【セコム】新事業が祖業を逆転のM&A、今後の勝算は?

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※画像はイメージです

警備会社として創業も
現在は新事業が半数近くを占める

セコム<9735>という会社は、何をしている会社だろうか? 多くの人は「警備会社」と回答するかもしれないが、実態はそれほどシンプルではない。

下図グラフを見ると分かるように、2000年当時は売上高の72%を 占めていたセキュリティサービス事業は、15年3月時には56%にまでその割合を減らしている。

 同社は1962年、日本初の警備会社として創業し、現在も同業界の首位の座を守っているが、先述のとおりセキュリティサービス事業の売上高構成比は、現在 6割弱。そのほかに防災、メディカル、保険、地理情報サービス、情報通信(ICT)、不動産など、社会が求めるサービスに相次いで取り組んできた。こうし て、「いつでも、どこでも、誰もが安全・安心して暮らせる社会」を実現する「社会システム産業」という新しい業態を築いている。

 その事業の多角化について創業者で取締役最高顧問の飯田亮氏は、「意思は違うが一緒になって活動する“国連の多国籍軍”のようなもの」と表現している。それがセコムの幅広い事業を端的に表現している。

■セコムが行った主なM&A

年月 内容
1989.2 能美防災の株式を日商岩井から追加取得、出資比率が25%に
1989.9 米国法人7社を統括する持株会社のセコメリカが米国の家庭向け医療サービス会社のHMSS(本社ヒューストン)を250億円で買収
1991.5 英国に新設した子会社セコムキャロルを通じて、ロンドンに本社を置く警備会社、キャロルセキュリティグループと傘下にある7社を買収
1991.5 ベンチャー企業の草分けで大手ソフトウエア会社のコスモ・エイティを40億円で事実上買収。コスモ・エイティが抱える540人のシステムエンジニア(SE)を譲り受ける
1993.11 在宅介護専門会社のエプロンレディケアセンターの発行済み株式の90%を買い取り子会社化
1994.5 中国の全額出資の現地持株会社と大連市政府系の総合商社、大連華興進出口公司とで合弁会社を設立。出資比率はセコムが80%、大連側が20%
1994.5 傘下の米国・在宅医療サービス大手のHMSSを同じ在宅医療大手のコーラム(コロラド州)に売却
1995.7 英国の準大手警備会社アンバサダーセキュリティグループ(ASG、メイドストーン市、売上高26億円)を25億円で買収
1997.12 中堅マンションデベロッパーのホリウチコーポレーションを買収。ホリウチコーポレーションが第三者割当増資で資本金を20億円に増資、セコムが全株を引受けた。ホリウチコーポレーションのメーンバンクの安田信託銀行などが不良債権を全額放棄することを条件に救済に合意した
1998.8 損害保険業界下位の東洋火災海上保険が行う15億3000万円の第三者割当増資を引き受け、事実上傘下に収めることで正式合意。セコムは増資後の東洋火災の株式の約34%を取得。社名を「セコム東洋損害保険」に変更
1998.9 経営破たんした旧・倉本記念病院の土地・建物を買収。当初は「セコム千葉病院」の名称で同年10月上旬にも開業するはずだったが、医師会などの反対により同年12月に「セコメディック病院」の名称で開業
1998.10 インターネット接続業者(プロバイダー)大手である東京インターネットの全株式を米国・プロバイダー大手、PSINet(バージニア州)の日本法人、ピーエスアイネットに売却
1999.8 東京地裁に和議を申請したマンション分譲大手の朝日建物を救済買収。セコムグループ全額出資で新会社「セコム朝日」を設立し、朝日建物から営業譲渡を受ける
2000.6 子会社のマンションデベロッパーのエクレールとセコム朝日の2社を対等合併。エクレールが存続会社となり、新会社の社名は「セコムホームライフ」
2000.10 北海道拓殖銀行グループ企業の破産管財人とザ・ウィンザーホテル洞爺リゾート&スパの買収を合意
2000.12 中堅の医療機器商社であるマック(売上高56億円)を39億8000万円で買収。マックの全国営業網を活用し、自社で開発している医療・福祉機器の販売の拡大を目指す
2002.1 セコムテクノサービスが民事再生法の適用を申請した空調・衛生工事大手のエルゴテックから設備メンテナンス事業を買収
2003.8 医療や健康に関する情報サービスの日本医療情報システムの全株式を取得して買収
2004.7 セコムテクノサービスが民事再生手続開始申立をした社東北エンタープライズ(売上高84億円)を1000万円の営業権を付けて譲り受け
2005.7 高千穂交易との間での業務・資本提携。高千穂交易が行う第三者割当増資を引受け、4億6800万円を投じて4.65%を取得
2005.12 細田工務店の第三者割当増資に応じ、16億2700万円を拠出して同社株式の14.8%を取得
2006.3 セコムテクノサービスが矢野新空調(売上高13億円)の全株式を取得し子会社化
2006.10 東洋テック(売上高124億円)の株式の25.47%を取得
2006.11 能美防災(売上高647億円)の行う140億円の第三者割当増資を引受け、追加出資して子会社化(28.6%→50.3%)
2007.5 東京美装興業(売上高275億円)の株式を筆頭株主の八木秀記氏から追加取得し、持分法適用関連会社とする
2008.2 公開買付により東京美装興業の株式を追加取得。9億円を投じて出資比率を27.43%から36.56%に引き上げ
2010.4 保有する東京美装興業の全株式について、ティービーホールディングスが実施する公開買付けに応募、保有株式を売却
2011.3 公開買付により133億円を投じて上場子会社であるセコムテクノサービスの株式を取得、非公開化する
2012.1 住生活グループとの間で包括的業務提携契約を締結、LIXILニッタン(売上高341億円)の全株式を127億円で買収
2012.9 東京電力が保有するアット東京(売上高262億円)の株式を333億円で取得し子会社化(出資比率50.88%)
2014.4 100%子会社であるザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナルに賃貸中の同社保有の不動産、および同社のホテル事業などを明治海運に譲り渡し
2015.8 小荷物専用昇降機の国内トップシェアのメーカーであるクマリフト(大阪府、売上高52億円)の全株式を取得、子会社化
2015.10 売上金回収、釣銭作成配送のサービスを24時間365日提供する豊田自動織機子会社アサヒセキュリティ(東京都、売上高363億円)の全株式を810億円で取得、子会社化

祖業依存体質からの決別
00年以降の積極的なM&A戦略
 事業領域を拡大させ、いくつもの事業が祖業と並び立つセコムは、特に00年代中盤から積極的なM&Aに取り組んでいる。05年8月に行なった万引き 防止システム最大手の高千穂交易の株式取得を皮切りに、同年10月にはビル管理大手の東京美装興業へ出資、その2カ月後にも住宅・不動産開発中堅の細田工 務店へ資本参加した。また、06年10月には警備保障中堅の東洋テックの株式を取得して持分法適用会社化し、11月にも防災機器大手の能美防災を子会社化 した。

 さらに、07年5月には東京美装興業の出資比率を引き上げ、同社を持分法適用会社としている(ただし、10年4月、保有する全株 式について、東京美装興業の創業者によるMBOに応募)。12年1月には、生活グループの連結子会社で消防用設備全般の工事施工、機器販売および保守点検 業務を行うLIXILニッタンを完全子会社化。同年9月には東京電力の子会社であるアット東京を子会社化し、日本最大のデータセンターを保有することに なった。

 それらの一連の取り組みは、同社の事業領域を拡大させ、従来の事業とのシナジーを生みながら発展している。そして冒頭に紹介したとおり、今や祖業のセキュリティサービス事業と並び立つほどに成長しているのだ。

■セグメント別売上高推移(詳細)

セコムのM&Aの目的は一つ
企業ドメインの強化、補完

 一連の買収・資本参加は多岐に渡るが、セコムの目的は一つである。それは、企業ドメインである「社会システム産業」の強化、補完である。

 同業の東洋テックの場合は言うまでもないが、例えば、万引き防止システムの高千穂交易と連携すれば小売店への営業を強化できるし、ビル管理の東京美装興業の 顧客層を活用すればオフィス需要を開拓できる。細田工務店との提携では、同社が分譲する戸建て住宅街へのサービス提供が容易になる。能美防災の防災機器と 融合すれば、付加価値の高い新サービスを開発できる。LIXILニッタンの子会社は、同じく防災のパイオニアである能美防災とともに、次世代型の防災シス テムの開発を可能とした。そしてアット東京のデータセンターは、「社会システム産業」の構築を目指すセコムグループの情報基盤を大きく強化することにつながっている。

■セコムグループの財政面の変遷

 最後に注目したいのが、セコムの財政面の健全性についてである。先に示した一覧表にあるとおり、同社は事業領域を拡大するために非常に多くの M&Aを繰り返してきた。創業者で取締役最高顧問の飯田亮氏は「社会的に意義のある事業なら、リスクを恐れず挑戦する」との方針を打ち出し、「いずれ既存事業と結びつく」と直感的に判断した案件も多いという。

 それらの実行には巨額の資金やリスクが伴うものだが、セコムの財務状況は下図のとおりである。

■自己資本比率、有利子負債比率の推移

 直近の15年3月期の同社の自己資本比率は53.6%、有利子負債比率は8.2%と安定性がかなり高い状況にあることが見て取れる。03年3月期には合計 2,100億円以上もあった有利子負債額が、15年3月期には700億円へと約3分の1にまで圧縮され、自己資本比率もここ数年は50%を超えて推移して いることも分かる。

 この財務体質を支えているのが、祖業のセキュリティサービス事業の利益である。セグメント別の利益で見ると、同事業 だけで15年3月期は1006億円の利益を創出している。この数字は業界2位の綜合警備保障のセグメント別利益(セキュリティ事業 238億円)の約4.2倍であり、圧倒的な利益創出が際立つ。

 企業ドメインを軸に、「安全・安心」そして快適で便利な社会の創造のために大胆かつ柔軟にM&Aを活用するセコム。単なる事業多角化ではなく常にシナジーを前提とした買収により、高い成長性を実現している。

 積極的なイメージがある同社だが、一方で海外展開は思いのほか進んでいない。

 04年3月期に117億円だった海外売上高は15年3月期では441億円と売上高こそ3.7倍に成長しているが、ボリュームの大きい国内事業も成長しているため、売上高構成で見ると2%が5%になった程度で、微増に過ぎない。

■セコムの海外売上高の推移



 今後のセコムのM&Aでは、海外案件に注目が集まりそうだ。

 この記事は、企業の有価証券報告書などの開示資料、また新聞報道を基に、専門家の見解によってまとめたものです。

まとめ:M&A Online編集部