継ぐことのみを差す法律用語でもあり、「労働契約承継法」、「中小企業経営承継円滑化法」、「事業承継税制」といった呼称、民法の条文、契約書などで、「承継」の表記が使用されます。「承継」は「承ってから継ぐ」という言葉の順番から、前任者が長年培ってきた理念や思いを理解し、自分の中で承認してから受け継ぐというイメージがあります。

 一方、「継承」は、前任者があるものに対して得た資格や経済的価値など具体的なものを受け継ぐことです。文化などを受け継ぐことを含む、広い意味でも使用されます。

 「継承」は「継いでから承る」という言葉の順番から、前任者から資格や経済的価値などを先に受け継いでから、後で自分の中で承認するというイメージがあります。つまり、「承継」と「継承」では、受け継ぐものの内容、受け継ぐことを承るタイミングが異なります。

後継者に受け継ぐ「経営資源」3つの要素

 ここで、経営者が後継者に受け継ぐ経営資源について説明します。主に3つの要素で構成されます。

図表1 事業承継の構成要素

経営資源 構成要素
人(経営)の承継 経営権、後継者の選定・育成、後継者との対話、後継者教育
資産の承継 財産権、株式、事業用資産(設備・不動産等)、資金(運転資金・借入金等)、許認可
知的資産の承継 経営理念、経営者の信用、知的財産権(特許等)、ノウハウ、顧客情報、従業員の技術や技能、取引先との人脈、許認可等

(参考:中小企業庁「事業承継ガイドライン」(平成28年12月)、中小企業庁「会社を未来につなげる 10年先の会社を考えよう」)

 かつては、後継者への株式移転に必要な資金調達や相続税・贈与税の節税対策から、「資産の承継」が重視される傾向がありました。近年は、日本の少子高齢化の影響で労働人口が減少し、日本企業で従業員の人材不足や後継者の不在が深刻化している状況から、「人(経営)の承継」が重視されています。

 「人(経営)の承継」は、書類等の手続きで資産を受け継ぐのと比べて、後継者の選定・育成などに中長期的な期間を要します。また、「知的資産の承継」についても、経営理念や技術ノウハウなどの目に見えない資産は、他社に模倣されにくい、差別化できる資産として重視されています。

事業承継」と「事業継承」、どちらを使えばよいのか?

 では、「経営者から後継者に事業を受け継ぐこと」は、「事業承継」と「事業継承」、どちらの言葉を使用したらよいのでしょうか。

 後継者に会社を引き継ぐには、経営、税務、法律、労務、相続など多方面に問題が生じる可能性があります。それらの問題解決には、株式の移転や税金対策は税理士、事業承継に関する紛争問題の解決は弁護士、役員慰労退職金規程の作成は社会保険労務士、会社登記の代表者変更手続きは司法書士、事業計画の策定や後継者教育は中小企業診断士など、様々な専門家の協力が必要となります。

 また、最近では第三者へ事業を承継するM&Aもさかんに行われています。お相手(譲渡先)を探し、M&A全般を取り仕切るM&A仲介会社に依頼したり、国の支援機関である「事業承継・引継ぎ支援センター」が窓口となるケースも増えています。

 問題解決のための相談内容が資産や税金対策に集中する場合は「事業継承」の言葉が適しているかもしれませんが、上記にある説明のとおり、近年は、人(経営)や知的資産の承継が重視されていることに加え、法律用語や税制の呼称に「承継」の文字が使用されているから、一般的には「事業承継」の言葉を使用するのがよいでしょう。

文:中小企業診断士 和田 純子/編集:M&A Online編集部