飲食業界の「コロナ破綻(はたん)」が勢いを増してきた。東京商工リサーチによれば11月22日時点で「新型コロナ」を原因とする負債総額1000万円以上の経営破綻件数が、全国で累計4530件に達した。このうち最多は飲食業で711件と、全体の15.7%を占める。飲食店の「大量倒産時代」が目前に迫っているのだ。
もともと飲食業は倒産が多く、今年上半期まではコロナ禍にもかかわらず過去20年間で最少だったことが東京商工リサーチの調べで分かっている。これは「コロナ禍に強かった」わけではなく、行政によるコロナ関連の資金繰り支援のおかげだ。
しかし、政府はコロナの感染拡大にもかかわらず、経済活動を停止しない方向へ転換した。支援打ち切りに伴い、「倒産予備軍」が一気に力尽きる懸念が出ている。では、コロナ禍で業績が低迷してきた飲食店事業者は経営を持続するために、どうすればよいのか?
一つは規模拡大による経営体力の強化だ。そのための手段として最も有効なのがM&Aだ。M&A Onlineの調べでは、飲食業界の苦境を反映して、2022年は11月24日までに26件のM&Aがあった。前年同期よりも6件増加している。
M&Aは規模拡大だけではない。持ち帰り弁当の「ほっともっと」、定食店「やよい軒」などを展開するプレナス<9945>は、598億6000万円でMBO(経営陣による買収)を実施した。中食・外食市場の競争激化に打ち勝ち、持続的な成長基盤を構築するには、非公開化して中長期的な視点から迅速・柔軟に意思決定できる体制が必要と判断したのだ。
アスモ<2654>は高齢者介護施設向けの「フードサービス事業」などに経営資源を集中するため、少額短期保険事業を譲渡した。「選択と集中」のためのM&Aだ。コロナ禍の先行きは不透明であり、飲食業界では生き残りのためにM&Aが活発化している。
集計:M&A Online編集部(無断転載禁止)
もう一つの手法は規模縮小、つまり「ダウンサイジング」だ。現在、飲食店の経営を圧迫しているのは仕入れ価格の大幅な上昇、それに深刻な人手不足だ。仕入れ価格上昇に対応するにはM&Aによる規模拡大しかないが、それでも厳しい状況は変わらない。つまり規模が大きければ「多少はマシ」という程度である。つまり打つ手はないに等しい。
一方、人手不足は経営規模を縮小し、運営に必要な人員を削減することで対応できる。家族経営の飲食店経営に切り替えれば、少なくとも「外部」に人件費は流出しない。
加えて小規模であれば「小回り」がきく。例えば最寄りの農家から有機野菜を仕入れて「安全安心な食」を提供することで差別化を図り、仕入れ価格の値上がりを料金に転嫁することもできるだろう。ベジタリアン(菜食主義者)に特化したメニューや、小麦アレルギーに対応したグルテンフリー食材を使うなど、ニッチなニーズにも対応しやすくなる。
この二つの手法を併用する方法もある。現在経営している飲食店をM&Aで譲渡、あるいは事業不動産を売却し、そこで得た資金を小規模な飲食店事業の起業に使うのだ。企業の新陳代謝は「経営者の交代」だけではない。同じ経営者が「事業を交代」することでも可能なのだ。
飲食業に限らず、コロナ禍から立ち直るのに苦労している企業は少なくない。経営者には「座して倒産を待つ」のではなく、自らが「決断して行動を起こす」ことが求められている。
文:M&A Online編集部
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