スタートアップや承継の融資を容易に「事業成長担保権」の創設へ

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金融庁(東京・霞が関)

スタートアップや承継・再生局面の融資を容易に

金融庁の金融審議会は11月2日、「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ(WG)」の初会合を開き、事業者が金融機関からの融資を受けやすくする「事業成長担保権(仮称)」の創設に向けた制度設計に着手した。新たな担保制度が導入されれば、事業承継時の個人保証の必要性を軽減する効果などが見込まれる。

事業成長担保権は事業計画などを明確にした事業者と、計画に基づいて事業の将来性を理解し、事業者の実態も継続的に把握できる金融機関との間での利用を想定。スタートアップや事業承継・再生といった局面では不動産などの有形資産担保や経営者保証がなければ資金調達は困難との指摘がある中、これらに依存し過ぎない融資慣行の定着を目指す。

無形資産を含む事業全体が担保

担保権の対象はノウハウや顧客基盤などの無形資産を含む事業全体を見込み、事業価値とも一致する。事業性に基づく資金調達は金融機関と債務者(事業者)の間で事業状況の相互理解(モニタリング)が必要となるが、事業計画などのフォローアップを通した追加の融資や経営悪化時の早期支援が実現すれば担保価値の維持・向上にもつながる。

事業成長担保権設定者が合併・分割した場合の取り扱いや他の担保権との優先関係など法的根拠を整理しなければならない課題も多いが、法務省の法制審議会担保法制部会では2021年4月、担保制度全般の見直しに向けた議論を開始。事業成長担保権も論点の1つで、金融審議会のWGでは法制審部会の論議の蓄積を踏まえた検討を深める。

コロナ後に備えた資金調達環境を整備

米国のリレーションシップバンキングやベンチャー・デットなどの融資実務では、事業成長担保権が成長企業などへの融資を後押しする施策の1つとして広く活用されている。コロナ後の経済社会構造の変化に応じた事業承継・再生などへの支援が欠かせない中、金融庁は「事業者と金融機関が資金調達の課題に対応できる環境の整備は喫緊の課題」としている。

WGでは金融行政の在り方を問う意見も

一方、WGの初会合では、有識者の委員から「中小企業はそもそも見るべき資産が限られ、それらを個別に押さえておく方が効率的という思いが強い。すべての資産の担保取得にこだわる理由を見いだしにくい」「融資先の実態を理解せずに融資していても銀行は破たんすることなく存続できるという環境が問題」といった意見が寄せられた。

事業全体に対する担保制度の創設は、6月に閣議決定した「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」で資金調達に係る他の施策とともに掲げられ、関連法案の早期国会提出を目指す方針も明記。これを受け、9月30日の金融審議会総会で制度についての幅広い検討が諮問された。

文:M&A Online編集部

関連リンク:金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」(第1回)議事次第:金融庁