[人材派遣業界のM&A]買収ニーズが高く、譲渡金額が高額に

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※画像はイメージです

リーマンショックの打撃から回復。改正法の不安も払拭されつつある

 人材派遣業界は2014年度時点で、一般派遣で3兆9,056億円、特定派遣で1兆5,338億円、合計5兆4,394億円の市場規模を有する。ピーク時の08年度の7兆7,892億円には遠く及ばないものの、アベノミクス下の好景気により、企業の求人需要は拡大が続く。

 08年のリーマンショック時には打撃を受けた人材派遣業界の業績はV字回復とまでは行かないものの、やや持ち直し、一部にはピーク時を上回る市場も見られる。全体での派遣労働者数も12年度の245万人で下げ止まり、14年度には263万人まで回復している(人数は登録者込)。

 労働者派遣改正法は、2度の廃案を経て15年9月に成立した。個人単位で3年での人材入れ替えのリスク、雇用安定措置のハードルに加え、キャリア形成支援の義務化で派遣元の負担も増える。加えて、従来は届出で済んだ特定派遣が廃止され許可制の一般派遣に一本化……かなりの不安を煽った法改正であったが、当初予想されたほどにネガティブな影響はない。派遣先企業が派遣社員を使いやすくなったという点で業界には追い風だ。

大手だけでなく中小企業のM&Aも活発。買収ニーズが高く、譲渡金額が高額に

 人材派遣業界においては大手の合従連衡が進む。

 業界トップのリクルートホールディングス<6098>は20年に人材サービス世界一になることを掲げ、海外で積極的なM&Aを進めている。11年には、米国人材派遣大手のアドバンテージ・リソーシングを買収したことで、一気に世界第4位の人材サービス会社へ躍進した。

 業界2位のテンプホールディングス<2181>による業界6位の大手インテリジェンスホールディングスの買収(13年)やパナソニックエクセルスタッフの買収(14年)も記憶に新しい。15年にはジャスダック上場のP&Pホールディングスも買収した。

 業界3位のパソナグループ<2168>は、13年に信販大手ジャックスの子会社で労働者派遣業のサポートを、また14年にはメディカルアソシアやパナソニック子会社のパナソニックビジネスサービスを買収するなど、さらなるシェアの拡大を目指す。

 テンプホールディングスの売上高の推移を見ても、リーマンショック後に落ち込んだ売上高をM&Aによる増分で補い、右肩上がりの成長を遂げている。業界全体でピーク時から2兆円以上の市場が消えた今、M&Aに生き残りを賭ける企業は多い。

 大手の派手なM&Aが市場を賑わす一方で、新聞やニュースに上ることはないが、中小企業のM&Aも活況である。人材ビジネスは開業時の投資負担が小さく参入障壁が低いため、中小規模の事業者が乱立している。また、大きな設備投資負担もなく、基本的にキャッシュを生み出し続ける業種であることから、このキャッシュを用いたM&Aが起きやすい業界である。加えて、単純なスケールメリットや、人材や取引先等相互のリソースの活用によりシナジーが生み出しやすい事業モデルは、M&Aとの親和性が高いと言える。近年は活発な買収ニーズが常時存在するため、譲渡金額は他業界よりも高額になるケースが多く見られる。

M&A情報誌「SMART」より、 2016年7月号の記事を基に再構成
まとめ:M&A Online編集部