【住友電工】120周年を迎えた老舗の積極果敢なセグメント強化

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120周年を迎えた老舗の積極果敢なセグメント強化

 住友電気工業株式会社(以下、住友電工)<5802>は大阪市北浜に本社を置き、2017年度で創業120年を迎える。自動車内部の情報や電力伝送を行う配線システムのワイヤーハーネスは世界シェア2位を誇り、その他「情報通信」「エレクトロニクス」「環境エネルギー」「産業素材」の5つの分野で、グローバルに事業を展開している。現在、世界40カ国以上で事業展開し、約390社、24万人を超える社員を擁する。

【企業概要】創業120年を迎える住友グループの中核企業

 住友電工の創業は1897年(明治30年)、「住友伸銅場」の開設に始まる。近年は従来の電線事業のほかに光ファイバーの製造技術による光通信システム、粉末冶金、超硬合金、半導体材料などの新素材をはじめ、新分野の開発でも多くの実績を残している。

 製造業としては積極的にグローバル展開している企業である。住友グループの中核企業であり、住友商事、日本電気とともに住友新御三家の一社。また、住友ゴム工業の大株主でもある。

【経営陣】自動車関連事業を2倍に成長させた生え抜き社長

 社長の松本正義氏は1967年に住友電工に入社し、1997年に取締役に就任、2004年に代表取締役社長に就任した生え抜きである。ワイヤーハーネスなど自動車関連事業を軸に積極投資を進め、社長在任期間中に連結売上高を約3兆円に倍増させている。

役名 職名 氏名 年齢
(代表取締役)社長 松本 正義 72
(代表取締役)副社長 新規事業開発本部長 内桶 文清 68
(代表取締役)副社長 生産技術本部長、自動車事業本部長 西田 光男 69
(代表取締役)専務取締役 川井 文義 62
常務取締役 研究開発本部副本部長 矢野 厚 66
常務取締役 アドバンストマテリアル事業本部長 牛島 望 60
常務取締役 研究開発本部長 伊藤 順司 62
常務取締役 谷 信 59
常務取締役 生産技術本部副本部長 賀須井 良有 58
常務取締役 電線・エネルギー事業本部長 中野 高宏 61
常務取締役 情報通信事業本部長 西村 陽 59
取締役 平松 一夫 69
取締役 佐藤 廣士 71
監査役(常勤) 稲山 秀彰 65
監査役(常勤) 小椋 悟 60
監査役 林 幹 68
監査役 渡辺 捷昭 75
監査役 上原 理子 67

決算期:2016年03月期)

【M&A戦略】自動車セグメントの強化を目的に、選択と集中のM&Aを実施

 住友電工のM&Aは、2000年以降主力の自動車ワイヤーハーネスの事業拡大を目的とした買収を繰り返している。2006年にはドイツのワイヤーハーネス大手、Volkswagen Bordnetze GmbH(フォルクスワーゲン ボードネッツェ ゲーエムヴェーハー)を買収している。この買収により、住友電工はワイヤーハーネス世界シェアの20%を達成する。

 また、ワイヤーハーネス事業に集中するため、2007年度3月期で売上高は590億円、営業利益は30億円と好調な自動車用ブレーキ事業を、アイシン精機式会社に事業譲渡している。さらに同時期に、グループ会社の住友電装を株式交換により完全子会社化し、営業から生産まで一貫した体制を構築した。

 2008年以降はグループ内の組織再編がメインになり、主だったM&Aによる買収はなくなる。だが、2016年に大手焼結部品メーカーであるKeystone(キーストン)買収に動き始める。「焼結部品」とは複数の金属を微細な粉末の状態で焼き固める(=焼結)「粉末冶金法」で製造する機械部品のことで、この買収により、自動車、エアコンメーカーの販路を路拡大する。

表:住友電工が行った主なM&A

年月 内容
2004年5月 住友電気工業によるアライドマテリアルを、株式交換により完全子会社化
2004年12月 子会社の住電商事と、富田通商の2社を合併
2006年3月 ドイツの大手ワイヤーハーネスメーカーである、フォルクスワーゲン ボードネッツェ ゲーエムヴェーハー社を買収
2007年5月 住友電気工業による、住友電装を株式交換により完全子会社化
2007年5月 自動車用ブレーキ事業をアイシン精機に事業譲渡
2007年6月 孫会社のスターネットの株式を取得。これにより取得株式数3,920株(45.8%)となる
2007年6月 日本ユニシスがTOBにより、住友電工の子会社であるネットマークスの株式を取得し子会社化
2007年6月 スターネットの株式取得に関するお知らせ
2007年12月 日新電機に対して、公開買付けにより株式取得。買い付け後の所有割合51.39%
2007年12月 トヨクニ電線に対して、公開買付けにより株式取得。買い付け後の所有割合95.96%
2008年12月 100%子会社のSEI ハイブリッドを消滅会社とする吸収合併
2008年12月 住友電工ウインテックが営む巻線事業の一部事業を、会社分割(新設分割)により新たに設立する会社に承継。会社分割後、住友電工ウインテックを吸収合併
2009年3月 富士通との折半出資会社であるユーディナデバイスの株式を取得し、100%子会社化
2009年4月 原子燃料工業の株式をウェスチングハウスに譲渡
2015年7月 会社分割(簡易吸収分割)により子会社であるジェイ・パワーシステムズの一部事業を承継
2016年9月 米国の大手焼結部品メーカーであるKeystone(キーストン)社を買収

M&A Online編集部作成


【財務内容】自動車事業がけん引。売上高3兆円を目指す

 2008年のリーマンショックにより売上が減少するも、利益率は2010年を境に回復を見せる。2013年に公表した経営計画「17VISION」では2017年度の売上目標を3兆円としている。2016年度時点では2.8兆円とまだ道半ばという状況である。

図1:住友電工の売上高 営業・当期利益率推移

 セグメント別の売上高を見ると、自動車事業の比重が高いことがわかる。

図2:住友電工のセグメント別売上高

  住友電工というと光ファイバーをはじめとした情報通信業のイメージが強いが、売上高は5つの事業セグメントのなかで一番小さい。株主資本比率は48.75%(2016年度)と、盤石な財務基盤を構築している。

【まとめ】自動車事業の成長は鈍化。M&Aに期待高まる

 2013年に2017度を目標年度とした経営計画『17VISION』を発表し、今年度がまさに住友電工節目の年。目標である売上3兆円、営業利益1,800億円を達成できるかどうかの瀬戸際の年である。

 主力事業である自動車ハーネスの売上高は近年では横ばいの状態にあり、今後の成長戦略が待たれるところだ。5つの事業領域から第2の柱となる事業を成長させるのか、M&Aにより新領域にチャレンジするのか。2016年にキーストン社を買収し、M&Aの動きも見られるようになった同社の今後の動向に注目していきたい。

文:M&A Online編集部

この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。