【SHIFT】ブルーオーシャンに挑み、7年で売上高8倍に

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SHIFTが入居する東京都港区のビル

ソフトウエアテストビジネスを手がけるSHIFT<3697>が大変革に乗り出した。「ソフトウエアテストのSHIFTから品質保証のSHIFTへ」を合言葉に、SHIFTの品質基準を世界中に広める作戦だ。 

同時に国内外で積極的なM&Aを実施し、一気にグループ企業50社体制(現在は11社)を目指す。いずれも実現の時期は2025年8月期。同期の売上高は1000億円、営業利益は130億円と売り上げ、利益とも大台突破を目論む。 

これら目標は2018年8月期に比べ売上高で7.8倍、営業利益に至っては10.8倍という数字になる。7年間でこれほどの成長を計画する背景はどこにあるのか。

ソフトウエア品質保証のSHIFTへ

まずはM&A。同社は2019年1月8日に2件の企業買収を発表した。一つはWebサイトの企画立案や制作などを手がける、さうなし(東京都渋谷区)の完全子会社化だ。 

さうなしは2009年設立で、品質を機能面だけでなく使いやすさの面からも追求している。代理店からの下請けではなく、大手企業を中心にブランドサイト、コーポレートサイト、採用サイト、オンラインサイトなどの制作を直接受注する体制に強みを持つ。SHIFTはさうなしの買収を機に、不具合がなく使いやすい製品の企画や制作、品質保証能力を高めていく。

もう一つはWebマーケティング事業を手がけるアッション(東京都目黒区)の完全子会社化。アッションはリスティング広告の運用やプッシュ通知ツールの提供などWebマーケティングに関する各種ソリューションを提供する企業。

SHIFTは同社を取り込むことで、これまでのソフトウエア製品の機能テストや負荷テスト、脆弱性検証などに加え、使いやすいさを向上させる事業を積極的に展開する。

まさに両社の買収は「ソフトウエアテストのSHIFT」から「ソフトウエア品質保証のSHIFTへ」を実現するための取り組みだ。

変わるブランディング戦略

SHIFTの主なM&Aは2018年に1件、2016年に3件ある。2018年はシステムコンサルティングやシステム開発を手がけるAiritech(東京都新宿区)を子会社化した。SHIFTのメーン事業であるソフトウエア製品の機能テストに加え、パフォーマンス、負荷、セキュリティー、ユーザビリティーなどに代表される非機能テスト領域の拡大が狙いだ。 

2016年はシステムエンジニアサービスの提供やWebアプリ開発を行うバリストライドグループ(東京都目黒区)を完全子会社化した。バリストライドグループの人材、技術のノウハウを活かして、SHIFTの人材の確保やソフト開発、新プロジェクトへの対応能力を強化した。

同じ2016年にメソドロジック(東京都新宿区)を子会社化した。ソフト開発業界で幅広く専門的な知識と経験を持った人材を確保し、大規模で難易度の高い開発プロジェクトへの対応能力を高めた。 

さらに2016年にはネットワーク関連の事業に取り組むリベロ・プロジェクト(東京都港区)を子会社化した。これによってソフト業界で知識や経験を持つ優秀な人材の確保と、保守業務への進出を果たした。

これらM&A はIT業界の人手不足への対応や、新規分野への参入などを狙いとしており、ソフトウエアテスト事業の技術向上や領域拡大に役立った。2019年に実施したM&Aは、これとは趣きが異なり、ブランディング戦略が変わったことが分かる。 

SHIFTのアクション計画には2019年8月期は従来のソフトウエアテストが主要業務だが、2020年8月期にはプロジェクト支援部門やプロジェクト管理部門などのPMOが、2022年8月期にはコンサルティングが事業の中心を占めると記されている。

まさに今、大きな変革の時期に差しかかっているわけだ。

現状に満足なITエンジニアは30%以下

SHIFTは2018年12月にIT業界で働く人たちの意識と現状の調査を行った。同社をはじめとするIT企業や、IT業界全体が目指すべき姿を明らかにし、ITエンジニアがより良く、幸せに働ける社会を作り出すのが狙いという。 

調査の結果は、現状に満足していると回答したのは、全体の30%以下に留まり、多くの人が不満を抱えていることが分かった。不満の理由は「評価・給与」に続き、「将来のキャリアへの不安や成長できない環境」が上位を占めた。 

さらに、転職やキャリアチェンジを希望する人が全体の約60%に達し、他業界と比較すると約2倍もの高い割合となった。 

こうした調査結果を踏まえ、SHIFTは中期アクション計画に「あらゆる採用手法を活用する」「国内トップクラスの年収を実現する」といった文言をちりばめた。

あらゆる手段とはテレビコマーシャルや交通広告、Webバナー広告などの実施や、オウンドメディアによるインタビュー記事の掲載やニュースリリースの配信などだ。 

年収については600万円以上900万円未満のプロジェクトマネージャーなどの案件管理者層を2018年8月期は前年度に比べ3.3倍に増やした。さらに900万円以上の高度なスキルを持ったシニアマネージャー層も同1.3倍になったという。 

「ソフトウエアの品質保証のSHIFTへ」を実現するために必要な優秀な人材の確保は先行して進みつつある。 

5兆円のブルーオーシャンに挑む

経済産業省の統計によると日本のソフトウエア開発産業の市場規模は約14兆8000億円。このうちソフトウエアのテスト業務は全工程の3分の1の5兆円ほどで、さらにテストを外部に委託しているのは、5兆円のうちのわずか1%ほどしかないという。 

SHIFTはソフトウエアテスト市場を5兆円のブルーオーシャンと呼ぶ。同社が7年後の2025年8月期に現在の約8倍となる1000億円の売り上げを掲げる背景はここにある。 

SHIFTは2000年に京都大学大学院工学研究科機械物理工学専攻を修了した丹下大社長が2005年に創業した。当初はビジネスコンテストにひたすら参加する一方で、業務改善コンサルティングで業績を伸ばしていった。 

ソフトウエアに出合ったのは2006年。大手EC(電子商取引)サイト向け業務改善コンサルティングを機にソフトウエアテスト業務に挑戦したのが始まりだった。2009年からはソフトウエアテスト事業に本格的に参入し、現在9期連続で増収を達成している。

この後に刻む歴史の中で、ブルーオーシャンをどれだけ取り込めるか。高度化する航海術に注目したい。

SHIFTの沿革と主なM&A
2005 SHIFT設立
2009 ソフトウェアテスト事業を開始し、東京テストセンターを開設
2012 ソフトウェアテスト事業の海外展開に向けて、インド国マハラシュトラ州に100%子会社としてSHIFT INDIA PRIVATE LIMITEDを開設
2012 ソフトウェアテストの教育サービスとしてヒンシツ大学を開講
2012 ソフトウェアテスト事業の海外展開に向けて、シンガポールに100%子会社としてSHIFT GLOBAL PTE LTDを開設
2014 東京証券取引所マザーズ市場に上場
2015 子会社としてオルトプラスとの合弁会社SHIFT PLUSを高知県に設立
2015 モバイルキャリア向け検証業務を手がけるリベロ・プロジェクトを子会社化
2016 ベトナムに子会社SHIFT ASIA Co., LTD.を設立
2016 子会社SHIFT SECURITYを設立
2016 システム設計などを手がけるメソドロジックを子会社化
2016 システムエンジニアリングサービスを手がけるバリストライドグループを子会社化
2017 リベロ・プロジェクトとバリストライドグループ傘下の4社を事業統合しALHとして事業展開を開始
2018 システムコンサルティング事業を手がけるAiritechを子会社化
2019 Webサイト制作のさうなしを子会社化
2019 Webマーケティングのアッションを子会社化

文:M&A Online編集部