中小企業庁は6月6日、中小企業政策審議会金融小委員会(委員長・家森信善神戸大学経済経営研究所教授)の中間とりまとめを公表した。コロナ禍で悪化した資金繰りを支えるため、経営者の個人保証を不要とする創業時の信用保証制度創設などを提言。事業承継やM&Aなどを契機とした成長資金の確保に向けては、エクイティ・ファイナンス(新株発行による資金調達)の活用を促す施策を求めた。
2月17日に設置された金融小委員会では、エネルギー価格などの高騰にも見舞われている中小企業の成長を中・長期的に支えるため、ウィズコロナ・ポストコロナの間接金融と新たな資金調達のあり方を論議してきた。具体的には①中小企業と投資家の接点強化②中小企業の挑戦志向の後押し③中小企業向け投資の後押しーの3点について、効果的な施策の方向性を探ってきた。
中間とりまとめによると、日本では創業時の融資で経営者保証を求める慣行が創業意欲を阻害している可能性があると指摘。信用保証協会が新たな創業保証制度を設けるべきとし、商工組合中央金庫と日本政策金融公庫にも経営者保証を求めない創業融資の拡大を促した。
また、国の「経営者保証に関するガイドライン」の周知を強化する中で「経営者保証を外せるかもしれない」というメッセージを強調し、官民金融機関・信用保証協会が既往債務の経営者保証解除にも取り組むよう求めた。
事業承継時の経営者保証を不要とする事業承継特別保証制度の利用件数が、2022年3月末時点で559件にとどまる点にも言及。中小企業の2021年度決算ではEBITDA(税引き前利益に特別損益・支払利息・原価償却費を加算した値)有利子負債倍率が10倍以内の割合は37%で、15倍以内の41%と同程度だったことから、制度の要件を現行の「10倍以内」から「15倍以内」に緩和するべきとした。
一方、中小企業が新事業展開やイノベーションを進める上では、金融機関からの借り入れ以外の資金調達手段も検討するべきとし、将来的な返済義務のないエクイティ・ファイナンスの活用に着目。事業承継のタイミングに合わせた抜本的な事業転換や、規模拡大を図るM&Aに必要な資金調達を行う場合などの支援の方向性を示した。
具体的には、エクイティ・ファイナンス活用に関する基礎的な手引きの作成をはじめ、中小企業と投資家が交流できる相談窓口や中小企業向け投資のリターン確保に係る特例的な支援の創設、中小企業の挑戦機運を醸成する事業承継・M&Aの推進とサーチ・ファンドへの支援などの重要性を強調した。
また、事業承継が経営革新のきっかけになるケースが多いことから、後継者と各種支援機関などを結び付ける新たなネットワークの整備なども訴えている。
経済産業省・中小企業庁は5月末、全国の中小企業支援機関が連携し、個別の企業における経営課題の設定と解決を目指す「経営力再構築伴走支援推進協議会」を発足。中間とりまとめは、これらの取り組みとも足並みをそろえた中小企業金融政策の検討材料となることが期待される。
金融小委は今後、中小企業におけるSDGs(持続可能な開発目標)やDX(デジタルトランスフォーメーション)の普及に向けた新たな金融サポートの論議も進めることにしている。
文:M&A Online編集部
関連リンク(経済産業省):
・参考資料1「ウィズコロナ・ポストコロナの間接金融のあり方について」
・参考資料2「PEファンド等による投資に関する実態調査」
・参考資料3「中小企業におけるエクイティ・ファイナンス活用事例集」