「西武」が経済ニュースをにぎわす、キーワードは「売却」

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西武百貨店の池袋店(東京都豊島区)

「西武」の2文字がこのところ、経済ニュースを賑わせている。共通するキーワードは「売却」だ。

西武ホールディングス(HD)はグループの中核である西武鉄道の直系子会社、西武建設(東京都豊島区)を約620億円で3月末に売却すると発表した。百貨店のそごう・西武を傘下に置くセブン&アイ・ホールディングスは百貨店事業を売却する方向で検討していることが明らかになった。こちらは売却額が数千億円規模とみられている。

かつて「鉄道」「流通」の2グループで構成

西武といえば、その名前を冠した西武鉄道、西武百貨店がまず思い出される。だが、西武鉄道と西武百貨店のポジションは現在、以前とはまったく異なる。

かつて西武グループは西武鉄道、プリンスホテルを頂点とする「西武鉄道グループ」と、西武百貨店、西友などを中心とする「西武流通グループ(セゾングループ)」の2つで構成された。

西武鉄道グループは2006年に持ち株会社制に移行し、現西武ホールディングスを発足させた。約80社を束ね、その中にはプロ野球「西武ライオンズ」も含まれる。

西友、ファミマ、パルコ…「西武」出身

一方、西武流通グループは大規模リゾート開発をめぐる過大投資の失敗などで2000年初めに事実上解体。グループを形成した主要企業は散り散りとなった。

西武百貨店は2003年に、そごうと経営統合し、さらに3年後の2006年にセブン&アイ・HDの子会社となった。スーパー事業の西友は米流通大手ウォールマートに買収された。ファミリーマート、パルコも元々、西武流通グループの一員だったが、現在、ファミリーマートは伊藤忠商事、パルコはJ.フロントリテイリングの傘下といった具合だ。

さて、今回の一連の西武をめぐる「売却」の狙いはどこにあるのか。

西武HD、経営改革へ資産売却

西武HDに西武建設の売却先は通信工事大手のミライト・ホールディングス。西武HDは資産効率の向上など財務体質の改善を目的に、資産売却を進めて運営に軸足を移す経営改革を推進している。実際、国内で展開するホテルの大半にあたる約40施設についても運営に特化するとして、海外ファンドなどとの売却交渉が進行中とされる。

今回の西武建設の売却も同じ流れにある。同社は1941年の設立以来、鉄道関連工事や沿線開発を手がけてきた西武鉄道全額出資の直系子会社だが、5%を残したうえで95%の株式が売却される。実は昨年7月、西武建設傘下で建築材料製造の西武建材が売却されており、これがいわば伏線となった形だ。

セブン&アイ、構造改革の完遂へ

そごう・西武の売却で動き出したセブン&アイは昨年7月に策定した5カ年の「中期経営計画」で、事業構造改革の完遂を掲げ、重点成長分野へ経営資源をシフトさせる方針を明記した。つまり、成長性の乏しい事業は外部への売却も辞さないとのスタンスだ。

そごう・西武は現在、全国に10店舗(そごう4、西武6)を持つ。経営統合時は30店舗を超えたが、閉店や売却が相次いだ。構造的な百貨店不況に加え、足元ではコロナ禍が直撃し、百貨店事業は直近の2022年2月期も2期連続で営業赤字が見込まれる。

一方で、セブン&アイにとってグループの稼ぎ頭であるコンビニ事業では大型買収を断行。昨年5月に米コンビニ第3位のスピードウェイを2兆2000億円超で傘下に収めた。

そごう・西武は生活雑貨大手のロフトを子会社に持つ。ロフトは元々、西武百貨店系だが、ライバルの東急ハンズは昨年末、ホームセンター最大手のカインズに買収されることが決まったことが記憶に新しい。そごう・西武の売却交渉と関連してロフトを切り売りする選択肢も考えられ、その行方が注目される。

文:M&A Online編集部