株主騒然!上場廃止の佐渡汽船が超安値で株式を「お召し上げ」へ

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「三途の川の渡し賃にもならない!」と、ネットに株主の嘆き声が広がった。佐渡汽船<9176>が2月7日、交通・観光業の再建に取り組んでいるみちのりホールディングス(HD、東京都千代田区)の傘下に入り、5月6日に東証ジャスダックでの上場を廃止すると発表した。こうした場合はTOB(株式公開買い付け)を実施し、公表時の株価よりも高値で買い取るのが普通だ。ところが同社は、発表前営業日に1株あたり202円だった同社株を30円で引き取ると表明した。株主は大損害だ。

少数株主を排除するスクイーズアウト

なぜ、こんなことが起こるのか?佐渡汽船が実施するのは「スクイーズアウト」と呼ばれる手法。大株主が少数株主から株式を強制的に取得する。上場企業では株式の100%取得を目的としたTOBに応じない少数株主対策として実施されることが多い。TOBを経ず、しかも 90.10%という大幅なディスカウントでスクイーズアウトを実施するのは極めて異例だ。

「こんなことをやられては、少数株主はたまらない」と不安になるだろう。例えば新生銀行にTOBを実施したSBIホールディングス<8473>は、国との合計保有割合が90%になったところで一般の少数株主をスクイーズアウトし、国が保有する株だけを1株7500円程度で買い戻して公的資金を返済する方針という。

この時に市場の株価をはるかに下回る金額でスクイーズアウトを実施されれば、少数株主は損害をこうむることになる。だが、実際にそんなことはできない。国とはいえ大口株主の保有株だけを高額で買い取るために、それより安い価格でスクイーズアウトを実施しようとしても、少数株主が訴訟に持ち込めば「株主平等原則」の観点から認められないだろう。

債務超過だからこそできたスクイーズアウト

では、佐渡汽船では、なぜ株主に不利なスクイーズアウトを断行できたのか?同社は2021年12月末に約30億円の債務超過に陥っていた。そこで、みちのりHDが3月に15億円を出資して筆頭株主になると同時に、現在の筆頭株主である新潟県の持ち株比率は35.51%から約10%に低下。第四北越銀行も15億円の債務を株式化する「デット・エクイティ・スワップ」による金融支援を実施する。

佐渡汽船の経営再建スキーム(同社ホームページより)

つまり、今回のスクイーズアウトは「経営再建」のスキームであり、スクイーズアウトを実施しても問題のない案件なのだ。仮にみちのりHDからの支援がなく経営破綻した場合、株式は無価値となる。それがスクイーズアウトによって30円だけでも帰って来るわけで、法的にも問題はないという見立てだ。

1月28日に岸田文雄首相が「佐渡島の金山」(新潟県)を世界文化遺産として国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦する方針を表明したばかり。観光客の増加を見込んで佐渡汽船株を買った株主にとっては、手痛い結末になってしまった。

文:M&A Online編集部