ロームが見せた加速度センサーの買収戦術 スマホにみる見る電子部品サプライヤーM&Aの相克(1)

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スマホにみる見る電子部品サプライヤーM&Aの相克(1)ロームが見せた加速度センサーの買収戦術

「スマートフォン(スマホ)は最先端のテクノロジーの塊り」だと言っていい。スマホには、電子部品がところ狭しと詰め込まれており、iPhoneなど人気機種となればそのサプライヤーらの競争はさながら陣取り合戦だ。
 
スマホには実際、さまざまな電子部品が使われている。スマホが通話で使用中かどうかを見極める近接センサー、画面の明るさを調節する際に周囲の明るさを感知する照度センサー、ほかにもジャイロセンサーが使われており、スマホの主要な部品とサプライヤーを見れば、テクノロジーのM&Aの相克も見て取れる。

 M&Aによりその加速度センサーのサプライヤーとして存在感を増したのが、電子部品の大手サプライヤーの1社であるローム株式会社(ローム)だ。今回は、加速度センサーに焦点をあてM&Aにまつわるローム株式会社の動きを詳しく見てみよう。

■スマホに「不可欠」な加速度センサー

まず加速度センサーについてもう少しおさらいしよう。加速度センサーが搭載されており、デバイス自身の動きを感知する役割を担っており、われわれにお馴染みのスマホの動きの実現に欠かせない。

具体的には、スマホを縦向きから横向きに変えるとディスプレイの表示もクルっと、90°回転するが、スマホ端末の動きを検知したり、スマホそのものを動かして操作するゲームのコントローラー機能として働かせたりしているのが、加速度センサーだ。iPhoneなどスマホの内側でさまざまなコンピューティング処理を行うロジックボードと呼ばれる基盤に実装されている(下図)部品の一つでもある。

今では、タテ・ヨコ・前後の3方向の動きを検出できる、3軸加速度センサーが開発されているが、このセンサーにはいくつかの種類(系統)がある。機械式や光学式、半導体式に加えて、静電容量方式があり、微細な構造を作ることで特定の機能を作りだすMEMS(Micro-Electro Mechanical Systems)と呼ばれる部品の一つで、スマホでも多く採用されていた。

具体的には、静電容量方式の加速度センサーでは、数ミリメートル四方のチップの中に、デバイスの動きを感知するシリコン製の重り、シリコン製のバネが組み込まれ、流れる電流の利用して、加速度を計測する機能が搭載されている。そんなスマホ部品の一つだ。

■最も象徴的なカイオニクス社(Kionix)の買収

その中で、ロームは、加速度センサーも含めた半導体部品の製造能力を一貫して強化してきており、M&Aにも積極的だった。

2000年以降のM&Aは8社、9件(2009、2010年に、SiCウエハー製造の独・サイクリスタルの株式を相次いで取得。下表参照)を数え、半導体部品の供給体制を一貫してロームは強化し続けてきた様子を見て取れる。

ロームの近年のM&A

買収時期 買収先会社名 事業内容 取得価格(百万円) 備考
2015年7月 Powervation (アイルランド) クラウドコンピューティングや通信分野で活用されるサーバー、ネットワーク機器やストレージで使われるデジタル電源制御LSIの開発と販売 約86億8700万円 デジタル電源ICの独自技術を持つPowervationを完全子会社化。ロームはアナログ電源ICの開発販売を行っていた
2015年4月 ルネサス セミコンダクタ マニュファクチュアリング(日) 8インチのシリコンウエハーの製造と販売 - 8インチのフロントエンドウエハーファブリケーションラインをルネサスセミコンダクターから取得。ロームは滋賀工場の建物と土地を取得し、ウエハ―ファブリケーションラインのリースを受け、パワー半導体とピエゾ電子MEMSデバイスの製造機能を強化
2010年4月 SiCrystal (独) 家電や光学機器、センサーなどの用途に向けた
次世代パワー半導体の製造に使われるSiC(シリコンカーバイド)ウエハーの製造と販売
- SiCrystalの株式をさらに、25%取得
2009年10月 Kionix(米)
スマートフォンに搭載される微細加工技術のMEMSを用いた
加速度センサーなどの製造・販売
約208.3億円 世界を代表する米国 MEMS加速度センサのサプライヤーKionix(カイオニクス社)を買収
2009年7月 SiCrystal (独) 家電や光学機器、センサーなどの用途に向けた 次世代パワー半導体の製造に使われるSiC(シリコンカーバイド)ウエハーの製造と販売 - 独ジーメンスから74%の株式を取得し、SiCウエハーの供給機能を強化
2008年5月 OKI セミコンダクタ(日) システムLSI、ロジックLSI、メモリLSI、高速光通信デバイスの開発
製造・販売、ファンダリサービス
約1000億円 前身は沖電気工業の半導体事業部門。のちに「ラピスセミコンダクタ」社と名を改め、大容量のリチウムイオン電池の状態を監視するLSIの開発などに取り組む
2008年5月 Lumiotec(日) 照明用の有機ELパネル(OEL)の製造・販売 約14億円 三菱重工業、Mitsui & Co., Ltd、Mr Junji Kido、凸版印刷らと共同でジョイントベンチャーへ出資
2005年6月 Sonaptic(米) ノイズキャンセリングなどの携帯などに向けた
音響製品の開発と販売
- 2000年代前半にスタートを切った米ベンチャーの1社で、モトローラベンチャー、ペンテックベンチャーらもSonaptic Ltdの株式を保有していたが、ウォルフソン・マイクロエレクトロニクス(米)がSonapticを2480万ドルで2007年に買収した
2003年9月 LSI Logicの筑波半導体工場 半導体製品の製造工場 約26億5000万円 2013年には同工場の操業を停止

M&A Online編集部作成


その一環としてロームの傘下に入った企業で、最も象徴的なのは米国の半導体部品サプライヤー大手のカイオニクス社(Kionix Inc.)の取得で、ロームはこのカイオニクス社を約208億3000万円で2009年に買収。スマホ部品のうち加速度センサー市場で確かなシェアを確保する戦術だと見てとれて、スマホで使われる加速度センサーの供給体制で確かな橋頭保を築いたと言えるだろう。

カイオニクス社の買収から4年後の2013年にはスマートフォンと携帯電話向けの加速度センサーの出荷数量で、ロームは8.0%(テクノ・クリエイト推定)というシェアを占めていたとされており、市場での存在感も一気に拡大させた買収だったのではないだろうか。 

また2013年時点のスマホ向けの加速度センサー市場は、出荷量ベースで20億個、金額ベースでも1200億円という規模に達していたとの推計もあり、現在ではさらに、MEMS加速度センサーは、IT化・自動化の進む自動車にも数多く使われてきている。ロームの電子部品の供給先のさらなる拡大にもつながるかもしれず、今後の同社のM&A戦略にも注目だ。

文:M&A Online編集部

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