東芝にとって「ラッキー」だった?臨時株主総会での2分割案否決

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臨時株主総会で「東芝解体」は回避された(Photo By Reuters)

「計算違い」はどちらだったのだろう?東芝<6502>なのか、アクティビスト(物言う株主)だったのか。3月24日に開いた東芝の臨時株主総会で、会社側が提案した「2分割案」が否決された。東芝の再建計画は白紙に戻る。東芝経営陣には大きな打撃と見る向きもあるが、果たしてそうか?

東芝の本音は「分割したくなかった

実は分割案に東芝経営陣は難色を示していた。分割案は「東芝解体」にほかならず、総合電機メーカーからの脱落を意味する。東芝のプロパー社員にとっては、受け入れ難い提案だった。にもかかわらず分割案が決定したのは、他ならぬ物言う株主の強い意向だった。

物言う株主は、東芝の株価が低迷している理由を「コングロマリット・ディスカウント」にあると考えた。コングロマリット・ディスカウントとは、多くの事業を手がける複合企業(コングロマリット)の企業価値が、それぞれの事業価値の合計よりも小さい状態を指す。

つまり、東芝を「切り売り」した方が、株式市場で高く売れるとの目論見だった。同社は2021年11月に発電所や交通インフラ、エレベーターなどを手がけるインフラサービス会社と、半導体やHDD、それらの製造装置を生産するデバイス会社、そしてキオクシアなどの保有株式を管理する会社の3社に分割する案を発表する。

しかし、同社は2022年2月7日にデバイス会社のみを切り分ける「2分割案」に変更。当時の綱川智社長兼最高経営責任者(CEO、現在は取締役会議長)は分割案の変更について、「2分割の方が財務体質は安定する。経営体制が三つから二つに減少することで規律あるガバナンス体制を実現しやすくなり、分割コストの削減やパートナー企業と連携がしやすくなるといった利点もある」と説明した。

だが、そんなことは3分割案が浮上した当時から分かりきっていたことだ。当時すでに東芝の再建案は同社経営陣の手を離れ、物言う株主主導で進んでいた。綱川前社長の説明が物言う株主の意見を代弁していたと考えれば、突然の方向転換も理解できる。

ともあれ、東芝にとってはプロパー社員が「最悪の結末」と恐れていた東芝解体という事態を回避することができた。「2分割案」の否決で胸をなでおろしている東芝関係者も少なくないはずだ。

否決の責任はファンドが送り込んできた社外取締役に

今回の臨時株主総会の「2分割案」否決で、東芝経営陣の立場が悪くなるとの報道もある。が、そうはならないだろう。株主に否決された「2分割案」を決定したのは綱川前社長だ。独シーメンスの日本法人副社長などを経て3月1日に就任したばかりの島田太郎社長兼CEOにとっては「前任者の決定事項」であり、「傷」がついたにしても軽い。

そもそも会社分割案は綱川前社長の発案ですらない。東芝解体を強く主張したのは、物言う株主の影響が強い社外取締役だった。香港の総合商社ノーブル・グルーブの元会長でKPMG時代にリーマン・ブラザーズのアジア法人清算を手がけたポール・ブロフ氏を委員長とする戦略委員会が「東芝解体案」を立案したのだ。

ブロフ氏と言えば、2019年の株主総会で物言う株主との協議を受けて就任した社外取締役の1人。2021年6月に同社と経済産業省が海外投資家に圧力をかけていたとする調査報告書を受け、定時株主総会で物言う株主と歩調を合わせて会社提案の取締役選任案に異議を唱えたことで知られる。

つまり臨時株主総会で否決されたのは、「東芝の再建案」ではなく「物言う株主の再建案」なのだ。「東芝解体案」を主導した社外取締役の任命責任から逃れるためか、「東芝解体案」に前向きとされた旧村上ファンド系のエフィッシモ・キャピタル・マネジメントは2021年11月に、「分割案への賛否は未定」と慎重な姿勢に変わる。2022年3月10日には「中長期的な企業価値の毀損(きそん)につながる可能性がある」として、臨時株主総会で反対する意向を明らかにしている。

物言う株主の「仲間割れ」は東芝にとって巻き返しの好機

物言う株主が主導した「2分割案」が他ならぬ物言う株主からの反対で否決されたことから、物言う株主間の対立と混乱が明らかになった。臨時株主総会ではシンガポールの資産運用会社である3Dインベストメント・パートナーズが提出した東芝株の非公開化を求める株主提案も否決されるなど、物言う株主も一枚岩ではない。

物言う株主の足並みの乱れは、東芝にとっては有利な状況といえる。物言う株主の切り崩しに成功すれば、東芝の意向に沿った方向で経営再建を進めることも可能だろう。何より物言う株主による経営の混乱に嫌気がさした一般株主からの支持を集めることが容易になった。

臨時株主総会では株主から「経営が混乱しているのは、社外取締役が特定の(物言う)株主の利益のために動いているからだ。会社の持続的な成長を考える(社外)取締役を選任すべきではないか」と、物言う株主に対する厳しい批判も出た。

物言う株主が持ちかけた「2分割案」の否決により、東芝主導の再建案を作成する余地ができたと言えそうだ。東芝がバラバラになった物言う株主をうまく制御して、長期的な成長戦略を立案し実行することも可能だろう。東芝にとっては「巻き返し」の好機なのだ。

文:M&A Online編集部

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