赤字企業でも譲渡できますか?

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※画像はイメージです

実際にあったM&Aの現場から参考になりそうな事例を紹介するシリーズ。今回は、「赤字でも売れるのか?」というご質問のケースを取り上げてみます。

Q:赤字企業でも譲渡できるか?
できれば社員をクビにせず引き継いでもらいたい。

大阪で運送業を営んでいます。特殊な商品を扱うメーカーから委託され、運搬車両もそれに対応した特殊なものを揃えてきました。しかし一昨年、依頼主のメーカーが売掛金を残したまま倒産してしまいました。当社の売上はそのメーカーに依存してしており、別の販路へ対応しようにも難しく、当社も赤字になってしまいました。

顧問税理士からは、社員や車両などの資産はあるのだから、身請けしてくれる別会社へ会社を譲渡してはどうかというアドバイスをもらいましたが、赤字会社に興味を示す会社はあるでしょうか?

譲渡するなら、従業員はできれば全員引き受けてもらいたいと願っております。
( 大阪府 運送業 D・Aさん)

A:赤字でもM&Aの可能性はあります。
セールスポイントとなる自社の強みは何か確認しましょう。

結論から申し上げると、業績不振であっても譲渡できない、お相手が全く見つからない、ということはありません。買い手企業の視点からすると、やはり業績の良い企業を望まれる方が多いのが実情ですが、赤字企業が譲渡される例もあります。

具体的にどんな理由や背景があったのか? 実際に赤字で売却された中小企業の事例を2つご紹介します。

Case1
決算書を精査すると、実質営業利益は赤字ではなく黒字だった

まず決算書上の赤字ですが、M&Aにおいては譲渡企業が提出した決算書をそのまま判断材料にすることはありません。例えばオーナーが役員報酬をたくさん取っている場合、M&A後はその分が不要になるため販管費はマイナスします。また、オーナー個人の固定資産(例えばマイカー等)が会社保有となっている場合、その分の減価償却費は不要となります。売却に向けて是正した結果、「実質営業利益がいくらなのか」がM&Aの判断材料になります。

中小企業は節税のために利益を圧縮されていることが多く、「決算書上は赤字だが実質的には黒字だった」ということも少なくありません。その場合は十分にM&Aをご検討いただけると思います。

Case2
買い手企業が欲している人材、資産、技術があった

赤字企業を買収する企業にはどんなニーズがあるのでしょうか。人員整理を含めた事業再生計画を前提に買収を行う企業もありますが、そればかりではありません。買い手企業にとって重要なのは、描いている経営方針や事業計画を実現するために必要な要素がM&Aで満たされるのかどうかに尽きます。

例えば人材不足で業績が頭打ちになっている会社であれば、売り手企業に人材が揃っていることが何よりもの魅力になります。小売店をどんどん買収して成長している会社なら、特定の地方で多店舗展開している企業は喉から手が出るほど欲しいものです。大手資本の傘下に入ることで、販路拡大やコストダウンメリットも得られます。

ご相談者様が営まれている運送業は人材不足が叫ばれている業態です。特殊な商品を扱っていらっしゃるとのことですから、御社の規模感や人員数、運搬車両に興味を示される買い手企業がいらっしゃるのではないかと思います。

まとめ

セールスポイントは、買い手企業が欲するような資産や人材、権利などがあるかの2つです。ご自身で判断するのは難しい部分もあろうかと思いますので、買収ニーズを多く蓄積しているM&A仲介会社にまずは相談してみてはいかがでしょうか。いろいろな可能性を検討できるかと存じます。

M&A情報誌「SMART」より、2016年1月号の記事を基に再構成
編集:M&A Online編集部