「コロナ禍で大赤字」の銚子電鉄、どうやって生き延びさせる?

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大に伴う観光客の激減で、銚子電気鉄道(千葉県銚子市)が、またも存亡の危機を迎えている。すでに鉄道事業の収支は赤字が定着しており、鉄道マニア向けの通信販売で経営を支えている銚子電鉄だが、このままでは遠からず行き詰まる。

同社の見通しでは2021年3月期の最終損益が3965万円の赤字。赤字は5期連続と常態化している上に、赤字幅は前期の1979万円から2倍に膨らんだ。コロナ感染拡大に伴う自粛ムードや外出控えで観光客や地元客による鉄道利用が減少した。

「ぬれ煎餅」などの商品数を100品目以上と約5倍に増やしたのが奏功してインターネット通販は前年比7.5倍の8030万円に急増したが、鉄道事業が同29%減の5252万円と不振で、売上高は同11%減の4億4330万円に落ち込んだ。

主力事業のネット通販は大幅に伸びたが、鉄道事業の不振が深刻(同社ホームページより)

日本政策金融公庫と銚子信用金庫による総額9000万円の緊急融資を受けて急場をしのいだが、物販頼みの経営では不安定極まりない。銚子電鉄が長期的に持続可能となる三つの方法を検証しよう。

実現可能性の高い順に三つ星(★★★)、二つ星(★★☆)、一つ星(★☆☆)で評価した。

(1) M&A(★☆☆)

手っ取り早いのは銚子電鉄を買収してもらうことだ。できれば赤字を補填し続けられるだけの体力を持つ企業が望ましい。真っ先に思い浮かぶのは、鉄道会社によるM&Aだろう。順当なのは銚子駅で総武本線と接続するJR東日本だ。銚子電鉄を買収すれば、総武本線を外川駅まで6.4km延長できる。

しかし、これは望み薄。銚子市の中心市街地は銚子駅周辺であり、JR東日本にとってはその先に延長するメリットがない。JR東日本も鉄道事業で黒字なのは新幹線と東京通勤圏の在来線などに限定され、その他の路線は程度の差こそあれ赤字だ。

そのためJR東日本は「駅ナカ」に代表される駅構内での物販事業に力を入れるなど、「脱鉄道」に切り換えている。仮に銚子電鉄線がJRの路線だったとしても、廃止か第三セクター化による切り離しを図っただろう。買収など「とんでもない話」だ。

(2) 上下分離方式(★★☆)

銚子電鉄同様に赤字に悩む近江鉄道(滋賀県彦根市)が2024年に公有民営の「上下分離方式」を導入する。地元自治体が路線や駅などの設備を保有・維持し、鉄道会社が借り受けて列車を運行する仕組みだ。

鉄道事業が赤字なのは、主に線路や信号・電気設備の保守点検や追加投資のコストがかかるため。銚子電鉄も2006年に国土交通省関東運輸局が実施した保安監査で、路線設備の老朽化により踏切や枕木の約1500本に腐食などが確認された上に、列車が通過しきっていないにもかかわらず遮断機が上がってしまうなどのトラブルを指摘され、改善命令が出た。

ただ、近江鉄道は総路線長が59.5kmあり、沿線自治体は5市5町と多い。一方、銚子電鉄は路線長が近江鉄道の9分の1と短く、沿線自治体は銚子市だけだ。それだけに市が単独で銚子電鉄の路線を所有し、インフラを維持する負担は重い。もしも千葉県が支援に乗り出せば、銚子電鉄が上下分離方式で甦る可能性が出てくる。

(3) 観光向けの保存鉄道化(★★★)

保線のための投資が経営を圧迫しているのなら、いっそのこと保線コストを削減してはどうか。鉄道に求められる安全基準は厳しいが、「遊具」であれば大幅に緩和される。つまり銚子電鉄を「鉄道」ではなく、遊園地やテーマパークの「乗り物」に変更するのだ。

1987年4月に廃止された地方鉄道法に代わる鉄道事業法では、輸送手段として利用される鉄道であっても、公園などの敷地内ならば「遊具」と認められるようになった。東京ディズニーシーの「ディズニーシー・エレクトリックレールウェイ」(路線長0.48km)のような路線だ。

とはいえ、営業している鉄道路線を「遊具」に転換できるのか。実は国内にも転換例はある。廃線となった高千穂鉄道高千穂線の高千穂駅〜高千穂鉄橋間の約5.1kmが鉄道記念公園の指定を受け、高千穂あまてらす鉄道(宮崎県高千穂町)が観光保存鉄道としてトロッコ列車を運行している。

旧高千穂鉄道を保存鉄道として復活させた高千穂あまてらす鉄道(同社ホームページより)

線路は敷設されていないものの、未成線(工事は完了したが開通しなかった鉄道路線)の旧国鉄岩日北線の錦町駅〜雙津峡温泉駅(岩日北線では周防深川駅予定地付近)間の約6kmを「岩日北線記念公園」に転用し、岩国市から委託を受けた錦川鉄道(山口県岩国市)がタイヤ走行の「とことこトレイン」を運行している。路線長は銚子電鉄とほぼ同じだ。

錦川鉄道「とことこトレイン」の路線長は、銚子電鉄とほぼ同じ(同社ホームページより)

旧高千穂鉄道は山間部の過疎地、旧岩日北線はほぼ全線が高架とトンネルで自動車や歩行者と接触する可能性は低い。しかし、銚子電鉄は郊外とはいえ市街地を通る路線なので「鉄道記念公園」として認定されるには、現在よりも低速で運行するなど安全面での工夫が必要になる。

たとえば高千穂あまてらす鉄道は往復(約10km)に30分、とことこトレインは片道で40分かかる。時速換算では20km/時、9km/時と自転車程度のスピードしか出していない。とことこトレインが極端に遅いのは、沿線風景を楽しむため途中で減速したり停車したりしている「遊具」ならではの事情がある。

ただ、現行の銚子電鉄も銚子駅〜外川駅間を22分かけて運行していることや路線長も短いことから、「遊具」である観光保存鉄道と同程度の速度でも大きな障害にはならないだろう。犬吠埼観光の目玉の一つになっている銚子電鉄だけに、観光向けの鉄道記念公園とする大義名分もある。電車を止めないために、最も低コストで現実的な再建策といえる。

銚子電鉄が増収のため制作した映画「電車を止めるな!」(同社ホームページより)

文:M&A Online編集部