【2022年小売業界のM&A】セブン&アイの「そごう・西武」売却だけではなかった!

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セブン&アイ・ホールディングスが百貨店事業の売却を占めた(写真は西武池袋本店、東京都豊島区)

2022年の小売業のM&Aでは、セブン&アイ・ホールディングス(HD)による百貨店事業の売却がニュースをほぼ独り占めする形となった。セブン&アイは11月、傘下の「そごう・西武」(東京都豊島区)を米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに2023年2月に売却すると発表した。売却金額は企業価値2500億円をベースに有利子負債などを調整したうえで確定するが、2000億円超とみられている。

2000億円超、ニトリの島忠買収以来

セブン&アイは2021年7月に策定した中期経営計画で事業構造改革の完遂を掲げ、成長性の乏しい事業は売却を辞さない方針を打ち出していた。小売業で2000億円を上回るビッグディールは2020年に、ニトリホールディングスがホームセンターの島忠を傘下に収めて以来となる。

セブン&アイがミレニアムホールディングス(現そごう・西武)を買収したのは2006年にさかのぼる。グループのスーパー・コンビニ事業と百貨店事業の相乗効果を狙ったが、インターネット販売の広がりや少子高齢化の進展などで業績が振るわず、ここ数年は新型コロナ禍が加わり、最終赤字が3年連続していた。

売却先のフォートレスはソフトバンクグループ傘下で不動産分野を主軸とする世界的な投資ファンド。最近では、経営再建中の賃貸アパート事業大手、レオパレス21への投資実績で知られる。フォートレスは家電量販店大手のヨドバシホールディングスと組むことにしており、西武池袋本店(東京都豊島区)などの大型店にヨドバシが出店する見込みだ。

思い起こせば、2000年代は大手百貨店の経営統合が相次いだ。2007年に大丸と松坂屋がJ.フロントリテイリング、阪急百貨店と阪神百貨店がエイチ・ツー・オーリテイリング、2008年に三越と伊勢丹が三越伊勢丹ホールディングスを発足させた。そごうと西武は2003年にいち早く統合を実現したが、その3年後にセブン&アイの軍門に下った。百貨店ビジネスの大転換が求められる中、今度は外資のもとで再起を期す。

オリックス、DHC買収へ

金額は非公表ながら、オリックスが化粧品・健康食品大手のディーエイチシー(DHC、東京都港区)を買収する案件も消費者の関心を呼んだ。オリックスはDHC創業者の吉田嘉明会長兼社長から株式の過半を取得する契約を結んだ。完全子会社化する方向で、総額3000億円規模とみられている。2023年3月期中の買収完了を予定する。

小売業(百貨店・スーパー・コンビニ、ディスカウントストア、ドラッグストア・調剤薬局、衣料品小売り、その他小売)を対象とした2022年のM&A件数は66件で、前年より8件増えた。コロナ前後の2020年(77件)、2019年(72件)の水準には届いていない。

韓国のコンビニ事業から撤退したのはミニストップ。現地子会社をロッテ(ソウル)に304億円で売却した。ミニストップは1990年に韓国に進出。約2600店舗のコンビニを展開するが、近年、業績が低迷していた。日本やベトナムに経営資源を集中させる。

スーパーバリュー、ロビンの傘下に

スーパーをめぐっては同業間はもちろん、隣接するドラッグストアによるM&Aが引き続き活発だった。

埼玉県、東京都、千葉県が地盤のスーパーバリューは、神奈川県を中心にスーパー事業を展開するロピア・ホールディングス(川崎市)の傘下に入った。ロピアがスーパーバリューの第三者割当増資を23億円で引き受け、約33%だった持ち株比率を約52%に引き上げた。スーパーバリューは資本注入を受け、赤字体質からの脱却と財務基盤の安定を目指す。

業務用食品卸大手のトーホーは子会社で手がけるスーパー事業を、同業のコノミヤ(大阪市)に売却。最盛期の1980年代後半、兵庫県南部を中心に69店舗を展開し、スーパー事業は連結売上高の約4割を占めた。しかし、現在は店舗数が半減し、売上構成比も9%余りとなっていた。

一方、三越伊勢丹ホールディングスは高級スーパー「クイーンズ伊勢丹」の運営会社の株式66%を再取得し、完全子会社化することを決めた。2018年4月に三菱商事系投資ファンドに運営会社株式の66%を譲渡し、ファンド主導で経営立て直しを進めてきたが、事業再生に一定のめどがついたとして株式をすべて買い戻す。

クリスのアオキホールディングスは地場食品スーパーを対象に岩手県と石川県でM&Aを手がけた。同社は北陸を本拠とするドラッグストア大手。近年、大型店舗を中心に生鮮3品(青果・鮮魚・精肉)の取り扱いを強化しており、スーパー買収にアクセスを踏み込んでいるのだ。

ウエルシアはコクミンを子会社化

ドラッグストア約200店舗をグループで展開するコクミン(大阪市)を子会社化したのは業界最大手のウエルシアホールディングス。217億円を投じる大型買収だった。また、ウエルシアは沖縄県に進出するため、ドラッグストアなど25店舗を経営する「ふく薬局」(那覇市)を傘下に収めた。

■小売業を対象とする主なM&A(HDはホールディングスの略)

発表 内容
1月 ウエルシアHD、ドラッグストアチェーンのコクミン(大阪市)など2社を子会社化
ワールド、子供服大手のナルミヤ・インターナショナルをTOBで子会社化
ミニストップ、コンビニ事業の韓国子会社をロッテ(ソウル)に譲渡
2月 エービーシー・マート、セブン&アイ・HD傘下で総合スポーツ用品販売のオッシュマンズ(東京都新宿区)を子会社化
4月 三越伊勢丹HD、高級スーパー「クイーンズ伊勢丹」の運営会社を再子会社化
6月 三共生興、フランス発の婦人服ブランド「LOENARD」の運営会社を子会社化
7月 スーパーバリュー、神奈川県を中心にスーパーを展開するロピア・ホールディングス(川崎市)の傘下に
ウエルシアHD、ドラッグストアのふく薬品(那覇市)を子会社化して沖縄県に初進出
9月 サンドラッグ、四国でドラッグストア「mac」を展開する大屋(愛媛県西条市)を子会社化
ダブルエー、玉屋(大阪市)からレディースアパレル専門店「MISCH MASCH(ミッシュマッシュ)」事業を取得
10月 トーホー、食品スーパー子会社のトーホーストア(神戸市)を同業のコノミヤ(大阪市)に譲渡
11月 テレビ東京HD、ゴルフ用品ECサイト「アトミックゴルフ」運営のリアルマックス(広島市)を子会社化
セブン&アイ・HD、傘下の百貨店「そごう・西武」を米投資ファンドのフォートレス・インベストメント・グループに譲渡
オリックス、化粧品・健康食品大手のディーエイチシー(DHC、東京都港区)を子会社化

文:M&A Online編集部