利用者も加盟店も?じわじわと広がる「スマホ決済離れ」の予兆

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QR・バーコード決済サービスを終了する店舗が出てきた

急成長を続けてきたQR・バーコード(スマホ)決済サービスに「曲がり角」の兆しが見えてきた。これまで増え続けてきた加盟店に、脱退の動きが広がっているのだ。巨額のキャンペーンコストをかけて市場を育ててきたスマホ決済サービスだが、刈り取り直前の失速も懸念される。

外食大手、地場スーパーで相次ぐスマホ決済の終了

トリドールホールディングス<3397>が全国展開する讃岐うどん専門店チェーンの丸亀製麺(神戸市)は、2020年5月にスマホ決済のPayPay、メルペイ、AliPay(支付宝)、d払いの取扱終了に乗り出した。同社は2019年4月から全国101店舗でPayPayを導入したのをはじめスマホ決済での支払いを受け付けてきたが、1年余りで終了することに。

もっと極端な事例は幸楽苑ホールディングス<7554>が全国展開する、ラーメン専門店チェーンの幸楽苑だ。同社は2020年4月1日にPayPayを導入、同30日までの間、PayPayで支払うと20%のPayPayボーナスが戻ってくる「全国の有名飲食チェーンが対象!春のグルメまつりキャンペーン」の対象店舗になった。ところが同キャンペーン最終日の4月末でPayPayによる支払いを終了、PayPayホームページの「PayPayが使えるお店 」からも幸楽苑が消えている。

外食だけではない。関東地方で食品スーパーを展開するロピア(川崎市)は、2019年2月から一部の対応レジでPayPayを「お試し導入」していたが、2020年4月で終了している。

スマホ決済市場では顧客囲い込みのため、国内最大手のPayPay(ペイペイ)が2018年12月に始めた「100億円還元キャンペーン」を皮切りに、各社が大型キャッシュバックキャンペーンを実施して利用者が爆発的に増加した。2019年10月に消費税率を従来の8%から10%に引き上げたのにあわせ、消費喚起策として最大5%のポイント還元でキャッシュバックする政府の「キャッシュレス・ポイント関連事業」も追い風になっている。

とはいえ、使える店が少なければ利用者も集まらない。そこで、加盟店舗を増やすために決済手数料も当面は無料、もしくは低く抑えているサービスが多い。こうした特殊な環境下でスマホ決済サービスは成長を続けてきたのである。

加盟店を増やすためにスマホ決済サービスの導入費用は低く抑えられている(PayPayホームページより)

キャッシュバックの切れ目が縁の切れ目?

利用者にとっては競争の過熱によりPayPayとLINEペイ、メルペイとオリガミなどスマホ決済事業者の再編が進み、キャンペーンが小型化して利用者に「お得感」がなくなりつつある。加えて2020年6月末に政府のキャッシュレス・ポイント関連事業が終了すれば、利用者のスマホ決済離れが懸念される。

加盟店舗にすれば決済手数料が値上げされ、利用者が減るのではスマホ決済を受け付ける意味が薄れる。店舗専用のQRコードを顧客のスマートフォン(スマホ)で読み取る「スキャン支払い」であれば専用機器もいらず初期投資にお金をかけていないので、容易に撤退できることから加盟店の「大量脱退」もありそうだ。

ただ、手数料の引き上げはスマホ決済終了の「決め手」ではなさそう。丸亀製麺ではSuicaやiDといった非接触型ICカードによる決済サービスを継続しているからだ。こうした非接触型ICカードによる決済サービスの手数料は、値上げ後のスマホ決済手数料よりも割高なケースが多い。手数料の値上げを懸念するのなら、真っ先に非接触型ICカード決済が切られるはずだ。

「スキャン支払い」は中小・零細事業者囲い込みのために導入された仕組みだが、(1)顧客がスマホを取り出す(2)決済アプリを開く(3)店舗の専用QRコードをスキャンする(4)金額を入力する(5)店舗スタッフが金額を確認(6)決済ボタンを押すと、最低でも6つの手順を踏む必要がある。ランチタイムにレジが混雑する外食や夕方に買い物客が増えるスーパーなどでは、かえって現金決済よりも時間がかかるケースもある。

一方、非接触型ICカード決済は、(1)顧客がスマホを取り出す(2)店舗のICリーダーにかざすの2ステップで済む。レジの混雑を避けたい事業者がスマホ決済からいち早く撤退したのにも、スマホ決済の煩わしさという理由がありそうだ。

丸亀製麺ではスマホ決済については一時的な使用停止で、全店舗へ導入ができるようシステム改修を進めているという。これは店舗側が顧客のスマホに表示されるバーコードをスキャナーで読み取る「バーコード支払い」に対応するためとみられる。こちらは(1)顧客がスマホを取り出す(2)決済アプリを開く(3)レジで顧客のバーコードをスキャンするの3ステップで済む。それでも非接触型ICカード決済より1ステップ多い。

新興国でスマホ決済が普及したのは、非接触型ICカードやリーダーといった投資なしに導入できるメリットがあったから。しかし、日本ではほぼすべてのスマホに非接触型ICカード機能が内蔵されている上に、多数の決済サービスに1台で対応可能なリーダーも低価格で普及している。わざわざ操作の手間がかかるスマホ決済サービスを利用する必要はなかったのだ。

レジでの決済スピードは圧倒的に非接触式ICカードの電子マネーの方が速い(iDホームページより)

にもかかわらず加盟店舗や利用者が増えたのは、大型キャンペーンによるキャッシュバックが目当てだったから。利用者側も「バーコード決済は一手間かかる」と感じている。キャッシュバックがなくなれば、手間がかからない非接触型ICカード決済や使い慣れたクレジットカード決済へ流れるのも当然だろう。スマホ決済事業者の「次の手」は見えない。このままだと巨額のキャンペーン費用を投じ続けなければ、加盟店と利用者に「カネの切れ目が縁の切れ目」と立ち去られてしまうことになりそうだ。

文:M&A Online編集部