買収先の従業員が辞めないようにするには?

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【経営者向け】

買収した会社の従業員が辞めないようにするには?

「知り合いの経営者が同業の会社を買収したものの、3年も経たないうちにその会社の従業員の3 分の1 が辞めてしまいました。私もいま買収を検討しています。買収後も優秀な従業員に働き続けてもらうために、どのようなことに注意すればよいか教えてください。」 (大阪府 食品卸売業 K・I さん)

「人の感情」を大切にし、M&A交渉中から細かな設計と配慮を

組織融和は企業買収(M&A)において大きな課題です。「M&A交渉中」と「M&A(買収)後」のポイントをそれぞれご紹介します。

M&A交渉中のポイント

買収後の従業員離脱を避けるには、実は買収後から行動するのでは手遅れとなるケースも。M&A交渉中から検討・行動できることがあります。

1.M&Aの交渉段階で、経営方針や理念のすり合わせができそうかを確認

M&A の交渉段階で譲渡企業と自社が融和できそうかどうかご確認ください。譲渡企業オーナーとの面談で、経営方針や経営理念が自社と大きく食い違っていないか質問する。あるいは譲渡企業の現場を視察する際に、従業員の雰囲気や組織風土に違和感がないか確認する。そのようなことを通じて、組織融和のイメージが持てるかご検討ください。

2.辞めてほしくない従業員がいる場合ーM&A交渉段階でよく話し合い、引き留め策を講じる

もし特定のキーマンやエース社員に離脱してほしくない場合は、M&A 交渉段階でその社員との面談の機会を設けるのも一つの手です。一般的にM&Aは譲渡企業の従業員には秘密裏に進めますが、可能であれば面談を行い、その社員の希望を聞いたり、買収後のビジョンややりがいをすり合わせたりすることができたら、離脱リスクを抑えることができるはずです。

買収後のポイント

買い手企業にとっては、M&Aの成約後が「本番」です。買収後の組織融和の考え方について、少しお伝えしたいと思います。

1.買収後は、「従業員の感情」を大切にしよう

買収後に大きな変化が加わらなくとも、買い手企業から十分な説明や指針が明示されないというような状況が続くと、従業員にとってストレスとなる場合があります。従業員はモノではありませんから、感情を大切に考えることが肝要です。
私の知る会社では、買い手企業の責任者がこまめに譲渡企業の従業員と話し合いの場を設け、不安の声に耳を傾けたほか、一緒になることのメリットや事業の相乗効果を説いて回りました。また別のケースでは、譲渡企業の労働組合の委員長に敬意と誠実さを持って接したことにより、労働組合を通して従業員に安心感が伝わったそうです。

2.融和に向けた戦略的な活動設計と細やかな配慮を怠らない

譲渡企業の業種、年齢構成、勤務形態などに合わせて、組織融和の方法を考えてください。ある会社では、古くなっていた譲渡企業の社屋を改装し、業務スペースだけでなくトイレや休憩室を明るくしました。社員からは「変化が目に見えて、やる気が出る!」と喜ばれたそうです。

そのほか、優秀な社員を抜擢した、統合効果で業績が上がったので臨時賞与を出した、という会社もありました。

ただし、社員の感情というのは数値で把握しづらいもの。細かな配慮を怠らず、組織融和が図れるよう地道な努力を継続していただきたいと思います。

M&A情報誌「STRIKE」2019年7月号の記事を元に再構成しております