【静岡銀行】堅実経営が生む資本・業務提携|ご当地銀行のM&A

alt
今は静岡銀行浜松営業部となっている旧遠州銀行本店(浜松市)

地元では「しずぎん」の愛称で親しまれる静岡銀行。その源流は2つに大別できる。

1つは1877(明治10)年12月に設立された第三十五国立銀行である。第三十五国立銀行は設立後、県下の他の銀行などを合併し、国立銀行としての営業年限を迎える1897年7月に三十五銀行という私立銀行に転換した。そして1937年3月、三十五銀行と旧静岡銀行(現在の静岡銀行とは無関係)が合併し、静岡三十五銀行となった。

もう1つの源流は、1920年3月に創立した遠州銀行である。遠州銀行は資産銀行や西遠銀行が合併して新立した銀行で、その後も数多くの地元金融機関を合併している。

そして1943年3月、静岡三十五銀行と遠州銀行が合併し、現在の静岡銀行が創立した。静岡銀行は創立直後から1945年にかけての戦時期に、伊豆銀行、榛原銀行、浜松銀行、伊豆貯蓄銀行、静岡貯蓄銀行、浜松貯蓄銀行、浦川銀行、浜松市信用組合を傘下に収めている。

これら一連のM&Aをつぶさに見ると、静岡銀行は第三十五国立銀行と遠州銀行時代も含め、実に120を超える金融機関が集約されて誕生した銀行であることがわかる。

地銀が割拠する静岡県で独自色を発揮

静岡県内には、従来からの地方銀行であるスルガ銀行、静岡銀行、清水銀行の3行があり、1989年以降、主に相互銀行から普通銀行へ転換した第2地銀は静岡中央銀行があり、計4行の地方銀行がある。

4行の地銀を比べると、両雄とも言える静岡銀行とスルガ銀行は、特に独自色の高い経営を行ってきた。

静岡県東部の沼津市を本拠に、東の神奈川県に営業エリアを持つスルガ銀行は、これまで個人、特に個人の不動産投資家に根強い人気があった。「少し金利は高くなるけど、必ずと言っていいほど貸してくれる」銀行の評判を得ていた。しかし、シェアハウスのサブリースを巡り、自己破産者が相次いだ「かぼちゃの馬車」事件では同行の関与が社会的に強く指弾されたのは記憶に新しい。

対して静岡銀行は、スルガ銀行と真逆の戦略をとってきたかに見える。法人取引に強く手堅いビジネスで、堅実な経営は「しずぎん」ならぬ「シブ銀」とも言われた。だが、長い目で見れば、その堅実経営が評価され、静岡銀行は横浜銀行、千葉銀行の3行と並んで三大地方銀行(メガ地銀)と呼ばれている。

静岡銀行で特筆すべきことは、海外の格付機関からの評価を地銀業界のなかでもいち早く取得していること。1988年4月には米国の格付機関ムーディーズから格付を取得し、同年8月には米国S&P社からも格付を取得している。いずれも当時、地銀業界で初の試みだった。

また、1997年12月に日本の銀行としては初めて、自社株を市場から買い入れて消却する自社株式消却を実施している。自社株式の消却を行うと、発行済み株式の総数が減り、1株あたりの資産価値や自己資本利益率(ROE)の向上につながる。静岡銀行に触発される形で、財務力のある地銀各行が自社株式消却で追随した。

業務提携でアジア圏に展開

2010年代には国内外の金融機関との業務提携(資本提携も一部含む)が活発化した。

海外はアジアが主軸。主な業務提携先をみると、カシコン銀行(タイ)、りそなプルダニア銀行(インドネシア)、ANZベトナム(ベトナム)、新韓銀行(韓国。日本法人のSBJ銀行含む)、CIMBニアガ(インドネシア)、バンク・オブ・ザ・フィリピン・アイランズ(フィリピン)、上海銀行(中国)、中國信託ホールディング(台湾)、インドステイト銀行(インド)、ベトナム投資開発銀行(ベトナム)など。

一方の国内ではネット証券のマネックスグループ、金融系ウェブサービス提供のマネーフォワード、直接投資信託のコモンズ投信、来店型保険代理店のほけんの窓口グループ、不動産のリノベーション事業を展開するリノベる、三菱UFJフィナンシャル・グループ傘下のフィンテック企業Japan Digital Designなど。金融以外では、静岡県中部で食品などを扱う地域商社のふじのくに物産(静岡市)とも業務提携した。

最後に残る山梨県との連携

伊豆、駿河、遠江(遠州)の3つの国からなり、3者3様の県民性がある静岡県。俗に、食べ物がなくなったら、伊豆は餓死し、駿河は物乞いし、遠州は泥棒する。これは「伊豆餓死、駿河乞食、遠州泥棒」ともいわれている。この俗諺には「働いて食べ物を得る」という発想は表現されていないが、これは気候が温暖な豊かな県の表れでもあるだろう。

全体としては、あくせくせず、穏やかなマイペースで、ポジティブな県民性。また、東京と愛知・大阪に挟まれていることもあり、エンタープライズ性を持った企業も多い。こうした屈託のない開かれた気質が業務提携の素地に生かされているようである。

その静岡県・静岡銀行にとって“難攻不落”の地がある。北の隣県だ。北に赤石山系が峙ち、急峻な富士川の上流にある山梨県とは、これまで交流が極めてむずかしかった。海洋県として海外には積極的であっても、山河の向こうとは疎遠だった。

静岡銀行は2014年1月に地銀8行(千葉銀行、北海道銀行、七十七銀行、八十二銀行、京都銀行、広島銀行、伊予銀行、福岡銀行)と「地域再生・活性化ネットワーク」を構築している。だが、山梨県を代表する地銀の山梨中央銀行と包括業務提携を結んだのは、実は1年前の2020年10月のことだった。

文:M&A Online編集部