政府が2021年3月7日に期限を迎える1都3県の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大に伴う第2次緊急事態宣言を再延長する方針であることが明らかになった。政府は昨年末の感染拡大にもかかわらず消極的で、首都圏の1都3県知事らの「突き上げ」を受けて1月7日に再宣言した。
2月2日には栃木県を除く10都府県で3月7日まで延長。うち6府県は2月28日で解除されたが、残る1都3県は再延長される見通しだ。今回は1都3県知事も延長要請はしておらず、政府が先手を打って再延長に踏み出した。政府は、なぜあっさり再延長に舵を切ったのか。
政府が最も恐れているのは、3月から4月にかけて第4波の感染拡大があれば、今年夏の東京オリンピック・パラリンピックの開催が絶望的になること。ただでさえ今年6月末までに希望する国民全員に接種する予定だったコロナワクチンの入手が遅れ、外国人入場者の受け入れをしない方向での開催を模索している。
今年9月に開幕予定だったラグビーの女子ワールドカップニュージーランド大会も、コロナ禍により1年延期される見通し。東京五輪についてはトーマス・バッハ国際オリンピック委員会(IOC)会長が「再延期はない」と明言しており、今回の第3波感染を徹底的につぶすしか開催の可能性はない。政府としては最も感染者が多い1都3県で緊急事態宣言を再延長し、万全を期す構えだ。
2020年春の第1波では日本経済も大打撃を受けた。同4~6月期のGDPは前期比で7.9%減、年率換算で28.1%減の大幅な落ち込みに。同4月の新規求人数は前月比−22.9%、同月の百貨店の売上高は前年同月比-72.8%と、いずれも過去最大の下落を記録した。
この時の苦い経験があったから、政府は第2次緊急事態宣言を出し渋ったのである。最終的には知事たちに押し切られる形になったが、自粛は「クラスターの大半は会食」として飲食店に限定し、しかも第1次宣言で求めた休業ではなく午後8時以降の営業自粛に留めた。
その結果、大半の業種ではほぼ平常時と変わらない状況に近く、製造業を中心に業績は回復基調にある。財務省が発表した第3波にかかる2020年10~12月期の法人企業統計は、金融・保険業を除く全産業の経常利益が前年同期比0.7%減の18兆4505億円と7四半期連続のマイナスとなったものの、減少幅は同7~9月期の28.4%減から大幅に改善し、コロナ禍前の水準をほぼ回復した。
株価も2021年2月16日に3万714円52銭とバブル崩壊後高値を更新するなど、高水準で維持している。同1〜3月期も景気の大きな腰折れはないと見られ、「経済重視」の菅義偉政権としても緊急事態宣言を延長しても景気に与える悪影響は限定的と判断したようだ。
そして最も大きな要因が、国民が2度にわたる発出で緊急事態宣言に「慣れた」ことだ。第2次緊急事態宣言では、昨春の第1次で一斉休業した百貨店や大型小売店舗、映画館、劇場、プロスポーツ、スポーツジムなども、定員制限や営業時間の短縮はあるが営業は続けている。
春に発生したマスクや消毒用アルコールの品薄も見られず、マスコミやSNSを騒がせた一般人によるコロナ糾弾の「自粛警察」も鳴りを潜めた。そのため、自粛で深刻な打撃を受けている飲食業や宿泊・観光業を除けば、緊急事態宣言の早期解除を求める声は小さい。
緊急事態宣言を再延長しても社会的混乱は小さく、菅政権が国民から大きな反発を受ける可能性は極めて低い。このような判断から、政府はあっさり再延長の検討に入ったようだ。
とはいえ、1都3県では感染者の減少が鈍化している。コロナの第4波がなくても、緊急事態宣言の解除が4月以降にずれ込むことになりかねない。日本国民にワクチンが行き渡るのは夏以降にずれ込むのは確実で、感染力が極めて高い変異株が増加する懸念もある。
3月中に解除できなければ、東京五輪の開催は非常に厳しい。緊急事態宣言の延長でコロナ感染の「自然鎮火」を待つのが政府の狙いとすれば、リスクの高い選択といえそうだ。
文:M&A Online編集部