【新日本科学】8期連続の営業赤字を乗り切る「M&Aのチカラ」

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新日本科学(SNBL)<2395>は1957年に創業した、わが国初となる医薬品開発の受託研究機関。動物実験による医薬品の前臨床試験に強みを持ち、現在では新薬開発の基礎研究や臨床薬理試験、薬物動態・分析、臨床試験、治験施設支援機関(SMO)などへ事業を拡大している。2008年には東京証券取引所1部上場を果たすなど、新薬開発業界のリーディングカンパニーの地位を固めてきた。

8期連続の営業赤字に苦しむ

しかし、2011年3月期に営業利益で-8億4365万円、経常利益で-12億429万円の赤字を計上して以来、2018年3月期まで営業利益は8期連続、経常利益でも15万6000円の黒字だった2015年3月期を除く7期は赤字だ。業績は「どん底」の状態にある。同社を救う可能性があるとすれば、それはM&Aだ。

新日本科学の前身は、1957年に鹿児島市で開業した動物病院併設の南日本ドッグセンター。当初はビーグル犬の繁殖や品種改良を手がけていたという。同社の転機は1960年に訪れた。日本初の受託研究機関として、動物を使った医薬品の安全性試験(前臨床試験)の受託を始めたのだ。

一般毒性試験をはじめとする前臨床試験を受託(同社ホームページより)

前臨床試験とは、新薬開発の基礎研究で新薬候補の新規化合物について、安全性や有効性を確認する試験のこと。「安全性試験(一般毒性試験・生殖発生毒性試験・遺伝毒性試験・局所刺激性試験等)」「安全性薬理試験」「薬効薬理試験」「薬物動態試験」の主要な4種類の前臨床試験が厚生労働省によって義務づけられている。これらの試験で安全性・有効性が認められた化合物だけが、次の開発段階に進む。動物病院や犬の品種改良を手がけていた同社にとっては、「お手のもの」といえる事業だった。

前臨床試験が事業の柱となり、1974年には社名を現在の「新日本科学」に変更。1977年には東京研究所(病理センター)を開設する。1980年には鹿児島県吉田町に安全性研究所を新設し、本社を同所内に移転した。1982年に「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準」(GLP (Good Laboratory Practice))施行に備えて、大動物試験研究棟を拡充すると同時に小動物試験施設を新設するなど、試験研究機能の強化を図る。翌1983年には研究棟を増築し、GLP対応の安全性試験をスタートする。

ハーバード大とも合弁

バブル経済期には海外展開にも乗り出す。1988年に営業拠点となる米国支社をメリーランド州に開設したのに続き、1990年には同じく営業拠点として、ロンドン郊外に英国支社をオープンした。営業が軌道に乗ると支社を分社化し、1991年に米国支社をSNBL U.S.A., Ltd、欧州支社をSNBL Europe, Ltdとして独立させる。

1999年にSNBL U.S.A., Ltdをワシントン州に移転したのに併せて、安全性研究所を新設。現地での受託研究に乗り出す。2000年には米メリーランド州立大学との合弁会社UMI(University Medicines International), LLCを立ち上げ、国際臨床試験の受託を始めた。2003年には研究開発型企業の創業ラッシュが始まった中国へ進出。広東省に肇慶創薬生物科技有限公司(SNBL CHINA, Ltd)を設立し、実験動物の繁殖・飼育・検疫事業に着手した。その統括会社として、香港に新医科学開発(香港)有限公司を設立している。

2006年に米国テキサス州でSNBL USA Scientific Resources Center を立ち上げて、米国での霊長類の繁殖育成に着手。2007年にはメディポリス指宿(鹿児島県指宿市)内に霊長類繁殖育成センターを設置した。霊長類(カニクイザル)を用いた前臨床試験の受託事業は、新日本科学の「お家芸」となる。

2007年にインドで前臨床リサーチサービスや臨床研究サービスなどを提供するShin Nippon Biomedical Laboratories India Private Ltdを設立する一方、米国ではRuika Therapeutics, Inc.を立ち上げてハーバード大学との合弁事業をスタートした。2009年には米マサチューセッツ州ボストン市で、がんの先進医療として注目されている核酸医薬の研究開発を手がけるONTORII, Inc.を設立するなど、海外戦略を強化していく。

経営多角化にチャレンジするも苦戦が続く

2011年に安全性研究所が「AAALAC International認証」を取得する。これは動物を使った実験が「虐待」と非難されるようになったことを受けて、科学分野における動物の人道的な取り扱いを推進する企業に与えられる認証だ。医薬品メーカーにとっては新日本科学が同認証を受けたことで、安心して研究を発注できるようになった。

AAALAC International認証を受け、製薬メーカーからの信用も高まった。(同社ホームページより)

2012年には重篤な遺伝病患者にバイオテクノロジー治療を提供する核酸医薬ベンチャーの WaVe Life Sciences Pte. Ltdを設立し、新たな医療サービスに進出。同年に鹿児島県指宿市でメディポリスエナジーを立ち上げて地熱発電事業に参入するなど、事業多角化を図った。

メディポリスエナジーは温泉と医療の複合施設である「メディポリス指宿」の敷地内で発電能力1.5メガワット(MW)の地熱発電所を運営する。一般事業者による国内初のメガワット級の電気事業用地熱発電所となった。米オーマット・テクノロジーズ社が開発した低温の地熱でも発電可能なバイナリー方式の設備を導入し、2500世帯分の電力を供給できるという。

しかし、医薬品業界の競争激化で製薬メーカーが開発品目の「選択と集中」を進めた結果、2011年3月期以降は新薬開発の絞り込みに伴う前臨床試験件数が減少。同社の業績は長期低迷に陥った。そこで同社を救ったのが事業譲渡である。

事業譲渡で苦境をしのぐ

2015年に臨床事業を会社分割し、米Pharmaceutical Product Development(PPD)の日本子会社ピー・ピー・ディー・ジャパン(現・日本化学PPD)に譲渡した。これによる譲渡益が44億2700万円あったことなどから、2016年3月期決算で経常赤字にもかかわらず、当期純利益は26億4600万円の黒字転換を果たした。

2017年に連結子会社の米SNBL Clinical Pharmacology Center, Incの株式の一部を Pharmaron Beijing Limited Co.,Ltdへ譲渡(株式譲渡価額は非公表)。

さらに同年、前臨床事業を手がける100%子会社のSNBL USA, Ltdから、動物輸入検疫および飼育・販売事業を運営するScientific Resource Centerを分社化し、韓国Orient Bio Incへ譲渡した。この時は株式売却損6億8100万円を計上している。SNBL USA, Ltdの負担となっていた実験動物輸入業務を切り離すことで、固定費を軽減すると同時に研究受託事業に専念する方針だ。

その結果、2018年3月期決算では当期純利益の赤字幅が前期の9億1500万円から-35億5500万円に広がった。とはいえ、これは一過性の株式売却損によるもの。経常赤字は前期の-21億500万円から-8億1300万円に改善しており、本業の儲けを示す営業利益でも赤字幅は前期の-17億9200万円から-6億9700万円に圧縮している。

「攻め」のM&Aにもチャレンジ

とはいえ、新日本科学がM&Aを切り売りや損切りといった「守り」にだけ利用しているわけではない。「攻め」のM&Aも忘れてはいない。2018年7月31日に、体幹訓練機器製造のトランクソリューションの株式50.7%を取得(取得金額は非公表)し、子会社化したのだ。

トランクソリューションは東京大学発ベンチャー企業で、身体機能の基礎で原点である体幹に着目し、体幹装具の開発やリハビリテーション・健康プログラムの提供を手がける。新薬開発の受託研究が先細り傾向にある中、これに代わる新たな事業の柱を構築する必要がある。

自前の新事業では2017年11月に、難しいとされてきたウナギの養殖に必要な稚魚(シラスウナギ)の新しい人工孵化・飼育技術を開発し、話題となった。ウナギ養殖は稚魚の孵化や飼育が難しく、天然のシラスウナギを採取して成魚に育てるしかない。

そのためシラスウナギの乱獲で、天然ウナギの絶滅が危惧されている。卵から成魚まで育てる完全養殖のネックになるのが卵からシラスウナギに成長する半年間。日本や韓国の研究機関が実験室レベルでは成功はしているが、コストが高く実用化は難しい。

前臨床試験の経験を生かし、ウナギの完全養殖に成功

新日本科学では地下水をろ過して再利用する循環型の飼育槽を使い、海水中で活動するウイルスはじめ病原体の侵入が防ぐため、稚魚の生存率が向上する。さらに地熱を使って水温を高めるため、飼育に最適な26~28℃に保てるため、ウナギの養殖で大きな負担になる燃料費が不要で、養殖コストを実験室レベルの半分以下に抑えられるという。

 同社は3年以内に現在は1%未満の受精卵からシラスウナギへの生育率を10%以上に引き上げ、完全養殖を事業化する方針だ。稚魚飼育の実用化にメドをつけた背景には、動物実験による医薬品の前臨床試験で積み上げてきたノウハウがあった。

地熱発電事業は18年3月期決算で売上高が前期よりも2億6800万円増えて9億4700万円となり、営業損益も前期の-1億5800万円から1200万円の黒字に転換した。新たな収益の柱は着実に育っている。こうした新規事業も、M&Aで事業拡大をスピードアップできる。業績の長期低迷から早期に脱するには、収益をあげられない事業の譲渡という「守り」と新たな収益源となる事業パートナーの買収という「攻め」の両面でM&Aを加速する必要があるだろう。

関連年表

新日本科学の沿革
出 来 事
1957 鹿児島市に南日本ドッグセンター(動物病院併設)を創業
1960 日本で最初の受託研究機関として安全性試験(前臨床試験)の受託開始
1974 商号を「新日本科学」に変更
1977 東京都中野区に東京研究所(病理センター)を設立
1980 鹿児島郡吉田町に安全性研究所を新設し、あわせて本社を同所に移転
1982 GLP (Good Laboratory Practice)「医薬品の安全性に関する非臨床試験の実施の基準」施行に備え、大動物試験研究棟を拡充、小動物試験施設を新設、オンラインコンピュータシステムを導入
1983 GLP対応の安全性試験開始、研究棟増築
1988 米国の営業拠点として、米国支社をメリーランド州に開設
1989 関西地区の営業拠点として大阪支社を大阪市淀川区に開設
1990 欧州の営業拠点として、英国支社をロンドン郊外に開設
1991 米国支社をSNBL U.S.A., Ltd.として分社
  英国支社をSNBL Europe, Ltdとして分社 
1993 医療機関のシーピーシークリニックと提携し、臨床薬理試験受託事業を開始
1996 医薬品の電子化申請サポート業務の受託開始
1997 臨床開発研究所を新設し、臨床第Ⅱ・Ⅲ相試験の受託準備に着手
1998 和歌山県海南市に薬物代謝分析センターを新設、分析および薬物動態試験を受託開始
1999 SNBL U.S.A., Ltdをワシントン州に移転し、安全性研究所を新設
2000 米国メリーランド州立大学との合弁会社UMI(University Medicines International), LLCを設立、国際臨床試験の受託が可能となる
2003 中国広東省に肇慶創薬生物科技有限公司(SNBL CHINA, Ltd.)を設立、実験動物の繁殖・飼育・検疫事業に着手、その統括会社として、香港に新医科学開発(香港)有限公司を設立
2004 東証マザーズに上場
2005 株式を1:2の割合で分割
  米国メリーランド州立大学ボルチモア校内にSNBL CPC, IncのPhaseⅠ施設開設
  公募による新株式発行
2006 第三者割当による新株式発行
  SNBL USA Scientific Resources Center を米国テキサス州に設立し、米国での霊長類の繁殖育成に着手
2007 メディポリス指宿(鹿児島県指宿市)内に霊長類繁殖育成センターを設置
  インドにShin Nippon Biomedical Laboratories India Private Limited設立、グループ内のビジネス・プロセスのアウトソーシング、データ・ナレッジ管理、インド市場における事業創出を開始
  米Ruika Therapeutics, Inc.を設立し、ハーバード大学と合弁事業を開始
2008 東京証券取引所 市場第一部に市場変更
2009 米国マサチューセッツ州ボストン市にONTORII, Inc.を設立
2011 安全性研究所がAAALAC International認証を取得
2012 核酸医薬ベンチャー関連会社 WaVe Life Sciences Pte. Ltd.(.(シンガポール)を設立
  鹿児島県指宿市にメディポリスエナジーを設立、地熱発電事業に参入
2014 WaVe Life Sciences Pte.Ltd.が、かごしま新産業創生投資事業有限責任組合を引受先とする第三者割当増資を実施
2015 臨床事業を会社分割し、米Pharmaceutical Product Development(PPD)の日本子会社ピー・ピー・ディー・ジャパン(現・日本化学PPD)に譲渡
2017 臨床試験受託の連結子会社米SNBL Clinical Pharmacology Center, Inc.の株式を一部譲渡し、持分法適用関連会社に変更
  前臨床事業を手がける100%子会社のSNBL USA, Ltdから、動物輸入検疫および飼育・販売事業を運営してきたScientific Resource Centerを分社化し、韓国Orient Bio Incへ譲渡
2018 東大発ベンチャーで体幹訓練機器製造のトランクソリューションを子会社化

文:M&A Online編集部

この記事は企業の有価証券報告書などの公開資料、また各種報道などをもとにまとめています。