新たな買収防衛策を考える-東芝機械の件を契機として-

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はじめに

東芝機械株式会社が旧村上ファンド系の会社より買付提案を受け、昨年6月に廃止した事前警告型買収防衛策をあらためて復活(全く異なるものとして)させたことが話題を呼んでいる。

本稿では、この件を踏まえて、現在における買収防衛策の新たな在り方について検討を試みたい。

本件のこれまでの経緯

過去に公表された東芝機械のプレスリリースによると、本件におけるこれまでの経緯としては大要以下の通りである(2月2日現在)。

①旧村上ファンド系の株式会社オフィスサポート、共同保有者2者とともに約11.49%に至るまで東芝機械株式の買い増しを行い、かつ、同社から1月10日に公開買付けを行う旨の予告を行う。

②東芝機械、上記のオフィスサポートの動きを受け、1月17日、買収防衛策としての対応方針(以下「本対応方針」という。)の導入を決議する。なお、本対応方針は、「既に具体化している本公開買付けを含む大規模買付行為への対応を主たる目的として導入されるもの」であり、2019年6月21日付で廃止した平時導入の買収防衛策とは異なるものであるとしている。

③東芝機械、1月17日、社外取締役3名で構成される独立委員会を設置する。

④オフィスサポートの子会社である株式会社シティインデックスイレブンス、1月21日、東芝機械株式に対する公開買付けを同日より開始する旨の公告を行う。買付期間は同日から3月4日までの30営業日とする。買付予定数は既保有分12.75%と合わせ東芝機械株式の最大43.82%を上限としている。

⑤東芝機械、1月21日、独立委員会に本対応方針に基づき、株主意思確認総会開催の是非、対抗措置の発動の是非などの事項について諮問する。

⑥東芝機械、1月24日、オフィスサポートの要請を受け、株主意思確認総会を開催することを決定する。

⑦東芝機械、1月28日、シティインデックスイレブンスによる公開買付けに対する意見の表明を留保するとともに、同社に対して質問状を提示する。

⑧東芝機械、1月28日、株主意思確認総会の開催を3月下旬ないし4月上旬を目処として開催することを公表する。なお、同総会で議決権行使することができる株主を確定する基準日は2月15日と定めている。

買収防衛指針策定当時からの大きな変革

東芝機械が導入した本対応方針の内容は、経済産業省と法務省が2005年5月27日に公表した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」(以下「買収防衛指針」という。)に則った内容のものと言える(但し、有事に導入している点は後述のように同指針に沿った従前の実務と大きく異なるものである。)。

もっとも、買収防衛指針が公表された2005年当時からすると、例えば以下のように、現在はコーポレートガバナンスの考え方と実務が、当時では考えられないほどに進化、発展している。このことは、2015年にコーポレートガバナンス・コード(以下「CGコード」という。)が策定されたことによる影響が大きい。

①社外取締役を2名以上置くことが多くの上場企業にとって当然となった。

②上記①以外にも、指名・報酬委員会を設置する会社の増加をはじめとして、様々な取締役会改革・CEO改革が実施されるようになった。

③2018年の改訂CGコードにより政策保有株式の縮減が強く求められるようになった。また、自社が他社株式を保有することだけでなく、取引上の関係を利用して他社に対して自社株式の売却を妨げるべきでないとされた。

④機関投資家の側もスチュワードシップ・コードを受け、買収防衛策導入議案に対して極めて厳しい態度を取るようになった。

長い間、買収防衛策は廃止の傾向にあり、実質的な議論が行われることは少なかったが、以上のような現代的背景は、今後の買収防衛策の在り方にも強く影響するように思われる。昨今の敵対的買収が激増している状況では、買収防衛策の議論がまた盛り上がりを見せる可能性が高い。

以上から、買収防衛策に基づく対抗措置の発動を株主総会と取締役会のいずれが判断するべきかという権限分配の問題について再考を要するものと思われる。

株主意思確認総会による株主意思は絶対か

東芝機械の本対応方針は、大規模買付者(本件ではシティインデックスイレブンス)による大規模買付行為に対する差別的行使条件付新株予約権の無償割当てによる対抗措置の是非について、株主意思確認総会を開催して株主の意思を問うこととされている。

このような対抗措置の発動について株主意思を尊重する設計は、経済産業省と法務省が2005年5月27日に公表した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」(以下「買収防衛指針」という。)に定める「株主意思確認の原則」(対抗措置としての新株予約権等の発行が株主の合理的な意思に依拠したものであること)に沿うものであり、従来、望ましいものであると考えられてきた。

しかし、対抗措置発動の是非について、株主意思確認総会を開催し、現在の株主の資本多数決をもって決議することは常に妥当なのかどうか。株式持ち合いによる安定株主が多くいる会社では、経営陣に賛同する安定株主の多数意思によって、少数株主の意思が害されることはないか。

この点、東芝機械の有価証券報告書によると、同社の株主構成は分散しており特定の安定大株主は存在しないようであるものの、株式持ち合いを行っている株主が複数存在している。

むしろ、株主意思を確認するのではなく、独立社外取締役で構成される独立委員会に関与させることによって、判断の経営陣からの独立性を高めた上で、取締役会主導で対抗措置の是非を図ることも事案によっては望ましい場合も考えられるところである。

このように、買収防衛策発動時における株主総会と取締役会の権限分配の在り方について現在の見地から再検討がなされるべきだろう。株主総会と取締役会の権限分配という問題では、株主提案で買収防衛策の廃止議案を上程できるかどうかが争点となったヨロズの事例(ヨロズ株主提案議題等記載仮処分命令申立事件東京高裁決定令和元年5月27日資料版商事法務424号120頁)が記憶に新しい。

濫用的買収者とは何か

特別委員会の勧告のもと、取締役会の判断限りで対抗措置を講じることができる仕組みは東芝機械の本対応方針では採用されていないが、事前警告型買収防衛策一般に多く採用されているものである。

具体的には、(i)大規模買付者が対応方針に定める大規模買付ルールを遵守しなかった場合、(ii)以下の①から④に掲げるニッポン放送事件東京高裁決定(平成17年3月23日判時1899号56頁)に言う4つの類型のいずれかに該当することによって、大規模買付者がいわば濫用的買収者と認められる場合や、(iii)いわゆる強圧的二段階買付(最初の買付けで全株式の買付けを勧誘することなく、二段階目の買付条件を株主に対して不利に設定し、あるいは明確にしないで、公開買付け等の株式買付けを行うこと)の場合等に、対抗措置が発動可能であるとされる。

濫用的買収者 4つの類型

真に会社経営に参加する意思がないにもかかわらず、ただ株価をつり上げて高値で株式を会社関係者に引き取らせる目的で株式の買収を行っている場合(いわゆるグリーンメイラーである場合)
会社経営を一時的に支配して当該会社の事業経営上必要な知的財産権、ノウハウ、企業秘密情報、主要取引先や顧客等を当該買収者やそのグループ会社等に移譲させるなど、いわゆる焦土化経営を行う目的で株式の買収を行っている場合
会社経営を支配した後に、当該会社の資産を当該買収者やそのグループ会社等の債務の担保や弁済原資として流用する予定で株式の買収を行っている場合
会社経営を一時的に支配して当該会社の事業に当面関係していない不動産、有価証券など高額資産等を売却等処分させ、その処分利益をもって一時的な高配当をさせるかあるいは一時的高配当による株価の急上昇の機会を狙って株式の高価売り抜けをする目的で株式買収を行っている場合

これらのようなニッポン放送事件高裁決定の濫用的買収者4類型は、基準として曖昧なものもあり(特に②)、果たしてこのような基準で対抗措置をとることに疑問が生じる場合も十分有り得るところである。

上場維持の有無

買収防衛策の一般的な目的としては、公開買付け実施の前に大規模買付者から十分な情報を開示させ、もって株主が当該公開買付けに応募するかどうかの意思決定に貢献することにある。

そうである以上、当該大規模買付けがスクイーズアウトを伴う非公開化を目的とするものか、それとも本件におけるシティインデックスイレブンスのように、予定買付数に上限を設定して上場を維持するかによって、買収防衛策の必要性の程度が異なってくるように思われる。

すなわち、前者であれば、主として公開買付価格の勝負となり、大規模買付者がどの程度プレミアムを付しているかが検討の中心となることから、株主に公開買付けが開始する前に検討期間を付与することの必要性は低い場面が多いように思われる。

これに対して、上場を維持する場合には、多くの一般株主は公開買付け後も株主として残るため、誰が支配株主となるかは極めて重要な関心事項といえる。そのため、十分な情報開示が必要となることが多いように思われる。

もちろん、上場維持の有無による買収防衛に関する措置の要否はただちに判断できるものではなく、買収防衛策に定める大規模買付ルール上の大規模買付けに関する検討プロセスに沿って検討していくしかないが、上場維持の有無は、ある程度類型的に判断ができる要素となるように思われる。

このように、買収提案の内容や、買収者属性等といった諸要素によって、判断の一定程度の類型化が望まれる。

有事導入の評価

買収防衛策は、買収防衛指針が株主、投資家及び買収者の予見可能性を高めるために、導入に際して買収防衛策の具体的な内容、効果を具体的に開示するべきとしていることから(事前開示の原則)、大規模買付者が現れていないいわば「平時」に導入することが、その合理性を高めるとされ、そのために多くの事前警告型買収防衛策が導入されてきた。

これに対して、東芝機械ではオフィスサポートが買い増しを進め、公開買付け開始予告をしたあとに本対応方針を導入していることから、有事での導入である。

今回もし対抗措置が発動され、法廷闘争に至ったとき、有事導入という事実が対抗措置発動の有効性にどこまで影響を与えるか注目されるところである。

最後に

本件に限らず、昨年来、敵対的買収の事案が激増している。これも、買収防衛指針が策定され、買収防衛論議華やかなりし頃(概ね2004年から2007年頃まで)からすれば隔世の感がある。今後、コーポレートガバナンスが進化、向上すればするほど、敵対的買収は増え、また、成立しやすくなるだろう。

応募を検討するターゲットとなっている対象会社の株主の立場からは、高額なプレミアムを提示している買収提案に応じないことは、自社取締役の善管注意義務を問われかねないため、従来のような抽象的な対象会社との関係性維持といったステークホルダー重視の姿勢を貫くことが難しくなるためである。

また、対象会社の取締役会が独立社外取締役を含む独立性の高いものであれば、従来のような抵抗は難しくなるためである。

すなわち、買収提案が合理的なものである場合には、現経営陣が当該提案を超えるような代替提案を提示できない限り、又はそのような代替提案を提示できるホワイトナイトを探してくることができない限り、徒に抵抗してもかえって株主の利益を害し、社外取締役を含む取締役会メンバーが役員責任を問われかねないため、買収提案者の公開買付けに賛同せざるを得なくなるからだ。

MBO指針も昨年の6月に「公正なM&Aの在り方に関する指針」として改訂されたことでもあるし、買収防衛指針も、現在の向上したコーポレートガバナンスの水準に適合した道筋を示すような改訂が望まれる。

文:柴田 堅太郎(弁護士)

参考URL
・東芝機械|投資家情報|株式会社オフィスサポートとの対応
・経済産業省「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」の策定について
株式会社ヨロズ「当社株主による仮処分命令申立ての却下決定、及び抗告に対する棄却決定に関するお知らせ」