スタートアップへの出資を行っているゼロワンブースターキャピタル(東京都千代田区)は2023年11月28日に、スタートアップ⽀援事業「SPIN X10(スピンエックス)」のキックオフイベントを開催した。
SPIN X10は企業内に眠る才能を、スピンオフやスピンアウトによって発掘することを目的にした、セミナーや交流会、メンタリング(助言)、投資家や企業とのマッチングなどからなる取り組みで、東京都の「多様な主体によるスタートアップ⽀援展開事業(TOKYO SUTEAM)」に採択され、参加費は無料。
2024年9月30日まで参加者を募集(定員に達し次第募集を締め切り)し、2025年上旬にマッチングイベントを開催する予定。
同イベントでは、鈴木規文ゼロワンブースターホールディングス代表取締役が「スピンオフ/スピンアウトの可能性」について説明。
トヨタ自動車や日産自動車などをはじめ多くの大手企業がスピンオフであること、さらに現在の学生は、以前よりもますます安定志向が強まっており、最優秀層は大手企業に就職している事実に触れたうえで、イノベーション学者による「学歴が高いほど起業機会の発見能力が高い」との分析を紹介した。
このことから、優秀層が大手企業に埋もれており、成功できる可能性を秘めた人たちが大手企業にはたくさんいると主張した。
さらに、日立製作所やブリヂストンなど多くの大手企業が鉱山や製糸、紡績などの資源を起源にしており、日本の大手企業は圧倒的にアンフェアなアドバンテージを得て勝っていると分析。事業の成功確率を上げるためには、アンフェアアドバンテージを得るか、もしくは与えるかということを考えなければならないと述べた。
そのうえで、『イノベーションの理由』という書籍を引き合いに出し、「客観的合理性を事前に示すことなく、社内から資源を調達しなければならない活動」なので、合理的に考えたら「やらない」という意思決定しかできず、最終的には思い切ってやるしかないと説く。
社外のスタートアップがやって来て、自社に貢献してくれるようなアウトサイドインは合理的な存在で、社内の資源や人材を外に出すインサイドアウトは不合理な存在となる。この不合理性をどうやって突破していくかっていうことを、このスピンエックスではやっていきたいと力説した。
大手企業の役員はイノベーションが必要だということは分かっており、イノベーションを積極的にやっている会社ほど業績が良いという統計データの存在も紹介。分かっているのにできない状況にある企業内では、どのように対処すればよいのかついて「こんな事業をやるので応援して下さいではなく、邪魔をされないようにする方法を考えるべき」と説く。
さらに、スピンオフやスピンアウトを受容する雰囲気や、起業家に寛容な雰囲気を作り出し、スピンアウト、スピンオフで出ていき、いずれそれが元に戻ってスピンインするという循環ができると素晴らしいと締めくくった。
このほか同イベントでは、冒頭にunerry代表取締役CEO(最高経営責任者)の内山英俊氏と、鈴木規文氏がスピンオフやスピンアウトについて対談。
続いて「事業会社からスピンオフが生まれる可能性」をテーマに、TIS執行役員・企画本部副本部長兼企画部長の岡玲子氏と、一般社団法人未来創造代表理事、一般社団法人中部圏イノベーション推進機構(Innovator's Garage)プログラムマネージャーの水野敬亮氏が、企業内でのそれぞれの体験を基に、個人、企業にとってのスピンオフ、スピンアウトのメリットなどについて考えを披露した。
さらに「VCから見るスピンオフを成功に導く方法」をテーマに、ABAKAM代表取締役の松本直人氏と、出向起業スピンアウトキャピタル代表パートナーの奥山恵太氏が、出資者の立場から登壇。奥山氏は資金調達、松本氏はそこに加えて、オーナーシップと人的資本の重要性を挙げた。
文:M&A Online