投資ファンドJ-STARが相席屋のセクションエイトを買収したわけ

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中小企業に特化して投資を行うバイアウトファンド、J-STARが相席屋やThe Public stand(以下:パブリックスタンド)などを全国展開するセクションエイトの過半数株式を1月9日に取得しました。相席屋は見知らぬ男女が出会いを求めて集まる居酒屋。全国で60店舗以上展開しており、100店舗の出店計画を立てています。相席屋は婚活・少子化対策などとして注目されていますが、一言でいえば体のいい「素人キャバクラ」です。そんな危険な香りがする会社へと投資を決めたJ-STAR。会社の価値向上をどこに見出したのか。どうやらパブリックスタンドの「飲食シャワー効果」にカギがありそうですね、という話です。

この記事では以下の情報が得られます。

➀ここがスゴイよセクションエイトの飲食店

➁イグジット先の候補

J-STAR
J-STAR公式ホームページ


居酒屋業界に革命を起こすパブリックスタンドの衝撃

セクションエイトは2016年5月決算の売上高が41億2200万円。創業は2008年です。2年で14億円の売上高を達成した「ステーキけん」のエムグラントフードサービスように、急成長した会社ではありません。その可能性は秘めていたのに、できなかったのです。なぜか。大ヒットした「居酒屋はなこ」が全店閉店(または相席屋に業態転換)に追い込まれたからです。

「居酒屋はなこ」は女性にきわどい制服を着せて、接客するスタイルをとった居酒屋。ガールズバーよりも単価と敷居を下げたことで、男性会社員を中心に爆発的な人気を集めました。風営法にもひっかからず、居酒屋業態であったことから、ビルのオーナーの許可も得やすい。すなわち、出店しやすかったために、瞬く間に20店舗以上展開したのです。

しかしながら出店しやすい形態があだになり、競合店が激増。しかも、競争に打ち勝つために他店が女子高校生などにきわどい格好をさせるなど、怪しいビジネスを展開しはじめて業界の評判が落ちました。世間的なイメージがダウンして客足が遠のいたのです。

その穴を埋めるべく、開発した業態が相席屋でした。驚くことに、この相席屋がスマッシュヒット。代表・横山淳司氏の並外れた嗅覚に感嘆するばかりです。セクションエイトは居酒屋はなこを撤退し、相席屋を猛烈な勢いで出店しました。もし、居酒屋はなこと相席屋が同居できれば、同社の成長スピードは大変なものだったと予想できます。相席屋は現在60店舗以上を展開しています。100店舗拡大を目指して猛進している最中です。

さて、そんなセクションエイトが次なる主力業態として立ち上げたのがパブリックスタンドです。男性が一人3000円、女性が一人1000円で飲み放題というこの業態、一言で表現すると「ナンパバー」です。出会いに飢えた男女が集まる点は相席屋と同じですが、パブリックスタンドは席を個室にせず、社交場のように広く開放しました。ナンパ目的で人が集まるので、いろいろな人に声をかけやすい店づくりをしたのですね。

お店には、エグザイルのようなウェイウェイ系の方や、コンサルタント風の上等なスーツを着た方、ポパイを読んでいそうなオシャレ50代の方など、様々な客層が集っています。女性客は20代~30代の会社員風の方が多いです。相席屋が学生や新入社員層にターゲットを絞りつつある中、こちらは管理職から経営者などに焦点をあてました。出店も、銀座、恵比寿、六本木など、その手の人が集まりそうな場所。

その違いは写真を見ると一目瞭然です。

【パブリックスタンド】

パブリックスタンド
パブリックスタンド公式ページ


【相席屋】

相席屋
相席屋公式ホームページ

今までにない業態であることからSNSなどで騒がれ、集客は上々。ヒットの予感がします。

ユーザー目線で面白い業態であることもさることながら、事業戦略的にも非常に興味深い店舗です。

このパブリックスタンドこそ、J-STARが食指を伸ばした理由の一つ。なぜなら、居酒屋などの飲食やカラオケなどの事業を展開する企業の弱点を、見事に埋める要素を持っているからです。その要素は二つです。

・食事ができない(料理を置いていない)

・一度お金を払ったら、出入りが自由

J-STARは、この二つの爪を研いで、イグジット先を虎視眈々と狙うに違いありません。どういうことでしょうか。

パブリックスタンド
The Public standアニバーサリーキャンペーン


シャワー効果が望めるパブリックスタンド

セクションエイトがIPOを狙う可能性は低いです。なぜなら、前述した居酒屋はなこの一件でイメージを悪くしてしまい、投資家の支持を得にくいからです。そうなると、売却先を探すわけですが、どこに落ち着くか。婚礼、婚活、はたまたITなど、いろいろ考えられるわけですが、順当に考えると飲食で比較的規模の大きな企業です。それも、飲食+カラオケの第一興商<7458>やニュートン(カラオケパセラの会社)、居酒屋+ダーツ・ビリヤードのDDホールディングス<3073>など複合的に展開する会社との相性が良さそう。

理由は一つで、出会う前の男女が食事をしたり、出会った後の男女がカラオケやダーツなどで楽しむという、相乗効果を狙えるからです。

パブリックスタンドは、ナッツ類を置いているくらいで、食事ができません。そうすると、お客さんは近くの飲食店で食事をするわけです。これが重要なポイント。多くの人は同店に行くことが確定しているので、近くの飲食店で食事をします。パブリックスタンドは9時以降が盛り上がる時間です。周辺の居酒屋は比較的ヒマな時間帯の18時~20時の集客につながります(21時以降は会社員の方々が続々入店します)。近くで営業する飲食店は、その恩恵を受けることになります。

そしてパブリックスタンドは、一度入店すれば何度でも出入りが自由です。異性と運よく出会えた男女は、多くが近くのカラオケやバー、ダーツなどのゲームをして遊びます。そして夜のとばりに消えました…。となるケースは稀です。連絡先を交換して、そこまでです。

そうすると、ギラついた(あるいはオラついた)方々は、サケの遡上のように戻ってくるのです。そして上の行動パターンと同じことが繰り返されます。またもや周辺のお店が恩恵を受けることになります。

ナンパを中心とした、シャワー効果が生まれます。

シャワー効果とは、デパートなどで活用されるモデル。最上階のレストランなどを充実させ、人を上に運びます。そこから一階ずつ下におろして買い物をさせるという手法。最上階で催事を行うのも、このためです。

パブリックスタンドが、まさにこれ。ニュートンや第一興商は、同じビルに飲食店を同居させてシャワー効果を期待する店づくりを既に行っています。ここにナンパバーというキラーコンテンツを入れる利点は大いにありそう。J-STARがイグジットとして狙うのは、こうしたエンタメ・飲食の複合企業と予想されます。

セクションエイトがブランディングに力を入れる理由

飲食店などとの相乗効果が得られやすいパブリックスタンドは、フランチャイズ展開がしやすいという特徴もあります。宇都宮の「宮コン」が街コンブームの先駆けとなったように、何しろ地方都市は男女の出会い関連の需要があります。そうした場所で飲食店を複数展開する企業は、加盟店になるメリットが高そう。基本的に料理を出さないスタイルなので、管理・運用面で楽という点も大きいです。若い男女のアルバイトを数人置いておけば、あとは店長一人で回せます。

セクションエイトは業態の公式ホームページを立ち上げて、ブランド磨きに注力しています。フランチャイズ展開をすることが、その要素の一つとして大きいはず。公式アプリを立ち上げて顧客の囲い込みをするなど、インフラも充実しています。

相席屋はエムグラントフードサービスがフランチャイジーになるなど、加盟店も増え始めています。知名度を全国的に広めた相席屋を足掛かりに、パブリックスタンドをいかにして拡大するか。セクションエイトの成長のカギとなるのは、このナンパバーという新業態であることに間違いなさそうです。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由