利益にこだわれ!|M&Aに効く論語5

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君子は義に喩り、小人は利に喩る

 前回から論語を通して富や利益について考えています。とはいえ、孔子が生き、その後も孔子の言葉を大事に学んでいた時代は、いまの時代のように、誰もが富や利益について考えなければならない事態は想定されていませんでした。そういうことは、上に立つ者そして賢明なリーダー(君子)だけが考えればいいとみなされていたのです。

いまの時代は全員が君子

 そもそも、20世紀も半ばを過ぎるまでは、誰もが富や利益を追求できる状態ではありませんでした。ところが、低金利ないま、誰でもいいアイデアと実行力があれば、資金を得て起業できる時代です。それは、孔子から考えれば、群雄割拠どころではなく、民のすべてが君子になってくれなければ困る事態といえるでしょう。

 この点で、今後、論語を読むときには、「君子」はすべて自分たちのことだと思ってかからないと意味がなくなるでしょう。「誰かエライ人のことだろう」では済まないのです。私が、あなたが、すべて君子を目指していかなければ、世の中はよくならないのです。

子の曰わく、君子は義に喩(さと)り、小人(しょうじん)は利に喩る。(巻第二、里仁第四)

 富や利益についても同じです。資本主義の初期段階では、財閥や銀行など圧倒的な資本力を持つ者だけが富や利益に悩むことができたのです。

 いまの時代、誰しもが個々に「自分にとっての富」とか「自分にとっての利益」といったものを考える必要があります。ですから、この言葉も、「君子(誰かエライ人)は、義を重んじるべきで、利益や富は二の次だ。利益にこだわるのは小人の証拠だ」と解釈するのは、もはや私たちには、それこそ無益な考えとなってしまうのです。

 そもそも、この言葉では君子と小人を対比させているので、君子を人格者で立派な人と定義してしまうから、小人はとるに足らない賤しい人間だろう、と推測してしまいがちなのです。おそらく、当時でも孔子は、君子と小人をそのような対比にはしていなかったのではないでしょうか。

小人の立場にあるのなら……

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君子は周(しゅう)して比せず、小人は比して周せず。(巻第一 為政第二)

 孔子は、この言葉もあるように、君子と小人は立場の違いとして示していただけではないかと考えられます。この言葉は、「君子は広くさまざまな人と親しむが、小人は特定の人たちだけと親しむことが多いよね」といっているのです。

 つまり、私たちがたとえば、不特定多数を相手としたり、より多くの顧客と対する立場となったときには、当然、君子としての行動が重要になっていきます。そのときは、「富や利益よりも『義』を選び、広く立場の違う人たちとも意見交換できる存在になっていないとマズイよ」というのです。

 そして現在、自分の立場として、そこまで求められていないなら、まずは「利益」を考えることが大事ではないか。そして特定の人たちと密度濃く交流したほうがいいのではないか、といっているのです。

 とはいえ、冒頭に申し上げたように、いまの時代は誰もがリーダーとしての決断を求められるといっても過言ではありません。「私は小人だから……」と言い訳のように立場をあえて下げていくような行動や考えではなく、「自分も君子として考え行動しよう」と当事者意識を持って、事に当たることが求められています。

子の曰わく、利に放(よ)りて行なえば、恨み多し。(巻第二、里仁第四)

 ただし、どうしても利益中心に行動をすると、恨みを買うことも多いと警告しています。

 それを君子がやってしまうと、どうなるか。簡単に言えば、炎上ですね。トップが一人で負える範囲なら炎上しようが恨まれようが、どうでもいいことなのですが、現実には必ずさまざまな方面に波及します。

利益追求のブーメラン効果

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 私たちはいま、君子でもないのに君子のように振る舞わないと結果を出せない、結果を出せても長持ちしない時代に生きています。

 バイトだからといって、店でふざけた行為をしてSNSで拡散すれば、その人はクビになり損害賠償を請求される恐れが出て、さらに店も、企業も大きなダメージを受け、そこから回復するまで大変な努力をしなければなりません。バイトのおふざけ行為がなければ、その努力は不必要だったのです。

 そもそも、なぜ、その人はバイトだったのか。元をたどれば、利益のためです。正社員ではなくバイトを雇うことで人件費を節約し利益を出すこと。「利に放(よ)りて行なえば」です。ここは利ではなく「義」を重んじて組織をしっかり作ることが、リーダーとしては重要なことでしょう。

 このように、ただひたすら利益のみ追求すると、そのブーメラン効果で、いつかマイナスとなって自分に返ってきてしまうことがあるのです。

 君子に及ばない小人であるうちは、「小人は利に喩る」でいいでしょう。利益に敏感になっていなければなりません。そういう立場にあるのです。利益をバカにしてはいけない。徹底して利益にこだわってもいいのです。

 ふざけた行為をすることが、自分の利益になるでしょうか。それをSNSで拡散することはどうでしょう? 小人の立場にあるときは、そこまで考えられないし、考えなくてもいいのかもしれませんが、君子(リーダー)として行動するときには、利益だけではダメなのです。

 では、君子の重視しなければならない「義」とはなんでしょうか。それは次回に考えていきましょう。

※『論語』の漢文、読み下し文は岩波文庫版・金谷治訳注に準拠しています。

文・舛本哲郎(ライター・行政書士)