上場するグルメサイトRettyは禁断の成長エンジンに手を出すか

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2010年創業のRetty

野上浩太郎農林水産相は、Go To Eatキャンペーンのオンライン予約利用者数が、キャンペーンを開始後の10月1日から9日までで、558万人となったと発表しました。開始前は今一つパッとしなかったGo To Eatですが、思わぬ盛況ぶりに飲食業界が湧いています。

そんな中、Go To Eatど真ん中の銘柄となるグルメ情報サイト運営のRetty<7356>が10月30日に上場します。「ぐるなび」「食べログ」「ホットペッパー」の3強が立ちはだかる業界に、実名口コミで他メディアとの差別化を図りました。Rettyの有料契約店舗数は9,678で、ぐるなびの51,640、食べログの49,900と比較すると見劣りします。上場後の飛躍的な成長に期待はできるのでしょうか?

この記事では以下の情報が得られます。

・Rettyの業績とビジネスモデル
・ぐるなび、食べログ、Rettyの比較
・Rettyが隠し持つ成長の種

Zホールディングスが上場時に8億円分を買い増し

Retty実名口コミ
実名口コミで差別化を図る(画像は有価証券報告書より)

Rettyは2010年創業の会社で、ユーザーがFacebookと連携して実名で口コミをする点が最大の特徴となっています。実名方式によって、口コミ内容にユーザーが責任を持つため、食べログで一時話題になった”ステマ疑惑”を払拭できるのです。

スタートアップ界隈では創業当時から注目を集めており、ベンチャーキャピタルを中心に大型の資金調達を重ねてきました。現在の株主には錚々たる面々がそろっています。Zホールディングス<4689>傘下のYJキャピタルが13.12%、元フィデリティ・グロース・パートナーズ・ジャパンのEight Roads Ventures Japanが10.32%、グリー<3632>ベンチャーキャピタルであるグリーベンチャーズが7.19%保有しています。創業者の武田和也氏の保有比率は29.40%で30%を割っており、ベンチャーキャピタルからの出資割合が多いことが特徴です。

Rettyは特にZホールディングスとのつながりが強固。2018年にYJキャピタルから出資を受けた際、戦略的パートナーシップを構築し、両社が相互送客する協力関係を結びました。上場後、Zホールディングスは8億円分を買い増す意向を示しており、両社の関係はより強いものになると考えられます。

Zホールディングスは、飲食サービス「Yahoo!ロコ(旧Yahoo!ダイニング)」の利用者が伸び悩んでおり、グルメは弱い分野。一方で注力事業のPayPayにとって、利用者が拡大しやすい飲食店は魅力あるビジネスです。これは、楽天ポイントの経済圏拡大を狙ってぐるなび<2440>と資本提携した楽天<4755>の狙いと、極めて近い関係にあります。

2020年9月期は3億3,000万円の赤字

新型コロナウイルス感染拡大前のRettyの売上高は急成長中でした。2020年9月期は2.4%減の22億1,300万円と予想しています。2019年9月期は利益が出るようになっていましたが、それもコロナで赤字転落となりました。

■Retty業績推移(単位:百万円)

  2016年9月期 2017年9月期 2018年9月期 2019年9月期 2020年9月期予想
売上高 540 1,268 1,690 2,268 2,213
増減 - 134.8増 33.2増 34.2%増 2.4%減
経常利益 △593 △392 △221 99 △282
純利益 △596 △427 △230 155 △332

有価証券報告書より筆者作成

Rettyのビジネスモデルは大きく2つに分かれています。1つはFRMと呼ばれるもので、飲食店からの定額サービス利用料です。Rettyは飲食店情報だけを掲載して広告料を徴収する形ではなく、訪れた飲食店やフォローしている口コミユーザーなどの顧客情報を管理できる仕組みを構築しています。課金している店舗は、ユーザーの興味関心に合わせた精度の高い情報が提供できます。

もう一つが広告コンテンツです。Retty内に飲食店以外の広告を掲載し、ターゲットに合わせた広告の提案をする事業です。

2020年9月期第1四半期の売上6億4,000万円のうち、FRMは4億800万円(63.7%)、広告は2億3200万円(36.2%)となっています。飲食店からの課金に60%以上依存しています。

Retty2つのビジネスモデル
事業は大きく2つに分かれる(画像は有価証券報告書より)

次に「ぐるなび」「食べログ」との契約店舗数、ユーザー数の違いを見てみます。

■グルメメディア比較

メディア
有料契約店舗数 月間ユーザー数
Retty 9,678 43,930,000
ぐるなび 51,640 56,000,000
食べログ 49,900 92,830,000

決算説明資料、有価証券報告書をもとに筆者作成

有料契約店舗数は大手メディアが圧勝。ぐるなび、食べログともにRettyを5倍も引き離しています。一方、ユーザー数は食べログの9,200万が他を圧倒しているものの、ぐるなびとRettyのユーザー数の差は1,000万程度にまで縮まっています。Rettyは10年前に創業していますが、1996年にサービスを開始した歴史あるぐるなびのユーザー数に迫る勢いで伸びているのです。同様の口コミサービスにGoogleマイビジネスがありますが、実名口コミという点でRettyに分があります。

■Retty契約店舗数推移

Retty契約店舗数
契約店舗数はコロナで2019年末から減少したものの、底を打って反転した(画像は有価証券報告書より)


RettyはWeb予約課金に手を出すか?

他のグルメメディアが活路を見出し、Rettyが手を出していない事業があります。Web予約課金です。ぐるなび、食べログ、ホットペッパーは、それぞれのメディアでユーザーがWeb予約をした場合、毎月の広告料に加えて、飲食店から予約手数料を徴収しています。各社1予約あたり200円程度のものですが、月100件の予約で20,000円。1年間で24万円。Rettyの契約店舗数約10,000店で同じWeb予約数がとれれば、24億円の売上になります。現在のRettyの売上と同規模です。

Web予約課金はぐるなび、食べログともに次なる収益柱として注力している分野です。特にぐるなびはInstagramとWeb予約連携するなど、他メディアに先行して進めていました。

しかし、これには落とし穴があります。Web予約課金は飲食店のグルメメディア離れの種でもあるのです。

なぜなら、昔からこのWeb予約課金に対する猛烈な批判があるため。飲食店からすれば、Web予約手数料は何のメリットもありません。それならば、店舗でホームページを立ち上げ、そこから予約してもらった方がコストは低く抑えられます。しかし、飲食店はホームページ運用までには手が回らず、結局はグルメメディアに依存しているのが現状です。広告料を取られ、Web予約にまで課金され、飲食店はグルメメディアに搾り取られているという思いがあります。

一部の飲食店からGo To Eatはグルメメディアが儲かる仕組みで、飲食店は損をしているとの批判が噴出しています。これはGo To Eatキャンペーンが加盟する事業者(主にグルメメディア)経由のWeb予約に限ってキャンペーンの特別ポイントを加算しているためです。飲食店側からすれば、Go To Eatの予約が増えれば増えるほどWeb予約課金が取られる仕組みなのです。

しかし、RettyはGo To Eat期間中もWeb予約には課金しない方針を貫きました。店舗情報の登録も無料で行えます。これによって登録店舗数は増加するものと予想できます。事業拡大を望む株主と、飲食業界の繁栄を望む飲食店に挟まれたRettyがどのような判断を下すのか、注目が集まるポイントです。

Rettyの公開価格は1,180円で、前期のPERで70.74倍。吸収金額は63.7億円となっています。調達した資金は人件費や代理店の構築費用などに充当する予定です。営業力の強化に投資をし、契約店舗数を拡大した先の事業展開に期待できる銘柄と言えそうです。

文:麦とホップ@ビールを飲む理由