証券取引等監視委員会は、さいか屋<8254>株で相場操縦をしたとして、静岡県の男性会社役員に対して1,334万円の課徴金を納付するよう勧告しました。男性は高値での買い注文を出して株価を引き上げるなどし、株価の下落を阻止しようとしました。株価を安定させる目的で相場操縦の勧告を出したのは、今回が初めてとなります。
さいか屋株式に係る相場操縦に対する課徴金納付命令の勧告について|金融庁
百貨店のさいか屋は、時価総額が10億円を下回る上場廃止猶予期間入り銘柄で、2021年6月30日までの解消が求められています。現在の時価総額は7億円。相場操縦は2020年1月9日から31日までの間に行われており、8月1日の上場廃止猶予期間入り前に株価を引き上げようとしたものと考えられます。
この記事では以下の情報が得られます。
・初の勧告が出た安定操作の内容
・さいか屋の業績と概要
相場操縦をした男性は、大口の高指値買い注文を入れることにより、他の投資家が発注した売り注文を買い付けて直前の約定値よりも高い株価に引き上げ、他の売り注文を順次買い付けることで株価の下落を阻止していました。委託分も含めて、9万株以上の買い注文を16取引日にわたって出しています。
1日の取引例をみてみると、290円まで下落したさいか屋株に対し、大口の買い注文を出して298円までつり上げています。更に、約定しなかった分を場に残して下落を阻止。株価は300円で安定します。午後にまた292円まで下落しますが、それを大口買い注文によって再び300円まで上昇させています。
こうした行為を繰り返し、1月10日から上場廃止基準を超える320円で株価を安定させていました。この取引は金融商品取引法第159条第3項の安定操作に該当し、相場操縦と認められました。
今回のケースにおいては、さいか屋と株主はメリットを享受したことになります。現在の筆頭株主は浅山忠彦氏。2020年2月末の時点で20.86%を保有しています。浅山氏は健康食品を製造するエーエフシー(静岡市)の代表取締役会長です。長い年月をかけて保有比率を高め、筆頭株主になっていました。
さいか屋の業績は低迷が続いています。2021年2月期第1四半期の売上高は前期比44.1%減の26億3600万円。経常損失が3億7400万円となりました。純資産額が8億8000万円で、自己資本比率は8.0%。時価総額10億円未満の上場廃止基準の抵触に加えて、債務超過にもなりそうな状態です。
第1四半期は新型コロナウイルスの影響が大きかったですが、その前から苦境にあえいでいました。3期連続で売上は減少し、利益も出ていません。さいか屋の株価は上昇する見込みが極めて低い銘柄だったといえます。
■さいか屋業績推移(百万円)
2018年2月期 | 2019年2月期 | 2020年2月期 | |
売上高 | 19,855 | 19,384 | 18,431 |
増減 | 5.72%減 | 2.37%減 | 4.92%減 |
経常利益 | △124 | △157 | △130 |
※有価証券報告書より
さいか屋はリストラを進めています。2020年6月に希望退職者を募集。108名の応募がありました。第2四半期の決算で退職金などの費用6,100万円の特別損失を見込んでいます。
また、1928年に開業した横須賀店の閉店も決めています。2017年2月期以降は赤字が恒常化。2020年2月期の売上は65億8600万円でした。1991年のピーク時には368億円もの売上があり、1/5程度まで縮小していました。横須賀店の閉店によって35%程度の売上減となりますが、利益が出る体質になると見込んでいたものと考えられます。しかし、それも新型コロナウイルスによって先行きは暗いものとなりました。
さいか屋の歴史は古く、1867年に西浦賀で開いた呉服店が発祥とされています。海軍基地によって繁栄していた横須賀に注目し、1872年に雑賀屋呉服店を開業。横須賀での営業に専念するようになりました。
1956年川崎市に鉄骨鉄筋コンクリート造りの地下1階、地上3階の百貨店を開業したことがきっかけで、店舗数を増やします。1965年に藤沢、1967年に町田、1970年に茅ヶ崎と神奈川県を中心に出店しました。1990年には横須賀店新館を開業。ホールを入れるなど店舗の拡充を図りました。
しかし、2000年に入ったころから百貨店の売上低迷の煽りを受けました。2009年京浜急行電鉄<9006>に第三者割当増資を実施して10億円を調達したものの、債務超過となりました。この年の8月に事業再生ADRによる再建を申請し、自主再建の道が閉ざされました。2015年に主力となる川崎店を閉店。川崎日航ホテル内に出店するなど、小型化を進めていました。
縮小均衡による立て直しを目指してきましたが、新型コロナウイルスの影響が加わり、上場廃止が現実味を帯びるなど経営危機が改めて再燃した格好です。
文:麦とホップ@ビールを飲む理由