【業界最前線ブログ】「ファッション流通の現場」(3)ユニクロ対ZARA

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画像はイメージです。

6月8日に発売された週刊ダイヤモンドの特集2は 「H&M 脱ファストファッションの野望」

10ページに及ぶ特集企画にあたり、H&Mのビジネスモデルの整理や同社を取り巻く市場環境に関して記者の方に助言をさせていただきました。

本特集記事は 拙著「ユニクロ対ZARA」(日本経済新聞出版社)なども参考にしていただきながら、最新データとCEOおよび幹部インタビューを取り混ぜ、「ZARA 対 H&M 対 ユニクロ」的にまとまっており、世界最大のファッションストア業態であるH&Mの現在と未来を考える上で示唆に富む内容も多く、とても読み応えのある内容に仕上がっていました。

各国マーケットのファッションチェーンにとって、ユニクロやZARAに関しては、ある程度棲み分けできる相手かも知れませんが、H&Mに関しては、トレンドにしてもベーシックにしても・・・ファッション流通ビジネスで考えられるマーケティングの手だてを尽くし、世界統一かつ、各国の市場最低価格で提供するわけですから・・・
ローカルファッションチェーンにとってこれほど脅威な存在はないでしょう。

しかし、記事にもあるように ディスカウンターモデルと推測されるプライマーク(アイルランド 年商4757億円)がH&Mの価格の下をくぐり、英国市場を中心に年率20%超で急成長、今年はアメリカに進出します。

一方、ASOS(エイソス;英 年商1855億円)や ZALAND(ザランド;独 年商3059億円)はEC(ネット通販)というローコストビジネスモデルで、H&Mと競合するオリジナルの低価格ファストファッションも提供し、H&Mを猛追している昨今、ファッション流通における最強ビジネスモデルのひとつと言えども、決して予断を許せない状況です。

今回の記事の中で 特に気になったH&M社の現在そして将来に向けての強さを表す2つのコメントがありましたので、ご紹介させて頂きたいと思います。

ひとつめは

世界58か国約3600店舗に対して、全世界共通の商品を一切 ローカライズせずに各国で販売するH&Mのデザイン部門前責任者のアンソフィー・ヨハンソン氏のコメント

「インターネットを通じてグローバル化した世界では、誰もが同じ情報を同じタイミングで手に入れる。だから各国の違いよりも、類似性を重視している」

私もこの業界で働き始めてあと数年で30年になりますが、20世紀(90年代まで)には欧州~アメリカ~アジアでファッショントレンドが伝わる時差があったもので、シーズンの半年前に欧米にリサーチや買い付け出張に行けば、半年後の日本の市場トレンドがある程度予測できる、そんな文化や情報の格差、時差を利用すればファッション流通ビジネス、特にマスマーケットではメシが喰えるなどと思われていいたころがありました。

しかし、そんなビジネス環境は21世紀に入りインターネットとモバイルデバイスの普及で一変します。

彼女が言うことは、グローバルトレンドはもちろん、ローカルトレンドにも言える話で、情報のグローバルレベルなスピード化の流れはもう誰にも止められないでしょう。

そんな変化とどう付き合い、どう活用して市場を勝ち取るか?という話なのでしょう。

自国のマーケットが大きくなく、ビジネスを始めたとたんにグローバルビジネスを考え始めざるを得ないヨーロッパ企業は常にグローバルでユニバーサルに通用する商品、サービス、ビジネスモデルを考えて来ました。 彼女のコメントはその発想をさらに21世紀の環境の変化に合わせて的確に表していると思います。

グローバル時代には、そんな訓練を積んで来た欧州企業に一日の長があると言えます。

次に、H&Mのカール・ヨハン・パーションCEOのコメント

2020年(5年後)をメドに販売するすべての綿製品をリサイクルやオーガニックなど環境にやさしいサステナブル(持続可能)なものにすると宣言するH&M

「環境負担を気に掛ける人は常に増え続けています。5-10年後には価格だけでなく、かなり多くの人がサステナビリティを意識するようになると確信しています。」

H&MにしてもIKEAにしてもそうですが、人件費の安い国で作り、先進国市場を徹底的に攻略し、ローカルの競合プレイヤーをこてんぱんにして、ファッション流通マーケットやライフスタイルの風景を変えてしまう「グローバル資本主義の権化」のような ファッション流通業=H&Mですが、ビジネス的に ただ儲けるだけでなく、同時に 将来を見据えてサステナビリティ 環境 人権 に関しても本気で語り、実行する 大人であること。

教育を受け始めたころから世界と付き合うことを教えられ、ビジネスを始めた後も世界の環境と世界の人々とどう付き合うかを考えながら 実践してきた国民。

これは私が商社勤務時代に数年間おつきあいさせて頂いたスウェーデン企業の方々から感じたスウェーデン人に共通する私の印象です。

決して偽善的ではない、本音で語る理想と実践力
同じことをH&MのCEOのインタビューコメントの中にも感じたものでした。

文:齊藤孝浩