【M&A相談所】コロナ禍で赤字に。売却は延期すべき?

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※画像はイメージです

M&A相談所 その時、どうする?

Question

コロナ禍の影響で赤字に。譲渡交渉で株価が過小評価されるのでは?

弊社の中核ではない事業で、介護事業を手掛ける子会社があります。子会社はずっと黒字基調で業績は良いのですが、弊社の本業と関連があまりなく、会社の場所もグループ本体から遠いので、2年ほど前から売却を検討しています。

当初は妥当な株価で売却できると見込んでいましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で業績が落ち込んで赤字になってしまいました。コロナ禍による一時的な業績悪化だと思いますが、売却はしばらく延期したほうがよいのでしょうか?(栃木県・建設業経営)

Answer

特長のある優良企業は影響を受けにくく適切な金額での譲渡が期待できる

まずは良い相手先の探索を

すべてではないものの、特長のある優良な譲渡企業のM&Aでは、コロナ禍による業績悪化は大きく売買価額に影響を与えていません。売上げが半減した企業でも、感染拡大前の業績、将来の企業成長、その企業が持つ強みをもとにして売買価額が検討されました。譲り受ける企業の多くも、コロナ禍だから安く買収できるはずだ、というスタンスではありませんでした。

魅力ある企業は赤字でも良い条件での譲渡が可能

とある譲渡を検討していた洋菓子メーカーがコロナ禍の影響を受けました。同社の取引先はホテルなどの宿泊施設が多く、後継者不在のため譲渡を検討し始めた2019年頃は、インバウンド需要が伸びていて業績は好調でした。特殊な製造技術を保有していて商品力があり、競合が少ないことが特長でした。

19年末に相談に来られ、相手先を探す段階になって発生したのが新型コロナウイルスの感染拡大です。主要な取引先である宿泊施設からの注文は激減、それまで毎年数千万円の営業利益が出ていたのに、20年度は1億円以上の赤字見込みとなりました。オーナーからは「今の時期だと売買価額は大きく下がると思う。売却するタイミングは先延ばしにしたほうがよいのではないか」といった不安の声をいただきました。

一方で、オーナーの健康状態から先延ばしもあまりできず、コロナ禍がいつ頃落ち着くかも不明。よくご相談したうえで、「この状況下でも買収を検討してくれる企業があれば交渉しよう」と探索を始めることにしました。すると、すぐに買収を希望する企業が見つかったのです。

名乗り出たのは、中部地方の菓子製造業の企業でした。祖業は駄菓子の製造でしたが、二代目社長は「どんなお菓子でも作れる会社にしたい」との思いから、すでに和菓子など複数の菓子製造業を買収していました。同社は海外への展開力があり、今後は日本の洋菓子を海外に展開したいという戦略を練っていたのです。

そんな折に特殊な製造技術を保有していて、海外展開が期待できる高い商品力を持つ洋菓子メーカーの譲渡提案が届いたのです。売買価額もコロナ禍による業績下落を反映せずに、ご検討いただけることになりました。

M&Aはタイミングが重要。早めの行動がカギになる

このようにブランドや技術力など特長のある会社は、コロナ禍のような不況時においても変わらぬ魅力を感じてもらえるように思います。また、譲渡のタイミングを先延ばしせずに買い手企業の探索を行ったからこそ、今回の相手先企業と出会えたのだと思います。

M&Aの売買価額を決めるのは、貸借対照表や損益計算書などの決算書の数字だけではありません。数字には表れない企業の特徴、オーナー様や従業員の方々の想い、将来のビジョン、今後の成長も売買価額に反映されます。

本記事は、M&A情報誌「STRIKE」No.38 より再編集しております